「あの車、へこんでる!」7歳の娘の一言で、家族全員が爆笑した川遊びの日 🚗
朝7時。
車で出発した。
行き先は、川。
娘にとって、初めての川遊びだ。
——ただ、先に書いておきたいことがある。
この日、我が家がいちばん笑ったのは、川ではなかった。
川に着く前に、もう二回、爆笑していたのだ。
📝 きっかけは、夏休みの宿題だった
そもそも、なぜ川なのか。
理由は、たいしたことじゃない。
宿題に、川の絵を描く、というものがあったのだ。
そこで、私は気づいた。
うちの娘、川で遊んだこと、一度もないな。
プールなら、週に何度も入っている。400mメドレーだって泳ぎきる。
でも、それは全部、四角く区切られた水の中の話だ。
底が見える川。流れのある水。苔の生えた石。
そういうものを、娘はまだ知らない。
見たことのないものを、絵に描くのは難しい。
だったら、連れて行けばいい。
——というわけで、我が家の日帰り川遊びが決まった。
宿題を、家の中で完結させない。
🚗 爆笑①「あの車、へこんでる!!」
山道に入って、しばらく走っていたときのこと。
左手に川、右手に山。真ん中に、白い中央線。
対向車が、こちらへ向かってくる。
その車が、まだ50mほど先にいたとき。
後部座席から、娘の声が飛んできた。
あの車、へこんでる!!
……へこんでる?
私は、目を凝らした。
灰色の、ロードスターだった。

へこんでいない。
一ミリも、へこんでいない。
むしろ、めちゃくちゃかっこいい部類の車だ。
でも、娘の目には、こう映ったらしい。
なんか、上からギュッと押しつぶされた車が走ってくる、と。
その瞬間、車内が爆笑に包まれた。
私も、妻も、笑いが止まらない。
娘は、なぜみんなが笑っているのか分かっていない。
それが、また面白い。
私は、笑いをこらえながら、こう伝えた。
あれはね、へこんでるんじゃなくて、背の低い車なんだよ。
言いながら、なるほどな、と思った。
うちの車は、ミニバンだ。
娘の座っている位置は、地面からずいぶん高い。
その高さから見下ろせば、スポーツカーは、たしかに潰れて見える。
娘は、嘘をついたわけでも、ボケたわけでもない。
自分の目の高さから見えたものを、そのまま口に出しただけなのだ。
——見えている景色が違うだけ。
こういうことを、私はnoteでも何度か書いてきた気がする。
まさか、ロードスターで気づかされるとは思わなかったけれど。🌿
🌿 爆笑②「上手。」
そして、その少しあと。
まだ、川には着いていない。
道路脇の斜面に、植え込みで文字が作ってあった。
刈り込まれた草木で、こう書いてある。
ようこそ みやまへ

観光地でよく見る、あれだ。
私と妻は、ふーん、と流しかけた。
そのとき、また後部座席から声がした。
上手。
……上手。
うますぎる感想である。
いや、たしかに上手だ。上手なんだけれど。
作った人への評価として、あまりにも的確で、あまりにも短い。
車内が、この日二度目の爆笑に包まれた。
娘は、また、なぜみんなが笑っているのか分かっていない。
私は、笑いながら考えていた。
あの植え込みを、誰かが刈っている。
形を整えて、文字を保っている。
その仕事に対して、7歳が、いちばん素直な言葉をかけたのだ。
すごい、でもなく、きれい、でもなく。
上手。
——これ以上の褒め言葉が、あるだろうか。🌱
というわけで、川に到着した時点で、私たちはすでに笑い疲れていた。
まだ、水に足も入れていないのに。
🏞 「うわぁーぁぁ冷た!!」
さて、ようやく川である。
車を停めて、水辺まで降りる。
娘は、ライフジャケットを着て、迷いなく水に足を突っ込んだ。
そして、第一声。
うわぁーぁぁ冷た!!

山からの水は、8月でも、しっかり冷たい。
でも、怖がる様子は、まったくなかった。
このあたりは、さすがスイマーだ。
水そのものへの恐怖が、もう、ない。
底の石まで、はっきり見える。
足を入れると、ふくらはぎのあたりを、水がすっと押していく。
プールにはない感覚だ。
私も、久しぶりにこの冷たさを味わった。
🐟 カワムツは、速い
しばらくして、娘は網を握った。
狙いは、カワムツ。
浅瀬を、すいすい泳いでいる小さな魚だ。
娘は、本気だった。
そっと近づいて、狙いを定めて、えいっ、と網を入れる。
——いない。
もう一度。
——いない。
魚のほうが、圧倒的に速い。
結局、一匹も捕まえられなかった。
でも、その顔は、ずっと楽しそうだった。
捕まえることより、追いかけることが楽しい。
そういう時間だった。
思えば、私たちは、いつから
結果が出ないと、意味がない
と思うようになったのだろう。
娘は、そんなこと、まったく考えていない。
網を持って、水の中を走り回っているだけで、満足そうだった。
🪨 滑る。とにかく、滑る
ただ、川は、川なりに手強い。
いちばん手強かったのは、苔だ。
石の表面が、うっすら緑色になっている。
あれが、想像以上に滑る。
私も、何度もズルッといった。
こけてはいない。断じて、こけてはいない。
ただ、体勢は何度か崩した。
娘は、2回、しっかり転んだ。
幸い、怪我はなし。
ライフジャケットと、水のクッションに助けられた形だ。
作業療法士として、ひとつだけ書いておきたい。
プールと川で、いちばん違うのは、足の裏だ。
プールの底は、平らで、均一で、予測できる。
川の底は、石の大きさも、傾きも、滑りやすさも、一歩ごとに変わる。
つまり、足の裏から入ってくる情報量が、まるで違う。
その情報を受け取って、身体が、バランスを取り直す。
滑って、ヒヤッとして、次の一歩を少し慎重にする。
これは、家の中では絶対に育たない感覚だ。
転ぶことも含めて、川遊びなのだと思う。
もちろん、深さと流れだけは、ずっと見ていたけれど。
🗻 ヤッホーポイントで、声を出す
帰り際、ヤッホーポイントという場所があった。
そのまんまの名前だ。
叫ぶと、山にぶつかって、返ってくる。
娘が、思いきり声を出した。
ヤッホーーーー!
……ヤッホーーーー、と、山が返してくる。
けっこう、しっかり響く。
大人が思っている以上に、これは楽しい。
大きな橋も渡った。
上から見下ろす川は、山の緑を映して、深い青緑色をしていた。
朝から動いてよかったな、と、このとき思った。
🍃 おわりに——主役は、川ではなかった
家に帰って、思い返してみた。
川は、きれいだった。
水は冷たくて、魚は速くて、石は滑った。
ヤッホーも響いたし、橋からの景色もよかった。
でも、この日いちばん記憶に残っているのは。
「へこんでる」、と、「上手」
行き道の車の中で飛び出した、たった二つの言葉だ。
目的地に着く前に、その日のハイライトが終わっていた。
こういう日が、たまにある。
子どもとの一日は、たぶん、こういうところに残っていく。
どこへ行ったか、より。
車の中で、何を言って、どれだけ笑ったか。
そんな気がしている。
——ちなみに。
肝心の宿題の絵は、まだ描いていない。
娘が、あの一日から何を選んで描くのか。
冷たかった水か。逃げていったカワムツか。
それとも、へこんだ車か。
そこだけは、口を出さずに、待ってみようと思う。🌿
あなたの家族が、いちばん笑ったのは、どんな一言でしたか?
そして、その言葉は、どこへ向かう車の中のものでしたか?
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