「闇夜に刻まれた印」第三十六章:流星が示す道/《烙印於黑夜之印》第三十六章:流星所指之路(和訳付き)
初めてのあなたに
作者便り(26年7月)
前編
日本語訳
【 第三十六章:流星が示す道】
王女殿下の命令が届いた。
反逆罪に関わる疑いをかけられたのは、 地方騎士団副団長、カルダ・スレネ。
そして、 彼女を王都へ護送する任務に同行するよう求められたのは、 クレアだった。
ヴィーシャが差し出した臨時任命書。
淡い紫の制服。
黒地に銀縁の流星徽章。
そのすべては、 まるで最初から用意されていたかのようだった。
署名した瞬間、 クレアはただの旅人ではなくなる。
闇夜騎士団騎士見習いとして。
そして深夜、 漆黒の馬車は地方騎士団本部へ向かう。
流星が示した先にいたのは―― カルダ・スレネだった。
クレアは固まった。
「ぱっちゃま?」
ヴィーシャに呼ばれ、ようやく我に返る。
そして額を押さえながら言った。
「……ちょっと待って。」
「質問がある。」
「どうぞ。」
ヴィーシャは穏やかに答える。
クレアは一度深呼吸した。
「一つ目。」
「どうしてカルダを逮捕するんだ?」
「二つ目。」
「どうして来たのが君なんだ?」
ヴィーシャはその問いを聞くと、
ポケットへ手を入れながら答えた。
「一つ目については、このあとご説明します。」
「二つ目は――」
そう言って取り出したのは、一つの徽章だった。
リゼと同じ、
銀縁の流星。
「闇夜騎士団第IV小隊所属騎士、ヴィーシャ・ハヴィルです。」
「やっぱり……いや、待って。」
クレアは何かを思い出した。
「第IV小隊って、全員騎士見習いじゃなかったのか?」
「私は以前、武装女官団に所属していました。」
ヴィーシャはスカートの裾を整えながら答える。
「騎士位は持っています。」
「……」
「ぱっちゃま?」
「いや、ちょっと整理させて。」
クレアは頭を押さえた。
「つまり、このしばらく俺が雇ってたのは――」
「王宮の元近衛ってこと?」
ヴィーシャはにこりと微笑んだ。
「はい。」
「何か問題でもございますか?」
そう言うと、
彼女は旅行鞄を開け、
中から佩剣を取り出した。
クレアはその剣を見る。
それからヴィーシャを見る。
数秒間、黙り込んだ。
そして、
ぽつりと呟く。
「……俺、給料安く払いすぎてない?」
ヴィーシャは首を横に振った。
「いいえ。」
「ぱっちゃまがお支払いくださっている額は、ちょうど相場どおりです。」
ヴィーシャは剣帯を腰に締めながら言った。
その手つきは、まさに騎士そのものだった。
「それに実際、引退した武装女官を令嬢や奥方の護衛として雇う貴族も少なくありません。」
剣帯の位置を整えながら続ける。
「ただ――」
そこで一度言葉を切った。
「王宮を離れる人は、それほど多くありません。」
剣帯を整え終えると、
ヴィーシャはクレアの方へ向き直る。
「これで準備はできました。」
「ぱっちゃま。」
「それでは、一つ目のご質問にお答えします。」
そう言って、一通の書類を取り出した。
「カルダ・スレネ。」
「反逆罪に関わる事件への関与が疑われています。」
「殿下のご命令により、直ちに逮捕し、王都へ護送します。」
クレアは書類を受け取り、
ざっと目を通した。
そこに押された封蝋印には見覚えがあった。
任命書でも。
解任通知でも。
同じ印を何度も目にしてきた。
間違いない。
これは王女殿下直々の命令だった。
だが――
カルダと国家反逆罪。
どう考えても、
その二つは結びつかなかった。
ヴィーシャはクレアを一瞥した。
そして書類袋から、もう一通の書類を取り出す。
「それから――」
静かな声で続ける。
先ほどよりも、
わずかに力のこもった口調だった。
「殿下から、もう一つお言葉を預かっています。」
「ぱっちゃまが闇夜騎士団の騎士見習いとして、今回の任務に参加されるのであれば――」
