紙展開|毎週ショートショートnote|トイレットペーパードライバー
その年の超人オリンピックは、第一試合から注目のカードだった。
キン肉マン世代の父親を持つベンキマンJr.(以下、便器マン)に、対するは、トイレットペーパーマン(以下、紙マン)。
試合開始早々、紙マンは劣勢になっていた。
ロール・スネークは破られ、ミシン目ラリアットは弾かれ、吸水カウンターは体を重くした。
「トイレの紙が便器にかなうわけないだろう?」
便器マンが笑う。
だが、ボロボロの体を震わせながら、紙マンは立ち上がった。
その瞬間、紙マンの体からボワッと炎が噴き上がる。
「出たー!火事場のクソ力だ!」
紙マンは相手の手足にペーパーを巻きつけ、空中に飛び上がった。
観客が総立ちになる。
炎は全身に燃え広がり、
紙マンの体は真っ白な灰に変わりつつあった。
「トイレットペーパードライバー!」
便器マンをマットに叩きつけた後、
紙マンのいた場所には、一本の芯だけが残っていた。
観客がつぶやいた。
「あいつ、紙だったけど…芯は強かったな」
(410字)
『紙展開』<了>
トイレットペーパーマン

ベンキマンJr.

トイレットペーパードライバー

【追記】
この後、「短編小説版」も同時に掲載しています。
田原にかさんの「毎週ショートショートnote」、
12回目の投稿です。
今回のお題は、
「トイレットペーパードライバー」でした。
毎ショは12回目ですが、
今回が一番アイデア出しに苦労しました。
もちろん、本来は、
「ペーパードライバー」をもじって、
「トイレットペーパードライバー」
ですよね。
両者の違い、言葉が生まれた背景…など、
いろいろ考えましたが、どうしても、
1本書けそうなアイデアが出てきませんでした。
そこで、正攻法はやめて、
「ドライバー」がつく言葉を考えることに。
そしたら――
思いついたのです。
「キン肉ドライバー」を!

