白い息_08【シロクマ文芸部】【オートリバース】
白い息を丸めた手に吹き込みながら、放送室に向かって歩いていた。
(なんで、あったかいんだろう?)
ふと思った。熱いお茶を冷ますときに吹きかける息は冷たいはずだ。同じ息なのに、なぜ温かかったり、冷たかったりするんだろう。不思議だ。
季節はいつの間にか冬になっていた。秋はどこに行ってしまったのだろう?そんなことを考えながら歩いていたら、放送室を通り過ぎてしまった。慌てて引き返して放送室に入ると、先にいた赤井に声をかけた。
「面白かった」と120分テープを返すと、赤井は満面の笑顔を浮かべて「はいこれ、今週の放送分」と別の120分テープを手渡してくれた。
赤井から初めて120分テープを受け取ったときは、まだ、とても暑かった。あれから何ヶ月経ったのだろうか?あの日から、毎週『コサキン』を聞くことが楽しみになり、赤井と『コサキン』のことについて話すことも増えていった。
「伊集院光って知ってる?」
「知らない。だれ?」
赤井はいつも唐突に話を振る。どうやら、伊集院光とはニッポン放送のオールナイトニッポン2部を担当しているらしく、とても面白いらしいという情報を仕入れてきたようだ。だが、問題は放送日だ。放送時間は水曜日の27時、つまり木曜日の午前3時なのだ。
『コサキン』と同じ曜日だが時間はかぶっていないから、リアルタイムで聞く分には問題ない。しかし、赤井はミニコンポで120分テープにタイマー録音して聞いているのだ。つまり、1日に1本しか録音ができない。
「黒田ん家で録音できたらいいのになぁ」
「そうなんだけどね…」
さすがにミニコンポを買って欲しいとは親に言えなかった。先日、紐靴を買って欲しいとお願いしたのだが、買ってくれたのは欲しかった白黒のツートンカラーではなく、シンプルな紺のカラーだった。理由は単純に安かったからだ。
僕が住むこの街を
君は何も知らない
ウォークマンで録音した深夜ラジオを聞いていると、同じラジオ番組を違う街で聞いている人がたくさんいることに気づく。それが僕は一人ではないと感じる理由なのかもしれない。
ショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
小牧幸助さんの企画に参加しています。
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