「カルダ・スレネの身の安全は、殿下がお約束くださるそうです。」
クレアはわずかに目を見開いた。
だが、
ヴィーシャはそこで言葉を止めなかった。
「ただし――」
一拍置いて、
静かに続ける。
「その代わり、ぱっちゃまには今回の件の経緯をすべて知っていただきます。」
「そして、その内容については一切口外なさいませんように。」
部屋の中が、しんと静まり返る。
クレアは何も言わなかった。
つい先ほどまで少し手狭に感じていた部屋が、
今は息苦しいほど静かだった。
しばらくして、
ヴィーシャは一枚の書類を差し出した。
「ぱっちゃまがお受けになるのでしたら。」
「こちらにご署名をお願いいたします。」

クレアは書類を受け取り、静かに目を落とす。
それは一通の臨時任命書だった。
任命は署名と同時に発効し、任務終了まで有効とされている。
つまり――
ここに自分の名を書けば、
彼は闇夜騎士団騎士見習いとして、
カルダ・スレネの護送任務に同行し、
王都へ戻ることになる。
クレアはゆっくりと顔を上げた。
しばらく黙っていたあと、
静かに尋ねる。
「……殿下の保証は?」
ヴィーシャは、その質問を予想していたかのようだった。
「口頭でのお約束です。」
落ち着いた口調で答える。
「その部分は、命令書には記されておりません。」
クレアは手元の臨時任命書へ視線を落とした。
何も言わない。
ヴィーシャはそのまま続ける。
「なお、それ以外についてですが――」
一度言葉を区切り、
王女から預かった最後の言葉を、そのまま伝えた。
「殿下からのお言葉です。」
部屋が一瞬、静まり返る。
「参加するか。」
「それとも、何も知らなかったことにするか。」
「そして、この街を直ちに離れるか。」
クレアは机の上の臨時任命書を見つめていた。
だが、その胸中はすでに大きく揺れていた。
彼には分かっている。
闇夜騎士団が動くということは――
王女殿下は、すでに何かを掴んでいるということだ。
……父の事件の時と同じように。
もしかしたら。
父の件も、
王都は最初から把握していたのかもしれない。
ただ、
決定的な証拠が揃うまで動かなかっただけで。
そして自分だけが、
何らかの理由で、
運よく逃れることができた。
そこまで考えて、
クレアは再び手元の任命書へ視線を落とした。
だが――
カルダ。
いつも笑いながら自分を訓練場へ引っ張っていく。
豪快で、
どこか大雑把なのに。
騎士としての務めだけは、
頑固なくらい真面目だった彼女が。
本当に、
国家を裏切るような人間なのだろうか。
もし――
本当に、もしも。
「……彼女が冤罪だったら?」
クレアは静かに目を閉じた。
闇夜騎士団が自ら動く以上、
事件が覆る可能性は、
限りなく低いのだろう。
それでも――
彼は顔を上げた。
「……殿下は。」
「カルダの身の安全は保証すると、おっしゃったんですよね。」
「はい、ぱっちゃま。」
ヴィーシャは迷うことなく答えた。
クレアは長い間、黙っていた。
やがて小さく息を吐き、
静かに言う。
「……それなら。」
「王都へ着いてから、考えることにします。」
もし殿下が、
本当に一人を始末したいだけだったのなら――
わざわざ自分とヴィーシャを護送役に選ぶ必要はない。
ましてや、
王都まで連れ帰る必要もないはずだ。
だとすれば――
少なくとも王都へ着くまでは。
カルダの身の安全は、
自分が守る。
その先は――
殿下が判断することだ。
クレアはようやく手を伸ばし、
机の上のペンを取った。
そして、
臨時任命書へ静かに自分の名前を書き記す。
(……結局、俺も闇夜の人間になるのか。)
まだインクも乾ききらないうちに――
ヴィーシャは何も言わず、
傍らの旅行鞄を開いた。
中から取り出したのは、
きちんと畳まれた一着の制服。
淡い紫色の上着。
