新宿梁山泊 第79回 唐十郎初期作品連続上演 『愛の乞食』 & 『アリババ』(配信版)
2025年6月14日(土)~7月6日(日)@新宿 花園神社境内 特設紫テントにて行われたものの配信映像。年末年始は色々が劇団が配信を行うご時世で追っかける方もうっかり大変ですが、唐十郎の世界をもっと知りたいのだから仕方がない。
作 唐十郎
演出 金守珍
主演 安田章大
出演 金守珍 水嶋カンナ 藤田佳昭 二條正士 宮澤寿 柴野航輝 荒澤守 宮崎卓真 原佑宜 寺田結美 若林美保 紅日毬子 染谷知里 諸治蘭 本間美彩 河西茉祐 芳田遥 町本絵里 森岡朋奈 とくながのぶひこ
今回はこちらの方のnoteが、他の唐作品の解説から何からとても勉強になった。もう書き足すこと等ないのかもしれないが、補足となるようなことを自分の記憶のためにも書き添えておきたい。
『アリババ』
まずはこちら。1966年、状況劇場にて初演。堕胎手術を受けた夫婦の話である。
劇中、亡骸を隅田川に捨てたというような話が出てくるが、戦後すぐの時分には、こうした生活苦からお腹の中の胎児を取り出して川に流すようなことが実際にあったのだろうか。
調べると、1945年3月10日の東京大空襲の後、数日間は川に死体が流れていたようだ。時期的には唐十郎がちょうど5歳になったばかりのこと。出身は現在の東京都台東区下谷ということだから川の程近くでもある。唐は疎開していたようなので直接は目撃していないように思うが、少なくともこうした話は聞いていたのではないか。
安田章大演じる宿六は、劇中ずっと黒い馬の到来を待ち侘びている。この「馬」についてはまず🐧さんのnoteに依拠したい。
(ジョン・シルバーは *引用者補足)有名作品に出てくる海賊です。唐さんの作品においてはおそらく「スーパーヒーロー」なのか「青い鳥」なのか「悪魔」なのか「救世主」なのか、とにかく「この人が現れたら今までのすべてがガラッと変わる!」みたいな存在として描かれています。なんだかわからないけど、とにかくすごくて有名な人。でも、誰も姿を見たことがない。実在するのかもわからない、都市伝説のような人物。つまりモチーフとして使われている感じです。<…中略>
そしてこのテーマは『アリババ』にも通じています。現実から目を背け、ただひたすら「黒い馬」を待っている宿六。彼にとっての「黒い馬」も、ゴドーやジョン・シルバーのように、「ソレが来さえすれば一発逆転が叶う」存在なんだと思います。
そしてこの『アリババ』では、堕胎された娘が探していた「黒い馬」ではなく「赤い馬」に乗って、同じように堕胎された子どもたちと共に帰って来る。「黒い馬」と「赤い馬」について今度はこちらの方のパンフの引用をお借りするとしよう。
「男」が語るこの走る「黒い馬」は、(中略)「女」によって代表される日常の静止画、無時間的な世界に真向から対立する、いわば世界の真実を一挙に開示してくれる存在であり・・・
(中略)「男」が追い求める冒険的な「黒い馬」に対立して、それを「赤い馬」にすりかえようとはかるのが、「女」と「老人」、そして「老人」によってひきいられる三人組の堕胎児たちだ。
そしてその馬のすり替えが往々にして起こるのが「ここはアリババ 謎の街」ということになる。これを唐十郎は大島渚『新宿泥棒日記』でも歌っていたようで…
映画『新宿泥棒日記』でここはアリババ謎の街〜と歌っている唐十郎さんを観た時の衝撃は忘れません。
— ふうちゃん (@mariko43rie49) May 5, 2024
子供のようなピュアな眼差しに魅了されたのはいつのことだったか…。
心よりお悔やみ申し上げます pic.twitter.com/LcBDzNyszy
こちらでしょうか。
『愛の乞食』
1970年初演。公衆便所を朝鮮キャバレー「豆満江」として占拠する愛の乞食こと、「尼蔵(みどりのおばさん)」の話。
大輝丸事件
