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未来が見える転校生と恋の交差点

春は苦手……なはずだった。

緊張した空気、慣れない友達や新しい先生。野を飾る、鮮やかな花の色とは対照的に、毎年この時期は心に雲がかかった。

でも、今年は一味違う。クラスの雰囲気から、私は瞬時に悟った。まずは先生だ。始業式が終わって、ざわめく教室に現れたのは、蛇を首に巻き付けた男性。その名も、コニシ先生だった。

驚いて固まってしまった私をよそに、他の子は特に何も不思議には感じていない様子だ。さも、それが当たり前のような、ゆったりした空気が流れている。

『今年は蛇年だものね』焦る自分の気持ちを無理やり納得させてみたけれど、どうにも腑に落ちない。だって先生、蛇に噛まれているし。

先生は、“フフっ”と、私の心を見透かすように笑って、口パクで「面白い方を選びましょう」と囁いているように思えた。一体、なんのはなしですか?

始まりから不思議だったこのクラスに、どんな子がいるのか、私は日々、じーっと1人1人を観察した。

ある日の休み時間。背後から、乾いた高い音が響いてきた。そっと振り返ると、後ろの席のみくちゃんが鉛筆を転がしている。

手のひらで回転する鉛筆の先には「ア」と「マ」の文字。「ア」と「マ」?不思議に思っていたけれど、みくちゃんは文字が出るたびに「アルロン君」と「マイトン君」の方を交互に見つめて、頬を赤くしている。

ははぁーん。これは恋だね。

その日から私は3人を見つめては、恋の矢印がどう動くのかを考えて、ドキドキしてしまう。心なしか、アルロン君は新学期が始まってすぐに転校してきた「すのうちゃん」をチラチラ見ている気がする。

彼女は、真っ直ぐで可愛い元気印。ヒマワリが咲いたように笑うので、遠くから見ている私も、つられて嬉しくなる。そういえば昨日も、放課後、クラスのリィちゃんと木の棒を持ってハリー・ポッターごっこをしていたっけ。

さて、一方のマイトン君は……。
え!!マイトン君、さっきから、みゅみゅの方を何度も見てない?だとしたら、みくちゃんどちらもハートブレイク。気のせいなら良いんだけど。

学級委員のマイトン君とみゅみゅ、歴史や短歌の話で楽しそうだったもんなぁ。

みくちゃんの恋模様を気にしながらトイレに立つと、みくちゃん、次は黙々と漫画を描いていた。すごい!!イラストが上手!!!まだ会話はしたことないけど、今度、話してみたいな。

廊下に出ると、ほんのり甘いミルキーな香りがする。「そうだ。今日の給食、シチューだった」ウキウキしていたら、突然、“バリーン”と、大きな音が耳に飛び込んできた。瞬時に先程より濃いミルクの匂い。

音のする先を見れば、アルロン君が牛乳を配ろうとして、手を滑らせてしまったようだ。割れた瓶から牛乳がこぼれ、白い水たまりを作っている。「あばばばば」

「R大丈夫?」即座に駆けつけたのは、しーもちゃんだ。床に転がった瓶を次々掴んで、かごに戻していく。瓶の持ち方がカッコいい。

給食の時間になった。
“ピンポンパンポーン”とチャイムが鳴って、昼の放送の始まりを告げる。「あの声、リィちゃんだ」今日の音楽として、忍たま乱太郎の音楽が学校中に響き渡った。少し落ち込んでいたアルロン君も、音楽に癒されているみたい。少し笑顔が戻っていた。

給食後、「いきなりなんだけど、またこのクラスに転校生が来ます」とコニシ先生は言う。先生はいつも、脈絡のない話をヒュルっと口から繰り出してくる。

「しかもね、美人さんだよ」

生徒に「美人さんだよ」って、先生の発言として大丈夫なのだろうか。でも、いかにもコニシ先生らしくて笑ってしまう。

そういえば、このクラスになってから転校生はこれで3人目だ。すのうちゃん、凛花ちゃんに次ぐ今回の転校生。短期間に3人って、やっぱり不思議なクラス。

コニシ先生が席を立ち、扉の向こうで待っている、新たな転校生を迎えようとしたその時だった。

「合言葉を言え」
ゆにちゃんが扉の前で叫んだ。コニシ先生が咄嗟に、ゆにちゃんに向かって『なんのはなし……』と言いかけた瞬間。

扉の向こう側から、『係の者でございます』と、声が聞こえた。ゆにちゃんは、その言葉を確認して「よし」と、力強く言って、扉を開ける。

すごい転校生の子!!
なんで合言葉知ってるんだろ?

