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トレーナーがいるのになぜ怪我するのか?

【執筆者紹介】

今村 雅史(Masafumi Imamura)
銀座トレーニングラボ代表。「一生モノの美脚」を提案するパーソナルトレーナー歴24年の動作改善スペシャリスト。
延べ数千名の指導実績を持ち、プロ選手やJリーガーなどトップアスリートのパフォーマンス向上を支援。
現在は中学校女子バスケットボール部のコーチを務めるほか、国際的なトレーナー教育機関「NASM OPTIMA」にて2025年、2026年と2年連続で講師として登壇しています。
進化学・神経科学に基づいた専門知識と豊富な現場経験から、あなたの身体の「なぜ?」を根本から解決します。

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※こちらはトレーナー向けになります!

今日、こんなニュースが出ました。

消費者庁の調査委員会が、パーソナルトレーニング中の事故に関する報告書を公表したという内容です。2025年までの7年間で196件の事故が登録され、増加傾向にあり、約4割は治療に1カ月以上かかる怪我だったというものです。

これを見て、最初に感じたのは「そうだよな」という納得感と、「それはやっぱりダメだよな」という気持ちの両方でした。

まず納得の部分から話します。

調べてみたら、パーソナルトレーニングを利用する人は国内で数百万人いると推計されています。

想像していたよりも多いです。

そして、ジムの数もトレーナーの数も、この10年で明らかに増えました。母数が増えれば、統計的に事故件数が増えるのは当然のことです。これはパーソナルトレーニングに限らずどの業種でも同じ話です。

でも、それで片付けていいかというと、そうじゃない。

怪我の部位を見てください。

腰・股関節が30%、膝・足が22%、肩・腕が10%。

腰の骨折、膝の半月板損傷、肩の筋断裂。

競技スポーツの選手が試合中に受ける怪我ではありません。ダイエットや健康増進を目的に来ていた一般の方が、トレーナーのそばで怪我をしているんです。

そして報告書の中で一番気になった記述がありました。

利用者が「限界です」「無理」と伝えても、トレーナーに「ここを乗り越えないといけない」「大丈夫」と言われて怪我に至ったケース、というくだり。

これは技術の問題じゃなくて、思想の問題です。

「限界を超えさせることが自分の仕事だ」という勘違いが、現場に存在しているということです。

ただ、この勘違いには二種類あると思っています。

ひとつは、本当に善意からくるもの。

「この人はもっとできる」「ここを乗り越えれば変わる」という信念です。

これは悪意ではありません。

でも、その善意が間違った方向に働くと、利用者の「無理」というサインを「まだいける」という励ましに変換してしまいます。

善意の悪意、とでも言えばいいでしょうか?

スポーツの根性論的な文化が背景にある気がしています。競技スポーツの世界では「きつさを乗り越えることが成長だ」という価値観が一定の意味を持つ場面もあります。

その感覚を一般の方に、そのまま持ち込んでいるケースです。

もうひとつは、もう少し構造的な問題です。

パーソナルトレーニングはほとんどの場合、回数券や月額の契約で販売されます。10回券、20回券、月4回プラン。これ自体は問題ではありません。でも、この構造が「回数を消化しなければならない」というプレッシャーをトレーナー側に生みやすいのも事実です。

怪我をしたクライアントがいたとして、正しい判断は「今日は休みましょう」「専門家に診てもらってください」です。でも、残り回数や契約期間を意識すると、その判断がしにくくなることがある。

「とりあえず軽めにやりましょう」という方向に流れてしまう。悪意があるわけじゃない。でも、商業的な構造がトレーナーの判断を歪める場面は、確実に存在しています。

なぜこういうことが起きるのか?

