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誤導_07【シロクマ文芸部】【lpz.89】

( 前 話 / 登場人物と目次 )


ゆっくりとベットから立ち上がりカーテンを開けると、ベンツのタクシーが右車線を走っていた。凌太はベルリンにいることを思い出し、洗面台に向かって顔を洗った。

サイバー攻撃の犯人と疑われている希実を追いかけて、無実を証明するために、協力者であるエリカを頼ってベルリンまでやってきたのだった。

前回まで


ベルリンに到着した翌朝、凌太は、エリカが勤務している大学にある小さな研究スペースで『 lpz.89 』の解析に没頭していた。希実の行動を追うには、まずこの暗号を解かねばならない。

「エリカ、僕が日本で考えていた推理を、もう一度検証したいんだ」

凌太はテーブルに置かれたメモを指差した。エリカはコーヒーを飲みながら頷いた。

「リョウタの推理を聞かせて」
「ひとつ目。『LPZ』はLightning Protection Zone、つまり雷保護ゾーンの略。これはデータセンターや機密性の高い施設で、外部からの過電圧を防ぐための区画を表している。そして『89』はその区画番号を指している可能性がある。つまり、『雷保護ゾーンの89番区画』に何かが隠されているって意味じゃないかな?」

エリカはノートパソコンで検索を始めた。

「確かに、旧東側の軍事施設では、ソ連式の影響で複雑なコード体系を使っていた記録があるわ。もしこれが現存するデータセンターのコードなら…」

彼女は検索結果を残念そうに眺めた。

「ダメね。ベルリン、旧東ドイツ全域の公式記録には、『 lpz.89 』に該当する施設は見つからないわ。あまりにも一般的すぎるか、あるいは極秘すぎて公開されていないか…」

凌太は顔を上げた。

「二つ目、『LPZ』がLocal Protocol Zone(ローカル プロトコル ゾーン)の略語だとしたら?非公開のローカルネットワーク内でしか使われない、特定のプロトコル群を指す隠語。そして『89』は、そのプロトコルで使用する非公開ポート番号を指している暗号じゃないかな?」

凌太は身を乗り出した。この推理は、希実が追っていた『レプロ』という超高速暗号解読技術が、外部には見えないローカルネットワーク内で機能していた可能性を示唆していた。

「ノゾミが追っていたのが、外部から痕跡を残さない『レプロ』だとしたら、ローカルネットワーク内の特定のプロトコルで通信していた、という線は有力だわ」エリカも興奮気味に言った。

二人は、旧東ドイツ時代の通信プロトコルや暗号化技術に関する資料、更にはエリカの持つ国際政治学の知見から得た旧体制下の非公開ネットワークに関する情報まで、あらゆるデータを漁った。

しかし、時間はただ虚しく過ぎていくばかりだった。

結局、『 lpz.89 』というポート番号やプロトコルコードに関する有力な情報は、何も見つからなかった。まるで希実がわざと、凌太をミスリードに引き込むために残した暗号のように思えてきた。

暮れかけている太陽がベルリンの街に冷たい光を放ち始めた頃、エリカは疲れた表情でノートパソコンを閉じた。

「リョウタ。ごめんなさい。あなたの推理は素晴らしい。でも、この暗号でけではあまりにも情報が少なすぎる。私たちは今、彼女が得意分野で仕掛けた罠に嵌っているのかもしれないわ」

凌太は、メモが隠されていた旅のカタログに目を落とした。そこには印刷された『ヨーロッパの歴史を巡る旅』の文字があった。彼はふと『歴史』というキーワードに引っ掛かりを感じた。

技術的なアプローチが行き詰まったことで、凌太の思考は、非技術的な、より直感的な方向へと引き込まれようとしていた。『歴史…地名…日付…』と彼の頭の中で響き始めた。

(つづく)



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ショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。

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