【共感が不気味に変わる】『春のこわいもの』川上未映子|自分の中の孤独を突きつけられる恐怖
『春のこわいもの』川上 未映子
まとめ
『春のこわいもの』川上 未映子
本作は、コロナ禍を背景にした短編小説集です。日常のなかに潜む不穏さや、人と人との距離感の揺らぎを静かに、しかし鋭く描いており、読み終えた後も胸の奥がざわつく余韻が残ります。

具体的なポイントを3つ挙げます。
① 日常の些細な出来事を通じて、コロナ禍が私たちの他者との距離や自分自身との向き合い方を、知らず知らずに歪めていた様子が静かに浮かび上がります。
② 「淋しくなったら電話をかけて」では、語り手の視点が重層的で、共感から自分の内なる孤独や苛立ちに気づく過程が不気味に描かれています。
③ 「娘について」では、嫉妬を「あなたのため」と正当化する思考のプロセスが容赦なく描かれ、人の嫌な部分が次々と露わになる様子が印象的です。
日常が少しずつ戻りつつある今だからこそ、改めてこの作品に向き合う価値があると感じました。川上未映子らしい繊細な心理描写が、読む者に静かな問いを残します。
ぜひ手に取って、その余韻を感じてみてください。
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感想
『春のこわいもの』川上 未映子
『春のこわいもの』は、コロナ禍が始まった時期を背景に書かれた6つの短編を収めた作品集です。どの作品も、日常のなかに潜む不穏さや、人と人との距離感の揺らぎを静かに、しかし鋭く描いていて、読み終えた後もどこか胸の奥がざわつくような余韻が残る作品ばかりでした。その中でも特に印象に残ったのが、「淋しくなったら電話をかけて」と「娘について」の2作です。
「淋しくなったら電話をかけて」は、コロナ禍で人と会う機会が極端に減った時期の閉塞感を、独特の語り口で描いた作品です。主人公の「あなた」が見ている世界を、もう一つの視点が静かに見つめているような構成になっていて、最初は「自分もこんなふうに感じていた」と共感しながら読み進めました。しかし読み進めるうちに、「あなた」の内側に広がる孤独や苛立ちが、自分の中にも確かに存在しているのではないかと気づいた瞬間、最初に感じていた共感が、急に不気味なものに変わっていきました。自分の内面を突きつけられているような感覚が、この作品の不気味さと強さだと感じました。
もう一つ印象に残ったのが「娘について」です。アルバイトを掛け持ちしながら小説家を目指すよしえと、裕福な家庭の支援を受けながら女優を目指す見砂杏奈、そして杏奈の母親である「ネコさん」。この3者の関係性の中で、特に強く心に残ったのは、よしえが杏奈に対して抱く嫉妬と、それを正当化しようとする思考のプロセスでした。「あなたのため」という言葉が、実は自己保身や依存の裏返しであることが容赦なく描かれていて、読みながら胸がざわつきました。人の嫌な部分が次から次へと露わになっていく様子を、よしえの思考のスピードに乗りながら追体験させられるような感覚で、読み終えた後も長く余韻が残りました。
この作品集を読んで改めて思ったのは、コロナ禍という特殊な状況が、私たちの他者との距離感や、自分自身との向き合い方を、知らず知らずのうちに歪めてしまっていたということです。日常が少しずつ戻りつつある今だからこそ、改めてこの作品に向き合う価値があると感じました。
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