【小説・ヴィーナス症候群】(584)透視できるコンタクトレンズ
浪速大学研究倫理審査委員会事務局。
午後の事務室は、いつも通り静かだった。
今日回ってきた申請書の束、その中の一通に、藪内蘭は一瞬で嫌な予感を覚えた。
「……医学研究科 医工学教室、池田助教?」
ほどなくして、当の本人が事務室に入ってくる。
「いやあ、今回は本当に画期的なんですよ!」
開口一番、池田助教は興奮気味だった。
蘭は内心でつぶやく。
(絶対あかんやつや……)
「これはですね、透視能力を持たせたコンタクトレンズなんです」
池田はホワイトボードに図を描き始める。
特殊波長、画像再構成、視覚補助、診断応用――
専門用語が次々に並ぶ。
説明だけ聞けば、確かに「最先端医工学」だ。
蘭はうなずきながらも、ペンを持つ義手に力が入る。
池田は満足そうに説明を終えると、ふっと笑ってこう付け加えた。
「まあ、なんなら――事務局員さんのパンツの色だって分かりますけどね」
一瞬、事務室の空気が凍った。
蘭は即座に顔を上げる。
「ちょっと!あかんて!セクハラですよ!」

