透明な_11🌏【バッケン】【シロクマ文芸部】
透明な試薬瓶に入ったマリンブルーの結晶を、シオンはじっと見つめていた。
ダウニウムは金属の状態では赤褐色だが、化合物になると深い青色の結晶になる。その色は、スペースコロニーで生まれ育ったシオンが、惑星ガイアで初めて目にした本物の海のようだった。
スペースコロニーの人工ビーチに行ったことはあった。しかし、海を模した大きなプールの水の色は透明に近かった。スペースコロニーには太陽がなく、照明に照らされているからだ。海が青く見えるのは、太陽光の中の青い光が水に吸収されにくく、水中で散乱するからだ。惑星ガイアに到着したとき、「なんて色鮮やかな世界なんだろう」と思ったのが、シオンの最初の印象だった。
シオンは思いがけずに水素吸蔵合金の元素になりえる、ダウニウムに関する情報を入手することができた。
ダウニウムは惑星アースには存在しない元素だった。先に潜入していた探索員が事前にその情報を得られなかったのは、ガイアではまだ研究開発の段階であったからだ。サイエンス大学の研究室では、ダウニウムを使った水素吸蔵合金の開発が進められていたのだが、それは某国政府からの依頼による極秘プロジェクトであり、世間にはまだ公表されていなかった。
シオンはバッケン(化学研究部)での実験の一環と称して、ダウニウムで水素吸蔵合金を作成してみた。スペースコロニーのバッケン(総合化学研究所)で父のカイトから作成方法についてレクチャーを受けていたのだ。作成した合金に水素を吸蔵させてみた結果、アースの資源で作られた合金よりもはるかに高い能力を持っていることがわかった。
寮に戻ったシオンは、カイトへ連絡を入れた。
「父さん、ダウニウムで水素吸蔵合金を作ってみました」
「それで、結果はどうだった?」
「少なくとも、倍以上の能力はありそうです」
「そいつはすごい!それでダウニウムの埋蔵量はどれくらいありそうだ?」
「ガイアではベースメタルとして扱われているようで、豊富にあります」
「そうか。ダウニウムが手に入れば、エネルギー問題は一気に解決だな」
シオンの隣の部屋では、シオンとカイトの交信が傍受されていた。
それっぽいフィクション(SF)のショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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