聖地_05【熱きアツキ】【シロクマ文芸部】
「洗面所ってなに?父さん」
「トイレのことだよ。行きたいのか?」
「そうじゃなくて。さっき、お婆さんがボランティアの人に『洗面所はどこですか?』って聞いてたから」
「そうか。いまは、あんまり洗面所って言わないからな」
さいたまスタジアムはとてつもなく大きかった。さっきまでスタジアムを見上げていた敦輝は、疲れた首をさすっていた。
「トイレ、たくさんあるね」
「サッカーは野球と違ってプレーが途切れないから、みんなハーフタイムに一斉にトイレへ行くんだ。だから、たくさんあるんだよ」
敦輝にとってスタジアムは新鮮で、目をキョロキョロさせていた。
『215』番ゲートをくぐって、視界が開けた瞬間、言葉を失った。鮮やかな緑のピッチが広がっていて、観客席は真っ赤に染まっていた。
「…す、すごい」
「これが、さいたまスタジアムだ」
敦輝の席はバックスタンドの1階席だった。すぐ目の前にピッチがあって、選手の息遣いまで聞こえてきそうだった。
「すごく近いね」
「いいだろ、この席」
「うん」
「敦輝のスタジアムデビューだからな、奮発したんだ」
「ありがとう!父さん」
「どういたしまして」
敦輝は身を乗り出してピッチを見つめていると、ウォーミングアップを始める選手たちが現れた。観客は万雷の拍手で出迎えた。
「見て、ゴール裏の旗が波みたいに揺れてるよ」
「この熱量が選手たちを動かすんだ」
選手たちが観客席に向かって一礼すると、シュート練習が始まった。
「ゴールネットに突き刺さすシュートを打ってるのがヤマト?」
「そうだよ。ほら、あそこで鳥かごしてるのがアツキだ」
アツキは背が高くて、ルーキーとは思えないほど存在感があった。これがオーラっていうものなのかな、と同じ名前の敦輝は思っていた。
ショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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