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「安く早く作れます」に飛びつく前に──IT外注を“契約”で守る

「AIを使えば、安く早く作れますよ」。最近、こういう提案を受けた経営者の話をよく耳にします。生成AI(文章やプログラムを自動で作るAI)が広まって、システムの試作が一気に身近になりました。ただ、私が話を聞いていて感じるのは、“安さ”そのものより“安さの形”に落とし穴がある、ということなんですよね。今日は、人を増やす前に外に出す——外注やシステム導入で会社を守るための、「契約の線引き」という地味だけどよく効く話を書きます。

トラブルの入口は「技術」ではなく「契約の曖昧さ」

システム開発の失敗というと、つい技術の問題だと思いがちです。でもデータを見ると、もめごとの入口はもっと手前にあります。

経済産業省の委託でまとめられた「情報システム・ソフトウェア取引トラブル事例集」では、そもそも契約書を結んでいない、あるいは作業範囲や責任があいまいなまま進めた結果、紛争に発展した事例が数多く取り上げられています。技術力ではなく、「どこまでやるか」をはっきりさせなかったことが、後のトラブルの火種になっているわけです。

さらに、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査2025」では、「予定どおり完了」したプロジェクトの割合は長期的に低下傾向、実績の工数は計画の約1.08倍に膨らみ、品質はむしろ低下のトレンド、という結果が出ています。

つまり、立派な会社が専門のエンジニアを並べて真剣に作っても、予定どおりにはなかなか進まない。だからこそ「何を・どこまで・誰が」を最初に紙で決めておくことが、体力の小さい中小企業ほど効いてくるんです。そして中小企業は、社内に「IT専任」がいないことがほとんど。提案された見積もりが妥当か、抜けがないかを社内で判断できないから「言われるまま」になりやすい。ここが大企業以上にリスクの大きいところなんですよね。

「初期費は半額、その代わり売上の○%」が危ない理由

最近よく聞くのが、初期費用をぐっと下げる代わりに、毎月の売上から継続的に分配を取る、という契約のかたちです。一見、お得に見えます。でも、ここはいったん立ち止まりたいところ。

たとえば「初期費は半額にします。そのかわり売上の20%を継続的にいただきます」と言われたとします。最初の負担は軽い。けれど事業が伸びれば伸びるほど、相手に払い続ける額は雪だるま式に膨らみます。しかも、その20%が「開発の対価」なのか「保守の対価」なのか「相談料」なのかが、ぼんやりしたまま。中身が分かれていない料金は、たいてい割高になり、あとから理由を確かめることもできません。

独立行政法人情報処理推進機構(IPA、国のIT専門機関)は「情報システム・モデル取引・契約書」で、開発を一本の契約で丸ごと請けるのではなく、企画・要件定義・開発・運用保守を工程ごとに分ける考え方を示しています。外注の契約を見るとき、最低限そろえておきたい線引きはこの3つだと思っています。①「作る(開発)」「直し続ける(運用保守)」「相談に乗る(コンサル)」を別々の契約に分ける。②値段は“一式”でなく、工程ごと・項目ごとに内訳を出してもらう。③同じ条件で必ず2社以上に見積もりを取り、比較できる軸を作る。

AIのおかげで“作る”こと自体は安くなりました。けれど、セキュリティや品質の保証、法改正への追随、トラブル時に誰が直すのか——この“作ったあと”の部分は、まったく安くなっていないんですよね。「AIで作れます」という人ほど、運用や保守を誰が持つのかを聞くと言葉に詰まることがあります。

相見積もりは「値切り」ではなく「比較軸づくり」

私は、相見積もりを“値切りの道具”だとは思っていません。同じ条件で2社に出してもらうと、金額よりも「何を含み、何を含まないか」の差がくっきり見えてくる。その差こそが、自社が本当に確認すべきポイントを教えてくれるんです。1社だけだと、その見積もりが高いのか安いのか、何が抜けているのかすら判断できません。

そして、その手前にもっと大事な作業があります。それは、頼む側が「何を任せたいのか」を先に言葉にしておくこと。ここが曖昧だと、どんなに腕のいい相手でも、ズレた物が出てきます。IPAも中小企業向けに「ストーリーで学ぶ要件定義実践入門」を公開していて、“上流(最初の決めごと)”のあいまいさが失敗を生む、と繰り返し説いています。

では、最初の一歩は何か

おすすめしているのは、頼みたい仕事を“動詞”で書き出してみることです。「受注を入力する」「写真を整理する」「請求書を作る」というように、作業のかたまりを一つずつ言葉にしていく。これがそのまま、外注先に渡す“注文書”の下書きになります。書き出してみると「これはAIに任せられる」「これは人に頼んだほうがいい」「これはそもそも要らない」と、自然に仕分けが進みます。立派な道具やAIを入れる前に、まず自社の仕事を一枚にしてみる。これが、安く早くに振り回されないための、いちばん地に足のついた準備だと思っています。

まとめ

「安く早く作れます」は、たしかに魅力的な言葉です。でも、その安さが“あとで効いてくる重さ”とセットになっていないか。契約を工程で分け、内訳を出してもらい、同じ条件で2社に当てる。たったこれだけで、外注は驚くほど守りやすくなります。次に見積もりを受け取ったら、まず「これは何の工程の、いくらですか?」と一言聞いてみてください。その一言から、対等な関係が始まります。

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