冷気_06【シロクマ文芸部】【lpz.89】
晴れた日に成田空港を飛び立ったが、凌太の心はどんよりと沈んでいた。果たして、希実を見つけだし、サイバー攻撃の犯人ではないことを証明できるだろうか?
一縷の望みをかけて、凌太は大学時代からの親友であるエリカ・ショルツを頼ってベルリンへと向かった。
凌太はベルリン・ブランデンブルク空港に降り立った。日本の喧騒から逃れてきたものの、異国の地の冷たい空気と、見知らぬ人々の視線が、彼の心を張り詰めさせた。時差ボケと疲労の中、彼はすぐにエリカ・ショルツに連絡を取り、指定されたベルリン中心部へと向かった。
アパートの一室で、エリカと再会した。エリカはスラリとした長身に知的な眼鏡をかけ、大学講師としての風格を持ちながらも、凌太を見るその瞳は変わらない温かさを持っていた。
「リョウタ!無事でよかったわ。ノゾミが心配ね。あんなに優秀で、何よりも正義感の強い彼女が、裏切るようなことをするはずがないわ」
凌太は安堵と疲労から、ソファに崩れ落ちた。彼はエリカに、ユウヒ社での出来事、希実の上司である大月から得た情報、そして何よりも『 lpz.89 』のメモと、それがヨーロッパ旅行のカタログに挟まれていたことを改めて話した。
「心配しないで、リョウタ。今は大学での仕事に余裕があるから、比較的自由に動けるわ。私は国際政治の歴史が専門だから、旧東ドイツの資料にも精通しているの。ノゾミが残した暗号、必ず一緒に解くわ」
エリカの心強い言葉に、凌太は張り詰めていた心がわずかに緩むのを感じた。二人は早速『 lpz.89 』の解読に取り掛かった。凌太は技術的なワードからアプローチを始めたが、エリカは首を傾げる。
「ノゾミはプロのセキュリティエンジニアだもの。こんな単純なコードで、自ら居場所を特定させるようなミスはしないはずよ。もっと複雑な、彼女とあなただけの共通の認識…あるいは、技術とは無関係の符号かもしれないわ」
しかし、二人の話し合いは、すぐに中断されることになった。凌太が窓の外を見た瞬間、アパートの向かい側の通りに、黒いコートの男が立っているのが見えた。男は一瞬、凌太たちの窓に視線を向け、すぐに立ち去った。その動きは、あまりにも不自然で、凌太の背筋に冷たいものが走った。
「エリカ、今…」
「ペトロフ・コネクションかもね。私たちは、一秒も無駄にできないわ」
凌太のベルリンでの戦いは、始まったばかりだ。
(つづく)
ショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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