見出し画像

特大のタラバガニが届いた日のこと

今日6月22日は「かにの日」。かに座の始まりの日で、50音でも「か」が6番目、「に」が22番目にあたるそうです。

記念日にちなんで、執事のビルビルとかにの話をするマンガを描きました。由来を語ろうとするビルビルの横で、私はかにを前に完全に沈黙します。

——で、このマンガを描きながら、本物のかにを前にした日のことを思い出していました。あれもやっぱり、言葉より、かにだった。

叔父から箱が届いた。開けると、特大のタラバガニが入っていた。脚を広げると、私の腕より長い。

母もカニが好きだ。私も好きだ。届いたその日に、さっそく茹でて食べはじめた。

殻を割っていると、足元で視線を感じる。猫だ。少し離れたところに座って、こちらをじっと見ている。目が半分閉じている。あの、何かを訴えているようで、訴えていないような顔。ジト目というやつである。

あげられない。カニは猫に良くないと聞いたことがある。それでも見られ続けると、こちらの分が悪い。身を米粒ほどほぐして、皿の端に置いた。猫は一瞬で食べて、また同じ顔に戻った。おかわりを要求しているのか、足りないと言いたいのか。表情は変わらない。

私は私で、せっせと食べた。脚を二本、三本。身が太い。バターのような甘みがある。

ところが、四本目あたりで、舌が止まった。

飽きたのである。あんなに好きなのに。脚を持ったまま、しばらく考えた。好きなものでも、量には限界があるらしい。母を見ると、母もどこか遠い目をして、緑茶を飲んでいた。

残ったカニは、その夜のうちに身をほぐした。指がカニの匂いになる。ほぐした身を冷蔵庫に入れ、翌日チャーハンにした。卵と長ねぎと、カニ。これが、飽きたはずなのに普通に食べられる。形が変わると、舌もだまされるものらしい。

後で知ったのだが、タラバガニはカニではなく、ヤドカリの仲間なのだそうだ。脚の数を数えると、カニより一対少ない。

カニだと思って二日かけて食べたものは、正確にはカニではなかった。まあ、おいしかったので、どちらでもいい。猫だけが、最後まで納得していない顔をしていた。


いいなと思ったら応援しよう!

三毛野たま@AI漫画 記事を読んでくれてありがとうございます。気が向いたら、チップで応援していただけると、次の漫画やエッセイを描く力になります。