「口約束の外注」がいちばん高くつく──雇わない経営ほど、組む前の「1枚」がいる
2024年11月、フリーランス(特定の会社に属さず、仕事ごとに契約して働く人)と取引する会社のルールを定めた「フリーランス・事業者間取引適正化等法」、いわゆるフリーランス新法が施行されました。あれから1年半余り。それでも、公正取引委員会と厚生労働省が施行前に行った実態調査では、「取引条件を明示しなかったことがある」と答えた割合が、仕事を委託する側で17.4%、フリーランス側では44.6%にのぼっていました。「とりあえずお願い」という口約束の外注が、まだ当たり前のように残っているんですよね。
「雇わない経営」が、静かに広がっている
最近、人を雇わずに事業を回す会社が、本当に増えました。私自身も従業員のいない一人の会社をやっていますし、商談でお会いする方にも、個人事業主や小さな会社で、業務ごとに外の人と組んで回している方が多くいます。
データを見ても、その流れははっきりしています。
2024年の日本のフリーランス人口は1,303万人、その経済規模は20兆3,200億円(出典:ランサーズ「フリーランス実態調査 2024」)
中小企業のBPO(経理や総務などの業務を、まとめて外部の会社に任せること)導入率は12.9%(出典:パーソルビジネスプロセスデザイン「中小企業におけるBPO・業務代行の導入に関する実態調査」2025年)
雇わない経営のいいところは、固定費を抱え込まずに済むことです。仕事の量に合わせて、必要なときに必要な人と組める。人手不足の時代に、とても理にかなった形だと思います。
ただ、ここに落とし穴があります。組む相手が増えるほど、「誰に・何を・どこまで頼んでいるのか」が曖昧になりやすいんです。
しかも、外注する相手はBPOの会社だけではありません。ホームページを作ってくれる人、経理を見てくれる人、SNSの運用を任せる人——その多くは個人か、ごく小さな会社です。相手が大きな組織でない分、契約書をきっちり交わすより「メッセージのやり取りで決める」ことが多くなります。手軽さは大きな魅力ですが、その手軽さが、そのまま曖昧さにつながりやすいんですよね。
雇った社員なら、毎日顔を合わせて仕事の範囲を確かめ直せます。でも外の人とは、最初の取り決めがほぼすべて。そこが口約束だと、後でほころびます。
法律は「最低ライン」を引いてくれた
フリーランス新法は、まさにこの「口約束」にメスを入れた法律です。
いちばんのポイントは、外注するときに取引条件を「書面か、メールやSNSのメッセージなど、形に残る方法」で示すことが義務になったこと。口で伝えるだけはNGになりました。示すべき項目は決められていて、主なものは次のとおりです。
委託する業務の内容
報酬の額
報酬の支払期日
契約をした日 など
さらに見落とされがちなのが、この義務は「従業員を雇っていない事業者」にも及ぶことです。つまり、自分が一人で仕事をしているフリーランスであっても、別のフリーランスに何かを頼めば、条件を形に残して渡す義務があります。
そして、これは「努力目標」ではありません。法律に違反すれば、公正取引委員会などが助言・指導・勧告を行い、それでも従わなければ命令、命令にも違反すれば50万円以下の罰金まで定められています(出典:公正取引委員会・厚生労働省「フリーランス・事業者間取引適正化等法の概要」)。
ただ、ここで少し立ち止まって考えたいことがあります。法律で決められた項目を書面にすれば、それで本当に安心なのでしょうか。
揉めるのは、たいてい「範囲」が曖昧なとき
私は、法律はあくまで「最低ライン」だと思っています。
実際に外注で揉めるのは、報酬や支払日が書いていなかったから、というよりも、「業務の範囲」が曖昧だったときです。「ホームページを作ってほしい」とお願いしたつもりが、相手は1ページのつもり、こちらは5ページのつもり。「経理をお願い」と頼んだら、入力まではやってくれたけれど、月次の締めは含まれていなかった。——こういう「言った・言わない」のすれ違いは、決められた書面があっても防げません。
正直に言うと、私自身もパートナーと組むとき、つい「だいたい、こんな感じで」と口頭で済ませてしまうことがありました。それで認識がずれて、相手にも自分にも、余計な手戻りが生まれる。反省しているところです。
ではどうするか。私がおすすめしたいのは、人に頼む前に、自社の業務を一度「1枚」に書き出してみることです。
その仕事は、どんな工程に分かれているか
それぞれの工程を、誰がやるのか(自社か、外注か)
どこまでが頼む範囲で、どこからが自社の責任か
その工程が止まったら、誰が困るのか
これを先に整理しておくと、外注の条件は驚くほど明確になります。法律で求められる明示項目も、自然と埋まっていきます。順番が逆なんですよね。書面を作るのが先ではなく、業務を分けるのが先なんです。
もう一つ、書き出しには大事な効果があります。工程を並べてみると、「この仕事は外に出していい。でも、これは自社に残すべきだ」という線引きが見えてくることです。自社の強みの核になる工程まで、よく考えずに外注してしまうと、安く・早くなった代わりに、会社として大切なものが手元から抜けていきます。何を渡して、何を渡さないか。それを決められるのは、業務を分けて眺めた経営者だけなんです。
雇わない経営ほど、最初の「紙1枚」がいる
人を雇わずに、外と組んで事業を回す。これはこれからの中小企業にとって、ますます当たり前の選択肢になっていきます。だからこそ、組み方の質が、そのまま経営の質を左右します。
フリーランス新法は、その第一歩を後押ししてくれる法律です。でも、本当に事故を防ぐのは、法律で決められた書面そのものではなく、その手前にある「自社の業務を分けて、見える形にしておく」という、地味な作業のほうだと思っています。
新しい人と組む前に、まず自分の仕事を書き出してみる。御社がいま「外にお願いしている仕事」、その範囲を、紙1枚で説明できますか。もしすぐに説明できないとしたら、そこが、次の一歩のはじまりです。
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