仕事中にかかってくる、保育園からの電話
資料を見ながら、会議の内容をメモしていた。
人事の打ち合わせは、気を抜くとすぐ流れていく。
どのポジションをいつまでに埋めるか。
誰が面接に入るか。
そんな話をしている途中で、スマホが小さく震えた。
画面を見る。
「○○保育園」
その文字が見えた瞬間、頭の中で何かが切り替わる。
まだ電話には出ていない。
何があったかも分からない。
それなのに、
午後の面接どうしよう。
誰にお願いできるかな。
この時間の学生対応は動かせるか。
病院の受付時間は間に合うだろうか。
熱は何度だろう。
娘は今どんな顔をしているだろう。
数秒前まで採用の話をしていたのに、頭の中はもう別の場所にいる。
保育園からの電話は不思議だ。
着信はほんの数秒なのに、その後の一日を全部変えてしまう。
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娘が保育園に通い始めてから、保育園からの電話は何度も受けてきた。
発熱。
嘔吐。
転んで口を切った。
お昼寝のあと元気が戻らない。
理由はいろいろある。
もちろん先生たちも、簡単には電話しない。
だからこそ、着信を見るだけで少し身構える。
電話が鳴った。
それだけのことなのに。
でも親になってからは、その「それだけ」が結構大きい。
スマホに表示された保育園の名前を見るだけで、一日の予定が頭の中で組み替えられていく。
条件反射みたいなものかもしれない。
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人事の仕事をしていると、予定を動かす難しさを日々感じる。
学生との面接。
採用イベント。
現場社員との面談。
相手がいる予定が多い。
中には、その日その時間でなければ成立しないものもある。
だから保育園から電話が来ると、娘の心配と同時に仕事のことも頭をよぎる。
面接はどうしよう。
イベント対応はどうしよう。
誰にお願いしよう。
正直、申し訳なさもある。
急に予定をお願いするということは、その人の仕事を増やすことでもあるからだ。
人事をしていると、子育て中の社員が急に帰る場面を見ることもある。
昔の私は、
「大変だな」
くらいに思っていた。
もちろん理解しているつもりだった。
でも今思うと、全然分かっていなかった気がする。
保育園から電話が来た瞬間、その人の頭の中で何が起きているのか。
仕事のことを考えていないわけじゃない。
むしろ逆だ。
会議のことも。
面接のことも。
チームのことも。
全部考えている。
全部考えているから苦しい。
今なら少しだけ、その感覚が分かる。
ありがたいことに、今のチームは本当に支えてくれている。
「面接は大丈夫です」
「こっちは見ておきます」
「まず迎えに行ってください」
そんな言葉に何度助けられたか分からない。
保育園から電話が来るたび、自分は一人で仕事をしているわけじゃないんだなと思う。
そして同時に、そう言ってくれるメンバーには感謝しかない。
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以前の私は、急な予定変更にそこまで敏感じゃなかった。
少しくらいなら何とかなる。
明日に回せばいい。
そんな感覚だった。
でも娘が生まれて、そしてシングルファザーになってからは少し変わった。
私の両親は北海道にいる。
気軽に頼れる距離じゃない。
熱が出たから少し見ていてもらう。
病院だけ連れて行ってもらう。
数時間だけ預かってもらう。
そういう選択肢はない。
だから保育園から電話が来た瞬間に考えるのは、
「誰が迎えに行くか」
ではない。
「私が迎えに行く」
だ。
当たり前のことだ。
でも、その当たり前を急に思い出す瞬間がある。
保育園からの電話は、そのスイッチみたいなものなのかもしれない。
普段は意識していない。
仕事もしているし。
娘も元気だし。
毎日は普通に進んでいく。
でも着信が鳴った瞬間だけ、
「ああ、私しかいないんだったな」
と思い出す。
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保育園へ迎えに向かう。
教室の前に行くと、先生が娘の様子を説明してくれる。
「お昼寝のあとから少し熱が上がってしまって」
「今は38度台です」
頭では聞いているのに、視線はずっと娘の方にいってしまう。
娘もこちらを見ている。
私を見つけると立ち上がった。
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少し前、娘が高熱を出した日があった。
私が「元気?」と聞くと、娘は首を縦に振る。
でもそのまま、何も言わずに私の肩に顔をうずめた。
全然元気じゃない。
でも「元気」と言う。
どっちが本当なのか分からない。
ただ、そのどちらも本当な気がした。
大丈夫でいたい気持ちと、甘えたい気持ちが同じ中にある。
それをそのまま出しているように見えた。
たぶん娘なりに頑張っていたのだと思う。
私が来るまで。
先生たちと一緒に。
小さな体で。
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夜。
部屋の電気を落としたあとも、私は何度か娘の様子を見に行く。
静かな寝息が聞こえる。
布団は少し蹴飛ばされている。
額に手を当てる。
まだアツアツだ。
昼間の慌ただしさが嘘みたいに静かだった。
私はそのまま横に座る。
明日の予定を考える。
面接。
打ち合わせ。
メール。
やることはたくさんある。
でも考えても答えは出ない。
娘の熱が朝には下がっているかもしれないし、下がっていないかもしれない。
結局、今の私にできることはそんなに多くない。
そして今日、急なお願いを引き受けてくれたメンバーの顔も浮かぶ。
「面接は大丈夫です」
「こっちは見ておきます」
「まず迎えに行ってください」
昼間は一人で抱えている気がしていたのに、不思議なものだなと思う。
額に手を当てる。
まだアツアツだ。
私はもう一度スマホを見る。
明日の予定はまだ決まらない。
でも今考えても仕方ない。
そう思いながら、結局病院の受付時間を調べている。
たぶん明日の朝も同じことをする。
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他にも日々の日常を綴っていますので、よかったら覗いてみてください。
