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二十二年の白

6月17日は、ムムターズ・マハルの忌日だそうです。インド、ムガル帝国の皇帝シャー・ジャハーンの妃。彼女のために夫が建てたのが、あの白い建物、タージ・マハルです。

二十二年かけて建てた、と聞いて、最初は単純に「すごい愛だなあ」と思いました。世界一の愛の証、なんて呼ばれ方もしますし。でも、この話には続きがあります。

晩年、シャー・ジャハーンは息子に幽閉されます。閉じ込められた城は、川をはさんでタージ・マハルの対岸。彼は死ぬまで、自分が建てたその白い墓を、遠くから眺めて暮らしたそうです。手は届かない。ただ、見える。世界一の愛を建てた本人が、最後はそれを眺めるだけになった。

この「眺めるだけ」というところで、なんだか胸の奥がしんとしました。愛って、近くで触れて、抱きしめて、そういうものだとばかり思っていたけれど、遠くから見ていることしかできない愛もあるんだなと。しかも、それを建てたのは自分なのに。

夜、窓を開けてお酒を飲んでいると、長崎の港にぽつぽつと灯りがにじみます。対岸の山にも、ひとつふたつ。その灯りを見ていたら、川の向こうの白い墓を眺めていた皇帝の話と、なんだか重なってしまいました。遠くにある灯りは、近づけないからこそ、きれいに見えるのかもしれません。

そんな話を、神様と一杯やりながら聞きました。切ない話のはずなのに、神様は「眺めるものがあるだけ、ましさ」なんて言って、しれっとおかわりを要求してくる。湿っぽくなりかけた空気が、それでふっとほどけました。たぶん、それくらいでちょうどいいのだと思います。

今夜、もし窓の外に灯りが見えたら。手の届かない誰かや、もう戻れない何かを、ひとつ思い出して、一杯どうぞ。



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