12キロ歩く体と「足三里」|西洋医学と東洋医学、両方で体を見たら面白かった話
毎週金曜恒例、ジャリバン先生の体について。
皆さん、ゴールデンウィークはいかがお過ごしでしたか。
私は、note執筆と、家族サービスと、自分のトレーニング。
いつものルーティーンを、淡々とこなしている日々でした。
では、早速今日の話題いってみますか。
⚕️ 西洋医学が、ツボの真下を覗いてみたら
足三里(あしさんり)は、膝のお皿のすぐ下にあるツボです。
そこから指4本分くらい下、向こうずねの外側。
その位置を解剖学的に見てみると、面白いことがわかります。
なんと足三里は、 歩くときに必ず使う「前脛骨筋(ぜんけいこつきん)」という筋肉の真上 にあるんです。
前脛骨筋は、つま先を上に持ち上げる筋肉。
ここが衰えると、つま先がわずかに下がる。
そして、ふとした段差につまずく。
医学の言葉で 「背屈力(はいくつりょく)が落ちる」 と表現する、高齢の方の転倒原因の一つです。
そして現代の研究でも、足三里は意外なほどよく登場するツボでもある。
足三里への刺激が、副交感神経の主役「迷走神経」を介して、胃や腸の動きに変化をもたらす。
そう示唆する報告が、近年いくつも出ている。
東洋医学が成立した時代、前脛骨筋という解剖学の言葉は、たぶん知られていなかった。
迷走神経も、もちろん知られていない。
それでも、人は経験から知っていた。
この場所に手を当てると足の疲れが抜け、胃の調子も整う ことを。
必然なのか、偶然なのか。
🌾 東洋医学が、ずっと前から知っていたこと
東洋医学の地図でも、足三里は特別な位置にある。
経絡には「五兪穴(ごゆけつ)」という考え方がある。
手足の末端から肘・膝に向かって、井・滎・兪・経・合の五段階で、流れの深さが変わっていく。
足三里は、胃経の 「合土穴(ごうどけつ)」 。
川がいよいよ本流に流れ込むような、経絡の力が最も厚く集まる場所だ。
「土」は、穀物が芽吹き、実りを返す場所。
身体の中の「土」に、口から入った食べ物が降りてくる。
そして胃経は、前回書いたとおり、 「後天の精」 を運ぶライン。
口から食べたものを、エネルギーに変えていく経絡。
📜 松尾芭蕉も、旅立ちの朝にここへ火を入れた
ところで——
なぜ「足三里」と呼ぶのか。
部位を指す説(骨度法で犢鼻穴の下三寸)、三焦に通じる説、そして芭蕉も担いだ 距離説 がある。
足三里に灸を据えれば、三里余分に歩ける。
江戸の旅人のあいだで、こう語り継がれてきた。
江戸時代の一里は、およそ3.9キロメートル。
三里——おおよそ 12キロメートル 。
——皆さんは、足で12キロ、歩けるだろうか。
しかも舗装されていない、土と石ころと木の根が剥き出しの道を、である。
12キロは、ちょっとしたハイキング、半日仕事の距離。
それを毎日歩き通さないと、目的地にたどり着けない時代があった。
だから松尾芭蕉は、旅立ちの朝にこう書いた。
ももひきの破れをつづり、笠の緒付け替えて、三里に灸すゆるより、松島の月まず心にかかりて
笠の緒を付け替え、ももひきを繕うのと、同じ位置づけで、芭蕉はこのツボに火を入れていた。
🤝 三つの地図が、また同じ場所を指していた
ここで、地図を重ねてみよう。
西洋医学 は言う。
足三里への刺激は、迷走神経を介して胃や腸の動きに関わっているらしい。
しかも歩く筋肉の、真上にある。
東洋医学 は言う。
足三里は、胃経の合土穴。
後天の精を運ぶ流れの、もっとも深い場所だ。
そして 松尾芭蕉と江戸の旅人 は言う。
ここに灸を据えれば、12キロの道を、もう一区切り歩ける。
時代も、視点も、語彙もばらばらの三つが、同じ一点を指している。
「歩く身体」と「食べる身体」が交わる、その一点 を。
必然と偶然の真ん中あたりに、東洋医学の経験知がある。
私は、そう思っている。
🎯 今日できること:足三里を温める
毎週金曜恒例の、身体に触れる時間だ。
椅子に座り、膝のお皿のすぐ下に、人差し指から小指まで四本の指を横に揃えて当てる。
四本目の指のあたり、向こうずねの外側。
足をそらすと筋肉が盛り上がる場所。
そこが、足三里だ。
——と、ひとつ専門家として補足しておきたい。
ツボの話をすると、皆さんはまず「正確な位置はどこですか」と聞きたくなる。
その気持ちは、よくわかる。
ただ、治療の現場で大事にされているのは、座標としての一点ではない。
押して「心地よい」「他とちょっと違う」と感じる場所 の方だ。
WHO(世界保健機関)が定めた経穴の国際標準位置はある。
それでも、 同じ「足三里」でも、中国・韓国・日本で、わずかに位置が違う 。
身体は工業製品ではないので、これでいいのだと、私は思っている。
向こうずねの外側を、指で探ってみてほしい。
親指の腹で、ゆっくり押す。
「ここ、ちょっと気持ちいい」
そう感じる場所が、 あなたの足三里 だ。
蒸しタオルや使い捨てカイロで、ここを温めるのもおすすめだ。
長く歩いた日、立ち仕事のあと、胃が重い夜——
そっと手のひらを当ててみてほしい。
口から入った食べ物が、足の裏まで降りてくる。
その途中で、いちばん深い場所が、ここだ。
🔭 次回予告
次回は、 神経 の話を書いてみたい。
いまAIの世界で「ニューラルネットワーク」が話題になっているけれど、
その元にある、 人間の身体の神経そのもの に、スポットを当ててみたい。
それでは、また次の金曜日にお会いしましょう。
※ この記事は東洋医学の考え方を紹介するもので、医学的な診断・治療を目的としたものではありません。痛みや不調が続く場合は、医療機関を受診してください。
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🎥 見えない映像クリエイターが作った動画
「見えないからこそ感じられる距離感」を、音とテキストだけで描いた一本。
歩く距離を「数字」ではなく、 一歩ごとの体感 として語る視点と、足三里の話は、どこかで地続きになっている気がする。
https://www.youtube.com/watch?v=IH1r1bG4ypM
