「既存客との取引深耕」が経営課題2位──そのフォロー、社長の記憶に頼っていませんか
2026年の経営課題のデータを見ていて、ちょっと意外な数字に目が止まりました。帝国データバンクが経営層・マネジャー5,241人に聞いた「企業の経営課題に関するアンケート(2026年)」です。成長戦略のカテゴリーで一番多かったのは、新しい「販路開拓」60.5%ではなく、「既存顧客との取引深耕」66.0%でした(出典:帝国データバンク、2026年3月公表)。
売上を伸ばす一番の柱は、新しいお客様を探すことではなく、すでにお付き合いのあるお客様を深掘りすること。多くの経営者がそう考えている、ということなんですよね。今日はこの「既存のお客様」というテーマを、少し掘り下げてみたいと思います。新規のお客様は、既存のお客様の“5倍”コストがかかる
なぜ既存のお客様がそれほど大事なのか。これは気合いの話ではなく、よく知られた経験則があります。新しいお客様を1人獲得するには、既存のお客様を維持する5倍のコストがかかる――「1:5の法則」と呼ばれるものです。広告費も、初回訪問の手間も、信頼を一から積む時間も、すべて新規のほうが重い。逆に言えば、一度満足してもらえたお客様は、低いコストで次の仕事につながります。
さらに、満足したお客様は次のお客様を連れてきてくれます。あるマーケティング調査では、既存のお客様1人から平均0.67人の新規が紹介で生まれる、という数字も報告されています(出典:マーケティングデザイン調査・MarkeTRUNK掲載)。
この構造がもっとも色濃く出るのが、建設・リフォーム業です。工務店やリフォーム会社では、過去に工事をしたOB(既存)のお客様からのリピートが、件数で約7割、売上で5〜6割を占めるという事例も報告されています(出典:リフォーム産業新聞、船井総合研究所などの事例)。家は一度建てて終わりではなく、点検・修繕・増改築と長く続く。だからこそ、既存のお客様との関係が、受注の生命線になるわけです。「深掘りしたい」の裏にある、「できていない」という現実
ここで立ち止まって考えたいのは、なぜ「既存顧客との取引深耕」が“課題”として66.0%も挙がるのか、ということです。大事だと分かっているのに、できていない。だから課題なんですよね。
同じ調査では、規模の小さい会社ほど「販路を広げたいが営業力がない」「営業担当の配置や報酬が重要」といった人材面の声が壁になっている、と報告されています。既存客フォローも事情は同じで、「誰に・いつ・何を伝えるか」が、社長や一部のベテランの頭の中・机の上の名刺・古いExcelに散らばっている。これが多くの会社の実態ではないでしょうか。
頭の中に頼ったフォローは、その人が忙しくなった瞬間に止まります。担当者が辞めれば、関係ごと消える。引き継ぎにも膨大な時間がかかる。これは「気合いが足りない」のではなく、「仕組みがない」だけなんです。だから私が提案したいのは、既存客フォローを“営業の根性論”から外して、ひとつの「業務」として書き出してしまうことです。
実際、社員が10名近くになると、顧客情報が個人のExcelや机の上の名刺に散らばったままの管理は、“不便”を超えて“経営リスク”に変わる、とも指摘されています。担当者が急に休めば商談が止まり、ベテランが辞めれば顧客リストごと失われる――これは特別な会社の話ではありません(出典:Excel顧客管理に関する各種解説・BOXIL Magazine ほか)。「送り続ける」を、仕組みにできるか
経営者と話していると、紹介やリピートで上手く回っている会社ほど、そのフォローが社長一人の記憶に支えられている、と感じることがよくあります。
先日も、ある注文住宅の経営者の方とお話ししました。17年間、チラシも広告も一切使わず、紹介だけで受注を続けてきたそうです。秘訣を聞くと、特別なことはしていない、ただ月に一度、これまで出会ったお客様へ案内を送り続けているだけ、と。そして、こう続けました。「人は二度死ぬ。一度目は命が尽きるとき。二度目は、忘れられたとき。だから送り続けるんです」。この言葉が、妙に残りました。
新規を追いかける前に、まず既存の取りこぼしを止める。そのために、フォローを次の3つに分けて書き出してみるのをおすすめします。
誰に:これまでのお客様を1枚のリストに集める(名刺・記憶・個人のExcelを一元化する)
いつ・何を:接点のタイミングを決める(工事後の点検案内、季節の挨拶、引き渡し後◯年のフォローなど)
どう回すか:送る・記録する作業を標準化し、外注やAI(パソコンの定型作業を任せる仕組み)に乗せられる形にする
建設・リフォームの世界では、引き渡し後の定期点検そのものが、最大の営業の入口になる、ともよく言われます。点検で顔を出し、困りごとを拾い、次の修繕や増改築につなげる。この流れを“誰かの気づき”任せにせず、点検の時期が来たら自動でリストに上がる形にしておけば、受注のきっかけを取りこぼさずに済みます。
この「業務の書き出し」までやって初めて、フォローは人に依存しない仕組みになります。誰がやっても同じ水準で回り、社長が現場に出ていても止まらない。ここから先は、外の手やツールに任せられる部分が、自然と見えてくるんですよね。まとめ:記憶から、1枚の業務へ
「既存顧客との取引深耕」が経営課題の上位に来る時代です。でも、その答えは新しい根性でも、大きなシステムでもありません。今あるお客様との接点を、社長の記憶から「1枚の業務」へ移すこと。たったそれだけで、フォローは止まらなくなります。
御社の既存客フォローは、もし社長が1ヶ月不在でも、回り続ける形になっているでしょうか。もし「自分が止まれば止まる」なら、まずはそこから、一緒に書き出してみませんか。あわせて読みたい
「一式」ではなく分けて頼む。発注の解像度を上げる話です。
外注も既存客フォローも、組む前の“1枚”が効きます。
書き出した先に、外注やAIに乗せる順番の話。
https://note.com/mino11293/n/nc8f4cacc6bd5
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