みんなの視線を浴びた彼女は、少し震えた声で「大塚ぐみです」と言った。サラサラした黒髪の似合う美人さんだ。

ぐみちゃんは、コニシ先生の指示で、はれるんの席の隣に歩いていく。「はれるやは、何でも係だから、色々聞くと良いよ」先生は言った。二カっとした明るい表情ではれるんが手をあげる。ぐみちゃんが私の横を過ぎた時、ほんのり玉子焼きの良い匂いがした。

「なんで、さっき合言葉分かったの?」
休み時間になると、ゆにちゃんが不思議そうに聞く。「私、未来が見えるの🔮」ぐみちゃんは、サラリと、すごいことを言った。遠くで聞いていた私は、会話の行方が知りたくて耳に全神経を集中させた。

「じゃあ、占ってもらえる?」2人の会話が気になったけれど、さすがに占いの内容までは聞こえなかった。

帰り際、「来週、ぐみさんの歓迎会でお楽しみ会をしようと思います。それぞれ出し物をしてもらうので考えておいて下さい」と、コニシ先生が言った。

周りを見渡せば、仲良い子同士、アイコンタクトしながら着々と出し物のグループが出来上がっているようだった。私は手にじんわり汗を感じる。出し物どうしよう!?手に嫌な汗が出てきた。

しかし、そこで私はハッとする。「そうだ!!こんな時こそ、ぐみちゃんに占ってもらえば良いんだ🔮」

「じゃあ、今日の朝ごはんを教えて」
「え、朝ごはん?」
「そう。朝ごはんで未来が分かるの」
ぐみちゃんは真っ直ぐ私を見つめて言った。

「今朝は、昨夜の残りの味噌汁と……」
朝食の内容を告げると、ぐみちゃんは数秒だけ瞼を閉じた。そしてカーッと目を開く。

「見えた🔮」

ちくわになる前……海を泳いでいた日々
過去に未来のヒントがあります、かぁ。

ひたいに「すり身」


想像の斜め上をいくアドバイス。
私は言葉通り、過去を振り返った。そうか、よしっ。コレしかない!!迷いは消えた。

翌日。
登校すると、その足で直ぐさまトイレに直行する。そわそわしながら鏡で額をチェックした。前髪を上げると見える『すり身』の文字。う〜ん、大丈夫かなぁ?

ドキドキしながら教室に入ると「ちくわちゃんおはよう」と、ゆにちゃんが声をかけてくれた。

「あれ?ゆにちゃんソレ……」ゆにちゃんのおでこには、でかでかと『磐』の文字があった。

ゆにちゃんは朝ごはん、うなぎだったのね。それにしても、ぐみちゃんの影響力はすごい。既にクラスの何人もの子が『朝ごはん占い』の虜になっている。

そして、出し物の時間になった。
ぐみちゃんのアドバイスの通り、私は過去を振り返り、大好きだったセーラームーンの「ムーンライト伝説」を、1人、皆の前で歌うことにした。

でも、心細い表情から察したのか、ディエム君が「良かったらピアノで伴奏するよ」と言ってくれた。心強い。

皆の前に立って、ドキドキしていると、凛花ちゃんがこちらに向かって、ガッツポーズを送ってくれている。

凛花ちゃん、この前、私が1人で遊んでいた時にも「一緒にやっても良い?」って、声をかけてくれたんだよね。ますます勇気が湧いてくる。

ディエム君のピアノ「ムーンライト伝説」に合わせて、私は大きな声で歌い始めた。緊張するけれど楽しい。占いを信じて良かった!!ぐみちゃんを見つめると、静かに親指を立てて“グッジョブ”のポーズ。

あれ、なんだか後ろに気配を感じる。
振り返ると、そこにはみくちゃんの姿があった。私の歌に合わせてキレのある動きを披露している。一緒に盛り上げてくれてるみたい。

手を上げたり下げたり、何の踊りだろう?ムーンライト伝説に振り付けは無かったはず。よく見れば、振り乱す髪の毛の隙間から、おでこに文字が見えた。みくちゃんも占いしたんだ!!

檸檬


難しい漢字だなぁ。読めないや。
家に帰ったら調べてみよう。


私たちの様子を見ながら「新しいネタだ」と新聞係のlion君が鉛筆を動かしている。次回の学級新聞も楽しみだ。合わせて、口元が高速で動いているから、古館さんのように小声で実況しているのかもしれない。

帰りぎわ、生き物係のゆずちゃんと一緒に、ザリガニにエサをやる。ゆずちゃんとは、生き物やレトロな銭湯、好きな物が似ていて、これからもっともっと友達になれそうな気がする。

「そういえば来週から、授業中はノートの代わりにティッシュに文字を書くんだって」
「え?ティッシュに?」
「そう、マイトン君の案みたい」

視線の先では、当のマイトン君が鉛筆を転がしていた。鉛筆の先には「み」「み」「ぐ」の文字だ。転がすたびに、みくちゃん・みゅみゅ・ぐみちゃんの3人にせわしなく視線を送っている。新たな恋が動く予感がした。

「ちくわちゃん、プロフィール帳できた?」マイトン君を眺めていたら、優しい春風みたいな声が私の耳に届く。紫吹はるちゃんだった。


「うん。書けたよ」
「じゃあ凛花ちゃんに渡しておくね」
はるちゃんが笑顔で私の紙を受け取ってくれる。

3年n組 青空ちくわ

帰りの会では、レジェ君が考えた『クラスの歌』をうたう。とっても良い曲で新学期、何度もこの曲に元気をもらった。

歌詞を口ずさみながら、改めて周りを見渡す。面白いクラス。これからどんなことが起きるのか、ワクワクしてくる。毎日、ハプニングの連続で目が離せない。今年の春は、いつのまにか、憂鬱になんてどこかに吹き飛んでしまっていた。


三條凛花さんが、note仲間がもしクラスメイトだったら……とストーリーを考えてくれました。

さまざまなスピンオフや歌まで生まれ、創作の輪が広がっています。私は、新しい転校生と、恋の行方にスポットを当ててみました。

最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

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