パーソナルトレーナーには国家資格がありません。NSCAやNASMのようなアメリカ発の民間資格はありますが、それを持っていることが仕事の前提になっているわけではありません。極端な話、昨日まで別の仕事をしていた人が、明日からパーソナルトレーナーを名乗っても、法律上は問題ない業種です。

そして、ここが一番重要だと思っているのですが、医学的な知識がないトレーナーが、医師にしか判断できないことを判断してしまっているケースがあります。

「肩に痛みがある」という訴えに対して、「大丈夫です!それは筋肉痛です!」と言ってしまう。

これは診断です。

トレーナーには診断をする資格がありません。痛みの原因が筋肉痛なのか、炎症なのか、疲労骨折の初期なのか、靭帯にダメージが入っているのかは、医師が判断することです。

トレーナーが「大丈夫」と言えるのは、トレーニングのフォームや負荷の設定についてだけです。

痛みが出たら、まず医師に診てもらう。これが正しい順番です。その判断を飛ばして「乗り越えましょう」になった結果が、今回の報告書に並んでいる数字だと思っています。

私が以前こんな記事を書きました。

「あなただけのプログラムを作ります」と言っているトレーナーが、実際に何をしているかという話です。

体重と目標を聞いて、あとはなんとなく経験で決めているケースが多いと書きました。評価なしにいきなり種目から入る。動ける状態かどうかを確認しないまま負荷をかける。これが量産されているのが現実です、と。

今回の事故の原因として報告書が挙げているのも、「知識・技術・経験不足」「安全性の確認漏れや危険性の過小評価」です。つまり、評価なし・確認なし・根拠なし、で動かしているということです。

「できない動作に負荷をかけるな」という原則があります。

Gray Cookというアメリカの理学療法士が体系化した考え方で、NFL・MLB・NBAなどプロスポーツの現場で標準的に使われているものです。シンプルに言うと、まず動作を評価してから鍛える、という順番の話です。動けない状態のまま負荷をかけても、動けない動きが強化されるだけです。

それが怪我の根本原因だ、というのがこの考え方の出発点です。

これは競技アスリートだけの話ではありません。むしろ、身体的な制限や過去の怪我を持った一般の方にこそ、この順番が重要です。

プライオメトリクスの記事でも書きましたが、怪我予防の観点からトレーニングを設計するというのは、アスリートの現場では当たり前のことです。

それが一般向けのジムではほとんど行われていない、という構造的なズレが今回の事故の背景にあると思っています。

報告書の中で筑波大学の大蔵教授がこんなことを言っています。「違和感は効果の証拠でなく体からのサイン」と。

まったくその通りで、違和感や痛みは、体がブレーキをかけているサインです。そこを「乗り越えさせる」のではなく、「なぜブレーキがかかっているのか」を考えるのがトレーナーの仕事のはずです。そしてそのブレーキの原因が医学的な問題であれば、トレーナーではなく医師の判断を仰ぐべきです。ここは絶対に越えてはいけない線だと思っています。

じゃあ利用者側はどうすればいいのか、という話もあります。

トレーナーと利用者の間には、知識の非対称性があります。

「これは正しいトレーニングなのか、それとも私の我慢が足りないのか」という判断が、利用者側にはつきにくい。だからこそトレーナーの側が「止めていいですよ」「それは医師に診てもらいましょう」という文化を作らなければいけないし、利用者の「無理」という言葉を無視できるような環境は、構造的にまずいと思います。

業界として何が必要かという議論は、これから各所でされていくと思います。横断的な安全基準、事故情報の共有、育成の見直し、報告書が求めているものはどれも必要だと思います。

ただ個人的には、もう少し手前の話として、「評価してから動かす」「痛みは医師に判断してもらう」という当たり前のことが当たり前になるだけで、かなりの怪我は防げるんじゃないかとも思っています。

難しいことをしなくていい。目的を聞いて、今のその人の体の状態を確認して、できることとできないことを把握してから、負荷をかける。痛みが出たら医師に繋ぐ。ただそれだけのことです。

それをやるための知識と習慣が、業界全体に広がっていってほしいと思う一日でした。

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著者プロフィール
▶︎合同会社LSP代表
▶︎パーソナルトレーニングジム銀座トレーニングラボ代表
▶︎大妻女子大学ラクロス部(2019年〜2023年)
▶︎平成国際大学トレーナー(2018年〜2019年)
▶︎下半身痩せ協会アドバイザー(2016年〜2020年)
▶︎2018年東京都で今受けたいトレーナー選出
▶︎モデルやアイドルなど担当
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