劇中でも言及されていたが、この話の下敷きにあるのはまず「大輝丸事件」である。是非、wikiをご覧になって欲しい。とんでもない事件である。
大輝丸事件(だいきまるじけん)は、1922年(大正11年)に発生した、日本の海賊による外国人殺害事件である。「尼港事件の復讐」の名のもとにロシア側の民間船を次々と拿捕して積み荷を略奪したうえ、それらのロシア人、中国人等の乗組員を殺害、犠牲者は少なくとも十数名にのぼるとみられる。
尼港事件
事件の発端は、大輝丸事件の2年前に起きた尼港事件に遡る。今回、金守珍が演じていた尼蔵という役名は、この尼港から取られたのだろう。
本事件より2年前の1920年(大正9年)、当時は日本のシベリア出兵のさなかであったが、ロシア沿海州の都市・ニコラエフスクが赤軍に占領された。日本軍守備隊・日本人居留民らがこれに対し蜂起、赤軍を襲撃したものの、パルチザンの反撃を受け、最終的に日本人軍民はほぼ全てが殺害され、多数の白軍派のロシア人住民も虐殺されるに至った。いわゆる尼港事件である。この事件では婦女子も含めた在留日本人700人がほぼ全滅したことで、当時の日本社会は反露感情に沸き立った。日本側は当時のソ連に対し、この事件に対する賠償を求めて北樺太を保障占領した。しかし、この年の春頃になるとシベリア出兵自体の撤兵気運が高まり、1922年10月日本軍のシベリア撤兵が決まっている。(撤兵が全て完了するのは1925年となる)
そして、大輝丸事件の首謀者である江連について。
首謀者・江連(えづれ)力一郎(1887年12月31日 - 1954年10月15日、当時34歳)は茨城県結城町(現・結城市)出身、海城中学卒・明治大学中退のちに入隊した陸軍軍曹である。彼は柔道、剣道、合気道など各武術に長け、段位は合計で30段に達し、道場を開いていた。そんな彼は尼港での惨劇にもかかわらず折からシベリア撤兵の気運が高まっていることに悲憤慷慨し、復讐を決意し、決行の機会をうかがっていたとされる。
憂国の士といえば、そうかもしれないが、とんでもない人がいたもんである(しかも中学の先輩か…)。
ここでの"砂金採取"という偽りの口実が、朝鮮人の金歯を抜くという形となって、1923年の関東大震災後の朝鮮人虐殺事件にもイメージで接続していると思われる。その意味では、唐によって"大正"の世が振り返られた作品とも言えるだろうか。
※作家の小堺昭三が、1976年にこの「大輝丸事件」事件を題材にした『赤い風雪』を執筆したとwikiにあるが、これは状況劇場による初演から6年後のこと。偉大なる作家(唐)は題材の発掘にも優れているのだなと。
イメージの連続と野田秀樹への架橋
あと、今回この演目を観ていて強く感じたのは、野田秀樹の先に唐十郎があったということ。唐十郎は音をきっかけに舞台上のイメージを瞬間的に切り替える一方、野田秀樹は言葉遊びの中から言葉をきっかけに舞台上のイメージを瞬時に変えていく。
後述するメイキング映像でも、演出の金守珍は「音をまず決める」という話がなされていたが、演劇史を順番に見ていくことでしか分からないこともあるよな…と今回感じた次第。(勉強が全然足りてません)
メイキング
さて、今回の配信ではAX-ONによるメイキングまで付いており、こちらも鑑賞。新宿梁山泊という集団の特殊性を感じられて、とても良いコンテンツだった。
まず、美術も衣装も小屋さえも自分たちで作るというその様子。建込み前には金守珍が皆にうなぎを振る舞うという、集団の"お父さん"かのような感じで親近感が持てた。映像の中で研修生の若い子が「伝統ある紫テントを作る一員になれて嬉しい」と話していたのも印象に残った。
自分が敬愛するSCOTでも、海外公演の様子などを追った映像などを是非見てみたい。(現地の海外メディアであればやってくれるのでは…?などとも思ったり)
(2026年1月16日鑑賞)
