賃上げ83.6%時代の"しんどさ"──原資は"業務の棚卸し"から生まれる
2026年度の賃上げ実施予定企業は83.6%。東京商工リサーチの最新調査で、中小企業の賃上げが完全に「当たり前」になった一方、賃上げ率「5%以上」の企業は35.5%と前年度から低下しました(出典:東京商工リサーチ「2026年度の賃上げ」調査、2025年2月発表)。率が下がってきた──これは、賃上げを続ける体力が、もう限界に近づいている中小企業が増えてきたというサインだと私は受け止めています。今日はこの「賃上げ疲れ」の本当の正体と、原資をひねり出すために経営者が何から手をつけるべきかを考えたいと思います。
"しないと採れない、上げると苦しい"という二重苦
帝国データバンクの「2026年度の賃金動向に関する企業の意識調査」では、2026年度の賃金改善「ベースアップ」予定企業は58.3%で5年連続過去最高。総人件費が増加すると見込む企業は73.9%で、2016年度以降で最高水準になりました(出典:帝国データバンク 2026年2月発表)。
数字だけ見ると景気がいい話に見えるかもしれません。でも経営者の肌感はまったく逆で、「上げ続けないと人が来ない・辞める」「でも利益はそんなに伸びていない」という二重苦の中にいるはずです。実際、賃上げを実施しない企業の55.1%は「自社の業績低迷」を理由に挙げています(同・帝国データバンク調査)。
ここで立ち止まって考えたいのは、賃上げの「原資」はどこから出ているのかという問いです。原資のパターンは基本的に3つしかありません。
パターン1:売上を伸ばして原資を作る
パターン2:値上げして粗利を厚くして原資を作る
パターン3:業務を見直して人件費以外のコストと投下時間を削って原資を作る
多くの中小企業が今取り組んでいるのはパターン1と2です。ただ、人口減少の日本で売上を毎年伸ばし続けるのも、値上げを毎年お願いし続けるのも、どこかで壁にぶつかります。私がShakeHandsの事業で経営者の方とお話ししていて感じるのは、パターン3、つまり「業務を見直して原資を作る」という発想がまだ弱い会社が多いということです。
生産性の低さは"個人の問題"ではない
日本の時間当たり労働生産性は56.8ドル、OECD38か国中29位です(出典:日本生産性本部「労働生産性の国際比較2024」)。G7最下位が長く続いています。この数字を見て「日本人の働き方が悪い」と解釈するのは間違っていると私は思っています。
日本の従業員一人ひとりの勤勉さを疑う理由はありません。問題は、勤勉な人が「生産性の低い業務」にたくさんの時間を使わざるを得ない"仕組み"にあります。
中小企業白書でも指摘されている通り、中小企業の生産性のばらつきは大きく、上位10%の水準は大企業の中央値を上回っています(出典:2024年版中小企業白書 第3節 生産性)。つまり「中小企業だから生産性が低い」のではなく、「業務を整理している中小企業は生産性が高い」ということです。ここに賃上げ原資の鍵があります。
原資を生む"業務の棚卸し"──3つのステップ
では、何から始めるか。私が提案したいのは、賃上げの前に(あるいは賃上げと同時に)「業務の棚卸し」を実施することです。難しい話ではなく、以下の3ステップで十分始められます。
ステップ1:全業務の「時間」を可視化する
経理・総務・営業事務など、バックオフィスの全業務を洗い出して、「誰が・何に・月何時間かけているか」を一覧にします。エクセル1枚で十分です。毎日1時間かかっている作業は、年間で約250時間(250営業日換算)。時給換算2,500円なら、年間625,000円のコストがかかっている計算になります。
ステップ2:「必要・不要・削減」の3分類にする
可視化された業務を、「本当に必要な業務」「やめてもいい業務」「やり方を変えれば削れる業務」に分類します。だいたいの会社で、棚卸しをすると2割前後は「慣習でやっているだけ」の業務が見つかります。
ステップ3:削減した時間を「賃上げ原資」と「付加価値業務」に再配分する
削った時間は、単なるコスト削減で終わらせずに、社員の付加価値業務(顧客対応・企画・提案)に回します。この付加価値業務が売上・粗利に直結すれば、賃上げの原資が自動的に生まれます。
読者の皆さまへの問いかけ
ここで一度、自社の状況を思い浮かべてみてください。今年、来年の賃上げ原資を、どうやって作るか明確に答えられますか。そして、社員が月に何時間「やらなくてもいい業務」に時間を使っているか、把握していますか。
どちらかに「うっ」と詰まるなら、賃上げの前に業務の棚卸しが必要なサインだと思います。
まとめ:賃上げは"ゴール"ではなく、業務整理の"結果"
賃上げ83.6%時代に、賃上げをするかしないかで悩むフェーズはもう終わりました。問われているのは「どうやって持続的に賃上げできる会社を作るか」です。売上拡大と値上げだけで走り続けるのは、そろそろ限界が来ます。業務の棚卸しをして、生産性の高い仕組みを作ることが、賃上げを続けられる会社とそうでない会社の分かれ道になると私は考えています。
まずは自社の業務を1枚の表にしてみる。そこから次の一手が見えてきます。
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