物語_07【シロクマ文芸部】【オートリバース】
物語の世界へ、現実逃避する。
冴羽獠になって、アスファルトタイヤを切りつけながら、暗闇を走り抜けてみたり。輝く銀色のセスナに乗って、サヴァンナへ飛び立ってみたり。あやつる糸を断ち切って、自分の為に踊ってみたり…
「…ろだ、黒田、おいっ。もう、終わるぞ」
「えっ?」
意識が給食の時間の放送室に戻ってきた。そろそろBOØWYの曲が終わるので、次の曲のカセットテープを準備した。
「次の曲は、渡辺美里の『マイ・レボリューション』です」
再生ボタンを押して、イントロが始まったことを確認してから、赤井に先週の給食の時間に流した『青い山脈』のことについて聞いてみた。
「コサキンだよ」
「コサキン?」
毎週水曜日の25時、つまり木曜日の午前1時にTBSラジオで放送されているラジオ番組のことだった。コサキンとは小堺一機と関根勤の二人のことで、深夜放送で人気があるらしい。赤井は毎週120分テープに録音して聞いているとのことだった。
例の『青い山脈』は、ねっとりとした歌声がおかしいらしく、コサキンの番組で何度も流れているみたいだ。赤井は面白半分で給食の時間に流したのだと茶目っ気たっぷりに言った。
赤井はコサキンをみんなにも聞いてもらいたくて、あちこちで宣伝しているのだが、誰もその怪しげな120分テープを受け取ることはなかった。
「すげー面白いから、聞いてみてよ」
「えーと、まあ…」
無理矢理120分テープを手渡されてしまった。家に帰って、120分テープを手に取って眺めていた。つまらなかったと言って聞かずに返してしまおうか?せっかくだから聞いてみようか?とくに聞きたいわけでもなかったが、ウォークマンに入れて再生ボタンを押した。
冒頭から、小堺一機と関根勤が勢いだけの訳のわからない話をしていた。「意味ねぇ~」とか「くだらねぇ~」とか言いながら、お互い涙を流しながら笑い転げているのが目に浮かぶようだ。ハガキ職人と呼ばれる投稿者からのネタも全く訳がわからなかったが、いつの間にかコサキンと一緒に笑っていた。
きっと本当の悲しみなんて
自分一人で癒すものさ
深夜ラジオと出会い、僕は一人ではなくなった気がした。
ショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
小牧幸助さんの企画に参加しています。
毎週ありがとうございます。
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