もっと、速く走りたい!
第3章
クロカンを降りて、スピードにのめり込んだ頃
第1章、第2章のつづき。
パジェロに乗っていた時間は、 家族と自然をつなぐ、かけがえのない時代だった。
でも、どこかで少しずつ、 自分の中の針が別の方向を向きはじめていた。
きっかけは、はっきり覚えていない。 ただ、山や雪道を走りながらも、 心のどこかでこう思う瞬間が増えていった。
――もっと、速く走りたい。
それは危険な衝動じゃない。 若い頃に一度も味わわずに通り過ぎると、 あとから必ず戻ってくる種類の欲求だろう。
クロカンは懐が深い。 多少ラフに扱っても受け止めてくれる。
でもその一方で、 スピードに関しては、 最初から線が引かれている。
限界の手前で、 『ここまでだ』と、 車の方から教えてくる。
それが悪いわけじゃない。 むしろ正しい。
ただ、その正しさが、 物足りなくなってきていた。
おりしもパジェロは20万キロ近く走っていて、色々ガタがきていた。
そろそろ買い替えだ、そう思って次に選んだのは、
三菱 ギャランVR-4だった。

四輪駆動で、ツインターボインタークーラー。 速さと安定性を、 同時に手に入れたような車だった。
アクセルを踏み込んだときの加速。 車が路面に吸い付くような感覚。
家族を乗せるには、4ドアも良かった。
クロカンとは、 まったく違う世界が、そこにあった。
走りの楽しさを教えてくれた車だった。
ただ、三菱との別れは突然だった。岩手に出張に行った際、突然車が動かなくなった。
メーカー保証で直してくれたが、私はすぐにVR-4を手放した。
そして、その延長線上にあったのが、 スカイラインGT-Rだった。
BNR34。
今でも、特別な名前だと思っている。
S20に始まる、日産の「速さと技術」という最もピュアなDNAを引き継いでいる車だ。
そして、34GT-Rは、直列6気筒RB26最後のモデルになることを知っていたからこそ、買った車だった。

直列6気筒ツインターボ。 エンジンを回したときの狼の遠吠えに似たサウンド、伸びのある加速。
理屈じゃなく、身体に刻まれた。
速さそのものよりも、 『制御できている』という感覚が、 何より気持ちよかった。
この頃、 完全にスピードの世界に、 足を踏み入れていたと思う。
ただ速いだけじゃなく、 安定して速い。ECUをちょっといじれば400馬力は簡単に超える。

それが、 自分にとっての理想になっていった。
車いじりに余念がなかった。
ニスモに入り浸りの日々が続いた。


この経験が、 後になっても、 ずっと尾を引くことになる。
一度、 直列6気筒の世界を知ってしまうと、 もう戻れない。
これは、 贅沢でも、懐古でもない。
身体が、 正解を覚えてしまっただけだ。
クロカンを降りて、 スピードにのめり込んだこの時期は、
僕のカーライフの中で、 ひとつの通過点であり、 同時に、 後戻りできない境界線だった。
この先、 車に何を求めるか。
その基準は、 ここで、 はっきり決まった気がしている。
大学生の頃、短い間だけど、S30に乗っていた時期があった。
そう、初期型フェアレディZのS30だ。でかくて重い L20。
あれも直列6気筒。
大学の先輩から10万円で譲り受けたオンボロのS30 。
塗装が剥げて錆だらけで、エアコンもなかったから手放したけど、
僕のカーライフの中で、特別な1台だった。
その思いが、34GT-R へとつながっている。
第4章へー