(フィギュア:超像革命外伝)
キン肉マンが使う必殺技が「キン肉ドライバー」なら、
「トイレットペーパードライバー」を使うのは――?
トイレットペーパーマン!
そして、戦う相手は、
キン肉マンとも戦ったことのある実在の超人
「ベンキマン」――その息子を考えました。
そうしてできたのが、今回のショートショートです。
書き始めたら、アイデアがどんどん湧いてきて――
ショートショートに収まらない、
「ちょっといい話」風の短編小説ができあがりました(笑)。
今回は、掟破りのおまけとして、
その「短編小説版」も、そのまま掲載します。
――本来なら、記事を分けるべきなのかもしれませんが、
私、投稿回数を減らしたので、記事を分ける余裕がないのです。
なにとぞ、ご了承ください。
それでは、引き続き、「短編小説版」をお楽しみください。
<おまけ>
短編小説版『紙展開』
超人オリンピック、第一試合。
リング上で、トイレットペーパーマンは苦戦していた。
白い紙の体はあちこちが破れ、ロールの端はほどけている。
対する相手は、ベンキマンJr.。
彼の父は、キン肉マンとも戦った実績のあるベンキマンだ。
父ゆずりの重厚な、合金ボディの安定感。
どんな攻撃を受けても、びくともしない。
トイレットペーパーマンは、両腕を突き出した。
「くらえ!ロール・スネーク!」
両腕から白い紙がほどけ、蛇のようにベンキマンJr.へ巻きつく。
だが、ベンキマンJr.は鼻で笑った。
「しゃらくせーっ!」
彼が全身に力を込めると、
紙の拘束はブチブチブチッと破れ散った。
トイレットペーパーマンは後方へ吹き飛ばされ、ロープに叩きつけられる。
ベンキマンJr.はそのまま突進した。
「ベンキ・タックルーッ!」
だが、トイレットペーパーマンは、紙一重で身をかわした。
「ミシン目ラリアット!」
ピシッ!
しかし、ベンキマンJr.は少しよろめいただけだった。
強烈な裏拳が、トイレットペーパーマンの顔面を打ち抜く。
「ぐわあああっ!」
白い紙片が、リングに舞った。
倒れたトイレットペーパーマンに、
ベンキマンJr.はとどめの水流攻撃を放つ。
「ベンキ水流スプラッシュ!」
リング上に、激しい水しぶきが走った。
トイレットペーパーマンに、水は大敵だ。
だが、トイレットペーパーマンは逃げずに両腕を交差した。
「吸水カウンター!」
その体が、水を吸いつくす。
ベンキマンJr.は攻撃をゆるめなかった。
ついに、トイレットペーパーマンの体がずしりと重く沈んだ。
「う、動けねえ……」
吸水カウンターは、本来、相手の汗を吸い取り、
自分の攻撃の重さを増す技である。
これほどの水を、一度に吸収したことはなかった。
ベンキマンJr.が、ゆっくりと近づく。
「もう、勝負あったな」
トイレットペーパーマンは、震える手をマットについた。
彼の脳裏に、地獄の特訓の日々がよみがえる。
雨の日も。風の日も。
彼が再現しようとしていたのは、
伝説の超人、キン肉マンの必殺技「キン肉ドライバー」。
彼は、紙の体であるがゆえに、筋肉が足りない。
不足するパワーを補うため、
相手の手足は、トイレットペーパーを巻き付けて押さえる。
そして、ついに完成した大技。
その名も――トイレットペーパードライバー。
「まだだ……」
トイレットペーパーマンが、ゆっくり立ち上がった。
観客席がざわめく。
「おい、まだ立つのか」
「あんなに破れているのに」
「もう紙がほとんど残ってないぞ」
ベンキマンJr.の顔から、初めて笑みが消えた。
「なぜそこまでして戦う?」
トイレットペーパーマンは、ほどけた体を自ら巻き直しながら言った。
「たしかにオレは紙だ。
破れる。濡れる。使われれば減っていく」
そして、胸の中心を指す。
「だがな……芯はある!」
その言葉に、会場がどよめいた。
トイレットペーパーマンが、最後の力をふりしぼる。
白い紙が、竜巻のようにうねり――
ベンキマンJr.の体へ巻きついた。
ぐるぐるぐる……
先ほどとは違い、水を吸った紙が重い。
「こ、これは……!」
そのときだった。
ボワッ。
トイレットペーパーマンの体から、赤い炎が噴き上がった。
実況が絶叫した。
「出たーっ!伝説の、火事場のクソ力だーっ!」
赤い炎をまとったトイレットペーパーマンが、空中に飛び上がった。
「うおおおっ!」
ベンキマンJr.の体も、宙に浮いた。
「これがオレの、最後の一回分だーっ!」
ベンキマンJr.の巨体が、空中で逆さまになる。
トイレットペーパーマンは、全身全霊をかけて叫んだ。
「トイレットペーパードライバーーーッ!」
轟音。
リングが揺れた。
マットに叩きつけられたベンキマンJr.は動かない。
会場は、静まり返った。
そして、ゴングが鳴る。
カンカンカン!
「勝者!トイレットペーパーマン!」
沈黙。
誰も声が出なかった。
リング中央に、
トイレットペーパーマンの姿がなかったのだ。
火事場のクソ力。
それは、彼にとって、あまりにも禁断すぎる炎だった。
紙の体は、決着の瞬間、真っ白に燃え尽きていた。
リングに残っていたのは、一本の芯だけ。
そのときだ。
天井から真っ白な灰が舞い落ちてきた。
さながら紙吹雪のように。
次から次へと。
最初、観客は、それが勝者を祝う演出だと思った。
だが、誰も手を叩かなかった。
その白いかけらのひとつひとつが、
つい先ほどまでリングの上で戦っていた超人の一部だと、
すぐに気づいたからだ。
ベンキマンJr.は、ふらつきながら上体を起こし、
リング中央に残された一本の焦げた芯を見つめた。
その芯は、決して折れてはいない。
「見事だった」
レフェリーが、静かにその芯を拾い上げ――
勝者の腕を掲げるように、
その芯を高く、高く掲げた。
ひとつ。
またひとつ。
客席のどこかで、小さな拍手が鳴った。
それはすぐに広がった。
リングを包み、会場を揺らし、
やがて地鳴りのような大歓声へと変わっていく。
真っ白な灰は、まだ降り続いていた。
観客たちは、誰ひとりとしてそれを払おうとはしなかった。
トイレットペーパーマンの姿は、もうどこにもない。
けれど、彼が最後の一回分まで戦い抜いたことを、
その日、会場にいたすべての人々が知っていた。
(2,110字)
短編小説版『紙展開』<了>
<毎ショセレクション選出記事>
本日は以上です。
お読みいただきまして、ありがとうございました。
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