特養で見た「老後が不安な人」と「不安じゃない人」の違い。100人近くを看取った作業療法士が伝えたいこと
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私の父は65歳でパナソニックを退社した。
67歳までの2年間、何もしていなかった。家にいるばかりで、母はフルタイムで働いていたので関わりが極端に少なくなった。
ある日、妻が言った。
「最近お義父さん、耳も遠くなったし、認知機能も低下してきているんじゃないかな?」
妻は専業主婦で、私よりも父と関わる機会が多い。理学療法士でもある妻の観察眼は鋭い。
私は父に「仕事は探してる?」と尋ねた。「おう。ぼちぼちな」と答えるだけで、あまり積極的に探している感じはなかった。選り好みしているのかもしれなかった。
このまま認知症になるくらいなら、と私は父に特養の職場を紹介した。送迎員や職場の洗車、備品の点検、修理といった仕事だ。
父の顔つきが変わった。昔みたいに活き活きとした姿で、朝から夕方まで働くようになった。
あれから1年が経った。今では立派にデイサービスの送迎員として、利用者さんを転倒させることもなく、事故もなく送迎できている。ほとんどが年下の職員ばかりだが、頼ってもらえる存在になっている。
私としても嬉しい限りだ。
この経験が、老後の不安について考える一つのきっかけになった。
病院から特養への入所を拒否した人
病院から特養への入所を拒否して、2時間説得したことがある。
認知症が進んでいて、「ここはどこだ」「なぜ自分が連れてこられるのか」が理解できない。家族もいる。半ば無理やり担いでいくわけにもいかない。だから2時間、話を聞いて、少しずつ説明して、納得してもらうまで待った。
その方は、明らかに不安だった。
特養で7年以上働いてきて、100人近くを看取ってきた。その中で気づいたことがある。
老後が不安な人と、不安じゃない人には、明確な違いがある。
不安な人に共通する特徴
入所時の様子を見ていると、不安が強い人には共通するパターンがある。
男性に多い。 自分の考えに固執する。プライドが高く、やってもらって当たり前という精神の昭和の男性は、特に不安が強い傾向がある。
妻に先立たれた男性は、認知症になりやすい。 もちろん全員ではない。私の祖父は95歳で1人暮らしだが、今でも元気だ。でも統計的に見ると、妻を失った後に急激に認知機能が落ちる男性は多い。
そして何より、役割を失った人だ。 父のように、定年後に何もしなくなった人は、あっという間に認知機能が低下していく。
入所時、自分の持ち物や「これからどうなるか」という不安ばかりに囚われて、表情が硬い。周囲のスタッフや環境に目を向ける余裕がない。
逆に不安が少ない人は、新しい環境に対して「ここはどんな場所かな?」と外側を観察する余裕がある。デバイスの初期設定をいじる時のような感覚、と言えばわかりやすいかもしれない。まず周りを見て、理解しようとする。
不安じゃない人(穏やかな人)の共通点
他者への貢献感を持っていて、スタッフに「ありがとう」と自然に言える方は、非常に穏やかだ。
これはアドラー心理学で言う「共同体感覚」に近い。自分が誰かの役に立っている、誰かに感謝されている、という感覚が、心を安定させる。
父もそうだった。送迎の仕事で利用者さんを安全に送り届けることで、誰かの役に立っている実感を得られた。年下の職員に頼られることで、居場所を感じられた。それが父の認知機能を守ってくれた。
逆に「やってもらって当たり前」という態度の人は、常に不満を抱えている。同じケアを受けていても、感謝する人としない人では、表情が全く違う。
「準備してきた人」のエピソード
1人暮らしで片麻痺がある利用者さんを思い出す。
自宅での生活が難しくなって入所された方だ。何をするにもある程度はできるが、介助が必要な場面もある。介護職員が手伝うと「ありがとう。助かるよ」と笑顔を見せてくれる。
元気な頃から、他者に貢献し、感謝を口にする習慣を積み重ねてきたのだと感じた。
実際その人は、家族、知人、友人とたくさんの人が面会に来てくれる。すごく愛されている人なんだろうと思った。
これが「老後の準備」の本質だと思う。
お金・健康・人間関係、どれが一番大事か
作業療法士として、100人近くを看取ってきた経験から言える。
一番大事なのは人間関係(共同体感覚)だ。
お金があっても孤独な入所者は寂しげだ。健康でも話し相手がいないと、認知機能は落ちていく。
アドラーが言うように「すべての悩みは対人関係」だが、逆に言えば**「すべての幸福も対人関係」**にある。
助けてと言える関係性さえあれば、お金や健康の不足はある程度カバーできてしまう。
父の場合も同じだった。お金があっても、健康でも、家にいるだけでは認知機能が落ちていった。でも職場という居場所ができて、人との関わりが戻った瞬間、父は生き返った。
老後の不安を減らすために、今からできること
OTとしてリアルに言える答えがある。
**「役割を複数持つこと」**だ。
仕事以外のアイデンティティを育ててほしい。note、ゲーム、地域コミュニティ、何でもいい。
筋肉や貯金も大事だ。でも最後は**「自分は誰かの役に立っている」という主観的な感覚(共同体感覚)**が、折れない心を作る。
ポケモンGOのコミュニティでも、麻雀仲間でも、テニスサークルでもいい。所属先を分散させておくのが、最強のリスクヘッジだ。
仕事だけが自分のアイデンティティになっていると、定年後に一気に崩れる。でも複数の居場所を持っていれば、一つが失われても他が支えてくれる。
父には仕事という居場所が必要だった。それがなくなったとき、認知機能が落ち始めた。でも新しい役割を得た瞬間、また輝き始めた。
老後は「失うプロセス」じゃない
老後は「失うプロセス」だと思われがちだ。
体力が落ちる。記憶が曖昧になる。できないことが増えていく。
でもOTの視点で見れば、老後は**「新しい自分を再構築するプロセス」**だ。
父は65歳で大企業を退職した。それまでのアイデンティティを一度失った。でも67歳で新しい役割を得て、新しい自分を再構築した。
できないことが増えても、新しい環境で新しい関係性を作ることはできる。誰かに「ありがとう」と言える自分でいることはできる。
今から「何を持っているか」ではなく「どう生きるか」に軸足を移してみてほしい。
それだけで、未来の景色は少し明るくなるはずだ。
作業療法士・16年目。特養勤務。元認知症ケア指導管理士。HSP・ISFJ。父と同じ職場で働いています。
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この記事を最後まで読んでくださり、ありがとうございます。 「老後への不安」は、お金や健康だけでは拭えません。結局のところ、最後に私たちを守ってくれるのは、「ありがとう」と言い合える温かい人間関係なのだと、現場で多くの方に教わりました。
もし今、ご自身やご家族の「これからの生き方」について考えるところがあるなら、こちらの記事もきっとお役に立てるはずです。
🌿 「老後」と「生き方の本質」について考える
100人近くの看取りを経験する中で見えてきた、「最期まで自分らしく生きる人」の共通点や、後悔しないためのヒントを綴っています。
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「『嫌われる勇気』はHSP・ISFJには最初、冷たく感じた。でも13年経った今も私の人生の軸になっている」
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