脱出_14【シロクマ文芸部】【lpz.89】
「猫を飼うのが夢なんだ」と将来について二人で語り合っていたのがだいぶ昔の出来事の様だ。サイバー攻撃の犯人だとスケープゴートにされて失踪した希実を追って、凌太はドイツ・ライプツィヒまでやってきた。希実が残したメモ『lpz.89』を頼りに辿り着いた、廃墟と化した研究所で希実と再会を果たすことができた。しかし、国際的ハッカー集団であるペトロフ・コネクションの魔の手がすぐそこまで迫っていた…
256番のロッカーに置いてあった封筒を凌太は手にした。なかにはフロッピーデスクが入っていた。
「これよ!ギド・エンゲルスが残したデータよ!この中に、マスターキーと、彼の隠れ家を特定するデータが入っているはずよ!」
そのとき、ペトロフ・コネクションの追跡者が更衣室に入ってきた。追跡者は銃を構えて、冷徹な目でこちらを睨んでいた。
「そのディスクを渡せ!」ロシア語訛りのドイツ語で叫んだ。
「ダメよ!このディスクは渡せない!」希実は凌太の背後に隠れた。
「くそっ…どうする?」凌太が周囲を見回す。
その時、予期せぬことが起こった。『キィィィィィィン!』という不快な金属音と、焦げ付くような臭気が地下室全体を覆い始めた。もう一人の追跡者が慌ててやってきて、通路から更衣室に向かって叫んだ。
「逃げろ!爆発するぞ!」
更衣室の中の追跡者はパニックになり、ロッカーに衝突して倒れ込んでしまった。その混乱に乗じて、希実はポケットから小型の護身用催涙スプレーを取り出して、追跡者の目元に吹きかけた。
「いまのうちよ」
先に逃げる希実を凌太が追いかけた。階段を一気に駆け上がり、研究所を出ると、もう一人の追跡者が気絶していた。傍らにはスタンガンを持っているエリカが立っていた。
「ほら、急ぐわよ」
三人はレンタカーに素早く乗り込むと、エリカはアクセルを踏んだ。興奮冷めやらぬ様子でエリカが声をかけた。
「うまく脱出できたわね」
「いやー、死ぬかと思った。いったい、あの耳をつんざく金属音はなんだったんだ?」
「ボイラーの電源を入れたのよ」
「ボイラー?」
「たまたまボイラー室があったから、電源を入れて空炊きにしたのよ」
「よくとっさに思いついたな」
「あのままだったら、追いつかれると思ってね。自家発電で助かったわ」
「ああ、間一髪だった」
「エリカ、ありがとう」後部座席の希実が声をかけた。
「ノゾミ、無事で良かったわ」
「二人のおかげで、ギド・エンゲルスの隠れ家とマスターキーを見つけることが、きっとできるわ」
「あとの解析は頼むわね」
ショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
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