蛇口から_02⭐【バッケン】【シロクマ文芸部】
蛇口から水が出る。
一見当たり前のように感じるが、目には見えない巨大な水道インフラや自然による水循環が支えているのだ。
各家庭に給水する水道管は一度埋設すれば終わりではない。適切なメンテナンスを怠れば、老朽化による破裂リスクは常に晒されることになる。
更に気候変動によって雨の降り方も変化する。ダムがある場所に十分な雨が降らなければ水がめにはならない。
当たり前のように享受している水は、単に空から降ってくる雨ではないのだ。それは複雑なシステムによって支えられた奇跡の恵みともいえる。
この生命を維持するために必要不可欠な水はエネルギーを生み出す資源にもなり得る。
…
カイトは大学で金属工学を専攻した。大学院に進学して博士課程を修了後、総合化学研究所に入所して研究員として働いている。
ちなみに、カイトの勤める研究所の隣には国立科学研究所があり、名称が似ていて紛らわしいため、総合化学研究所は『ソウゴウバケガクケンキュウジョ』、通称『バッケン』と呼ばれている。
カイトが研究しているのは核融合発電に関連する素材開発だ。
核融合発電の実用化により、莫大なエネルギーを獲得することで、科学の進歩を加速度的に推し進めるきっかけとなった。
これまでの原子力発電は核分裂のエネルギーを利用して発電しているが、最大の欠点は放射性廃棄物が発生することだ。
一方、核融合発電は原子力発電の逆で、原子核を融合させてエネルギーを得る方法だ。核融合の際に比較的少量の放射性物質が発生するが、すぐに減衰するため、原子力発電のような高レベル放射性廃棄物は発生しない。しかも、核融合の原料となる重水素と三重水素は水から調達できるため、燃料はほぼ無尽蔵にあるといってよい。
カイトはこの核融合の原料となる水素を安全に保管するための水素吸蔵合金の開発に取り組んでいる。水素吸蔵合金は複数の金属を配合して製造され、合金あたりにどれだけの水素を吸蔵できるかが開発のカギを握っている。
それっぽいフィクション(SF)のショートストーリーをつなげて連載中です。毎週金曜日頃投稿予定です。目次に各話のリンクを貼っていますので振り返りにどうぞ。
小牧幸助さんの企画に参加しています。
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