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クラウド会計38.4%時代──中小企業が紙の経理を10年抜け出せない3つの理由

MM総研が2026年4月に発表した調査で、個人事業主のクラウド会計ソフト利用率は38.4%──前年(38.3%)からわずか0.1ポイントの増加にとどまり、ほぼ足踏み状態であることが明らかになりました。一方で、帝国データバンクの最新調査によれば、2025〜2026年にIT投資を計画している企業は88.8%にのぼり、最も導入比率の高いシステムは「経理・経費・会計システム」です。投資意欲は高い、課題も明確、それなのに実装が進まない。経営者と話していて私が痛感している、紙の経理から抜け出せない3つの理由を整理してみます。

数字が示す「投資意欲と実装のギャップ」

まず最新の数字を並べます。

【クラウド会計ソフトの利用状況】

  • 個人事業主の利用率:38.4%(前年38.3%)

  • 副業・不動産賃貸収入者の利用率:33.9%

  • 2027年の所得申告(2028年)でデジタル化を促す税制優遇強化、近い将来40%到達見通し

  • 出典:MM総研「クラウド会計ソフトの利用状況調査(2026年3月末)」2026年4月公表

【個人事業主向けクラウド会計シェア(2026年3月末)】

  • 弥生:54.0%

  • freee:25.1%

  • マネーフォワード:15.7%

  • 上位3社で94.8%

【企業のIT投資動向】

  • 2025〜2026年にIT投資をする企業:88.8%

  • 最も導入比率が高いシステム:経理・経費・会計システム

  • IT投資の主目的:ハードウェア更新69.3%、ソフトウェア更新52.6%

  • 出典:帝国データバンク「企業のIT投資動向アンケート」2025年9月調査・有効回答1,035社


電子帳簿保存法(電帳法、紙でやり取りした取引データを電子で保存することを義務付ける法律)の完全義務化から、本記事執筆時点で約2年4か月が経過しました(完全義務化日:2024年1月1日)。にもかかわらず、東京商工会議所が2024年5〜6月に実施した「中小企業におけるインボイス制度、電子帳簿保存法、バックオフィス業務の実態調査」では、規模が小さくなるほど「制度をよく理解できず未対応」の割合が高い、という結果が出ています。同じ調査で、業務負荷が「大幅に増加した」15.7%、「やや増加した」51.9%、合計約7割が負荷増を実感している。投資する気はある、対応の必要性も理解している、でも進まない。これは経営者の能力の話ではなく、構造の話だと私は思っています。

中小企業が紙経理から抜け出せない3つの理由

私が経営相談を受けて見えてきた、紙の経理が残り続ける構造的な3つの理由をお伝えします。

第一に、経理業務の属人化です。多くの中小企業では、長年経理を担ってきたベテラン担当者が「紙のフロー」を握っています。請求書がいつ来て、誰が承認して、どの引き出しに入って、いつ仕訳に反映されるか、これらの暗黙知が一人の頭の中にしかない。クラウド会計に切り替えるということは、この暗黙知をいったんすべて言語化することを意味します。これが想像以上に重い。

第二に、税理士との関係性です。長年お世話になっている税理士事務所が、必ずしもクラウド会計に対応しているとは限らない。経営者の立場で「先生、freeeに変えますね」と言いづらい。税理士側もクラウド導入の知見がなければ、現状維持を勧めがちです。会計ソフトの選定と税務顧問契約は、本来別の話なのに、実態としては強く結びついています。

第三に、業務全体の見える化ができていないことです。経理は会社の業務フローの末端にあります。営業が見積書を作り、現場が納品し、請求書を発行し、入金を確認し、仕訳に落とす。この一連の流れが見えていないと、どこからクラウド化すべきか判断できない。「クラウド会計にすればラクになる」と聞いても、自社のどの業務が変わるのか想像できない。だから動けない。

私の見方──順序を間違えると必ず失敗する

クラウド会計の導入相談で私が必ずお伝えするのは、「先にツールを決めない」ということです。

経営者の方とお話していて感じるのは、ツール導入の話が「DXコンサルから提案されたツール」「補助金が使えるツール」「同業者が使っているツール」を起点に始まることが多いという点です。しかし、業務の流れが見えていない状態でツールを入れると、結局そのツールに業務を合わせるか、ツールを使わなくなるかのどちらかになります。

順序は逆だと思っています。

順序の例を挙げます。最初に業務整理(業務の流れと担当者を見える化する)、次に課題の特定(どこに時間がかかっているか、どこで属人化しているかを洗い出す)、その次にツール選定(課題解決に合うツールを選ぶ)、最後に運用設計(誰が、いつ、どう使うかを決める)。この順序で進めることで、ツール導入後に「思ってたのと違う」が起きにくくなります。私自身も合同会社ShakeHandsを2025年12月に立ち上げてから、当初は法人口座と個人口座が完全に分離できていない状態が続いていました。会計のフローが固まる前にツールだけ入れても、結局運用が回らない。この経験は中小企業の経営者と全く同じだなと感じています。経理のクラウド化は、単なるソフトウェアの入れ替えではなく、業務の棚卸しそのものなんですよね。

帝国データバンクの調査で「会計ソフトが最も役立っている」と答える企業が多いのも、業務全体の流れが先に整理された会社だけだと考えています。同じソフトを入れても、使いこなせる会社と使いこなせない会社がある。違いは「業務の見える化」が先にあったかどうか、それだけだと思っています。

みなさんの会社では、経理業務のフローを書き出したことはありますか?「うちはアナログだから」と諦める前に、まず一度書き出してみると、思っていた以上に「クラウド化できる部分」と「人がやるべき部分」が分かれて見えてきます。

まとめ

クラウド会計38.4%という数字は、ツールの問題ではなく、中小企業の業務構造そのものの問題を映しています。投資意欲88.8%との差を埋めるのは、新しいツールの登場ではなく、業務整理を先にやれる外部の伴走者の存在だと私は考えています。経理担当者と税理士、経営者の三者の利害を整理し、業務フローを言語化する。地味ですが、ここを飛ばすと何度ツールを変えても紙は減りません。来年の確定申告までには、と思っている経営者の方は、ツール選定の前に、業務の棚卸しから始めてみてください。


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