3 住宅業界の“あの格言”を疑ってみた
『家は3回建てないと満足しない』は本当か?
住宅業界の“あの格言”を疑ってみた
「家は3回建てないと満足しないんですよ」
住宅展示場で、そんな言葉を聞いたことはないだろうか。
いかにも“昔からの知恵”のように語られるが、
あの言葉に、私はずっと違和感を持っていた。
——3回も住宅ローンを背負わされて、たまるか。
そう思ったのは、きっと私だけではないはずだ。
この格言はこういう意味らしい。
最初は勝手が分からず失敗する。
2回目、3回目と経験を積んで、ようやく理想に近づく。
たしかに、家づくりは難しい。
それは、建築に関わる者としても認めざるを得ない。
だが、だ。
その“難しさ”を理由に、
「3回建てるのが当然」と言われてしまっては、どうにも腑に落ちない。
そこで、少し考えてみた。
この言葉によって、得をするのは誰なのか。
まるで推理小説の犯人探しである。
住宅ローンを組めば、銀行が儲かる。
家を建てれば、工務店や設計事務所が潤う。
資材も動く、土地も動く。
なるほど、登場人物は出揃っている。
では、この格言の“犯人”は誰なのか。
少し調べてみると、意外な事実に行き着いた。
この考え方が広まったのは、
どうやら
《高度経済成長期からバブル期(1970〜90年代)》にかけてらしい。
——なるほど。
「スクラップ&ビルド」という言葉がもてはやされた時代だ。
つまりこれは、
“昔からの知恵”などではなく、
時代が生んだ“都合のいい思想”だったのではないか。
結論は、こうだ。
犯人は特定の誰かではない。
時代と業界がつくり上げた“空気”である。
いわば、組織犯罪のようなものだ。
……と、ここまで考えて、少し拍子抜けした。
だが、もう一歩だけ踏み込んでみる。
仮に本当に3回家を建てるとしたら、
20代、40代、60代といったところだろうか。
当然ながら、求める住まいはまったく違う。
子育て中心の家。
思春期の子どもと距離を取る家。
そして、夫婦2人で静かに暮らす家。
つまり——
“家に求めるもの自体が変わる”のだ。
そう考えると、この格言の正体が見えてくる。
満足できないのは、家のせいではない。
人生が変わるから、満足の基準も変わる。
それだけの話だ。
にもかかわらず、
「最初の家は失敗して当然ですよ」
そんな“前提”を植え付けられてしまえば、
人はどこかで納得してしまう。
——これが、この言葉の本当の役割ではないだろうか。
思い出した。
あの住宅展示場の営業も、こう言っていた。
「昔からある諺なんですよ」と。
次に同じことを言われたら、こう返そうと思う。
「それ、バブル時代のセールストークですよね。
まだ使っているんですか?」
もちろん、家を建てること自体が趣味の人には関係のない話だ。
だが、
“一生に一度の家づくり”だと思っている人ほど、
この言葉は一度、疑ってみた方がいい。
家は、3回建てなくてもいい。
ただし、
1回で満足するために、考えることは山ほどある。
私は建築士として住宅を設計する際に心掛けていることがある。
新築時に90点で、10年後に70点になってしまう家よりも、
生涯に渡って80点をキープできる家を提案したい、と。
これは、拙著からの引用だ。
お急ぎでしたら こちらの拙著 は、結構参考になるのではなかろうか。
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