【掌編小説】休みも合わないし話も合わない
「ずっと平日休みなんですか?」
そう聞くと、隼人は頷いた。
「そうなんす、ずっと。前の会社も、今の会社も」
「次の会社も?」
「おそらく……あればの話っすけど」
隼人は鼻から息をフッと出して笑った。「朱里さんは?」
「わたしはもう……ずっと、カレンダー通りです。土日休み」
「人多いでしょ?まあ、あれっすね。ライブ行きたい時とかはいいっすよね」
「そういう時って有給とか取れないんですか」
そう聞くと、隼人は手を大袈裟に横に振った。
「あーーーー……無理無理。土日こそ忙しいんでね」
隼人の言い方にムッとしてしまったのは、なぜだろう。土日休みの自分と会える可能性がないことが、暗に示されてしまったからだろうか。
「私も、平日休めなくて有給は難しいです」
共感しようと思って対抗したのか、対抗しようと思って共感のようになってしまったのかわからないが、ついそんな言葉が出てしまった。しかし隼人は意にも介さない様子だ。
「まあ、仕事してたらなかなか有給は難しいっすよね」
二人とも黙ると、全くの無音になる。「しん」という音すら聞こえずに耳鳴りがしてしまいそうだ。月明かりだけが、周りを照らしているのが救いだ。昼間、あんなに賑わっていた街だというのが信じられない。
何か話さなければ、という思いに向こうも駆られたのだろう。
「趣味は……」と言いかけて、唾をのみ込む音が聞こえた。
「そうですね……読書とか……」
「へぇすごい、俺活字は全然読めなくて」
「へー……」
「映画化されてたらギリです。なんか本ってつまんなくないっすか?もっとバーンとかドーンとかいくやつがいいです」
「バーンとかドーンって、アクション映画みたいなやつですか?」
「そうそう、バンバン撃ったり、ストーリーがはっきりしてるやつは楽しいっすね」
「血が出る映画は苦手です」
「えー……そんなんばっかっすよ、俺が見るの……お笑いとかは?」
「最近は、イーストエンド佐々木とかよく見てます、短歌の」
「なんかあれ悪口ばっかじゃないっすか?」
「本当はやさしくて、本質ついてるんです」
「とかいうけど、やっぱり人の悪口は嫌いっすね」
思わずため息をつきそうになった。この先、何の話をしても隼人は何かと否定してきそうな気がする。かといって無音は嫌だし、あの話もしたくない。
なんで、こんな人とマッチしてしまったのだろう。
休みも合わないし話も合わない。
見た目も全然好みじゃない。
名前が「隼人」な上に、プロフィール写真が市原隼人にそっくりだったから、会おうと思ったのに。実物はその片鱗もない。一体、どの角度から見れば市原隼人なのだろう。名前だけではないか。
この男とこれから上手くやっていかなければならないと思うと、ぞっとした。
「……まあ、お互い思うこと色々あるかもしれないっすけど、やっていくしかないっすよ」
そう、やっていくしかない。
私は、あの話をしよう、しなければならない、という気になった。
初対面の人に、重い話は引かれるから。
つとめて明るい声を出した。
「でも、なんで人類みんな消えちゃったんでしょうねー?」
すると、隼人はまた鼻から抜けるようにフッと笑った。
「平日の昼間もこんな感じっすよ」
その顔は、市原隼人に……やっぱり似ていない。
(了)
読んでいただき、ありがとうございました!
「 #何の企画でも賞でもない小説を普段から書けるようにしておきたい 」という自分一人でしている取り組みの7作目です。中間発表までに10作品行こうとしたけど難しそうですね…!
発想の源泉は、自分が考えた短歌でした。
前職は平日休みという人と歩く人類滅亡後の街 / 亜麻布みゆ
— 亜麻布みゆ|言の葉みゆフィーユ (@amanumiyu) September 10, 2025
単語で短歌お題『平日』https://t.co/zFHh2YQ7w4#短歌 #単語で短歌 #短歌アプリ57577 https://t.co/gd5CQi9dOF pic.twitter.com/48ahQQLzQW
また、#マスクドnote の副賞として、みくまゆたんさんに作っていただいた、「イーストエンド佐々木」も登場しています(笑)
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今までの、「 #何の企画でも賞でもない小説を普段から書けるようにしておきたい 」を貼り付けます。
興味がある作品があれば、ぜひ読んでみてください!
◾️1作目
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◾️3作目
◾️4作目
◾️5作目(その後、藍空杯のお題に近かったので駆け込み応募)
◾️6作目
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