【小説・ヴィーナス症候群】[786]宇宙スープ虫よけ
浪速大学研究倫理審査委員会事務局。
受付カウンターに座る薮内蘭は、今日も書類の山と向き合っていた。
「失礼します!」
ドアが開くなり、農学研究科の今村准教授が勢いよく入ってきた。
白シャツにネクタイ、肩掛けバッグ、そして両手に持った魔法瓶とアルミパック。
「今度の研究は本当に画期的なものなのです!」
蘭は内心で舌打ちをした。
入るなり、こんなことを言う奴の研究は決まってヤバい。(本編545話・563話・584話)

今村はカウンターに近づき、興奮気味に説明を始める。
「宇宙食の開発です! 長期滞在用の完全栄養スープ。管理外の昆虫混入リスクをゼロにするため、ハーブ由来の強力虫よけ成分を高配合。そして——」
彼は透明なボトルに粉末を入れ、魔法瓶のお湯を注いだ。
「暗い船内でもすぐに見つけられるよう、食用発光成分を入れてあります!」
蘭が「書類をまず……」と言う間もなく、今村は部屋の照明をパチンと消した。
ボワッ……
ボトルの中で、淡い青緑色の光がゆらゆらと浮かび上がる。
まるで小さな銀河がスープの中に閉じ込められたようだった。
「見て、光ってる」
今村が得意満面で言った。
蘭の義肢の指が、思わず止まる。
発光するスープをじっと見つめた。
(……それ食うて美味しいんかな……)
心の中でツッコミを入れたが、口には出さなかった。
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