黒いセーラー襟。
闇夜騎士団――
騎士見習いの制服だった。

「えっ……ヴィーシャ、それは……」
「ぱっちゃまの制服です。」
ヴィーシャはごく当然のように答えた。
クレアはその場で固まった。
「こ、これ……」
「殿下がご用意くださったものです。」
「一緒に持って行くよう仰せつかっていました。」
「そ、そんな……」
(殿下は……。)
(俺が必ず署名するって、分かってたのか。)
その考えが、
一瞬でクレアの脳裏をよぎる。
ふと気づけば――
委任書を受け取ったその瞬間から。
自分はずっと、
殿下が用意した道の上を歩かされていたような気がした。
ヴィーシャは、ぱっちゃまに考える時間を与えるつもりはないらしかった。
そのまま続ける。
「ぱっちゃまが委任をお受けくださった以上。」
「今回の任務の本当の内容をご説明いたします。」
そう言うと、
声を少しだけ落とし、
今回の作戦について説明を始めた。
クレアは最初こそ真剣な表情で聞いていた。
だが、
ヴィーシャの説明が進むにつれて、
その表情は少しずつ変わっていく。
真剣な顔から。
驚きへ。
そして、
苦笑へ。
最後には額を押さえ、
小さくため息をついた。
「……腹黒王女。」
◇
「はくしゅん!」
王宮の執務室。
執務机で書類に目を通していた王女が、
突然くしゃみをした。
「殿下、大丈夫ですか?」
本棚の前で資料を探していた副官が振り返る。
「ええ、大丈夫。」
王女は鼻先を軽くこすり、
意味ありげに微笑んだ。
「たぶん、誰かが私の悪口を言ってるのね。」
「クレアですか?」
副官は考えるより先に口にした。
「十中八九ね。」
王女は肩をすくめると、
何事もなかったかのように再び書類へ視線を落とした。
副官は二秒ほど黙り込む。
そして手にしていた書類を静かに棚へ戻した。
「……今回は、クレアに一票ですね。」
王女は反論しなかった。
ただ静かに、
次の書類をめくる。
執務室には再び、
紙をめくるさらさらという音だけが静かに響いていた。
◇
「ぱっちゃまも、ご準備をお願いいたします。」
ヴィーシャは制服をクレアへ差し出しながら言った。
「できれば、日付が変わる前にはイギタイアを出発したいところです。」
そう言って壁の時計へ目を向ける。
短針は、まもなく十時を指そうとしていた。
「でなければ、明日の夜までに王都へ到着するのは難しくなるでしょう。」
クレアは黙って制服を受け取り、
部屋の隅に置かれた衝立の向こうへ向かう。
着替えを済ませ、
改めて制服へ視線を落とした。
……驚くほど、ぴったりだった。
淡い紫色の制服を見つめながら、
クレアは苦笑する。
「……本当に。」
「最初から最後まで、殿下の手のひらの上だったんだな。」
身だしなみを整え、
衝立の向こうから姿を現すと、
ヴィーシャはすぐに歩み寄ってきた。
襟元を整え、
袖口の皺を伸ばし、
腰の剣帯の位置まで細かく直していく。
一通り確認し終えると、
満足そうに小さく頷いた。
それから旅行鞄を開き、
最後の一品を取り出す。
黒地に銀の縁取り。
流星が刻まれた徽章。
――ヴィーシャが胸に着けているものと、
まったく同じ徽章だった。
ヴィーシャはそれを両手で大切そうに持ち、
姿勢を正した。
「ぱっちゃま。」
「闇夜騎士団の徽章を、お付けしてもよろしいでしょうか。」
クレアはしばらく黙っていた。
やがて、
静かに頷く。
ヴィーシャは慎重な手つきで、
その徽章を彼の右胸へ留めた。
一歩下がり、
位置に乱れがないことを確認する。
そして、
柔らかく微笑んだ。
「これより、ぱっちゃまは本任務における闇夜騎士団騎士見習いです。」
クレアは胸元の徽章へ視線を落とした。
それから、
まだメイド服姿のヴィーシャを見る。
……
どう見ても、
自分の方が闇夜騎士団らしかった。
「つまり……。」
「これで人を逮捕できるのか?」
ヴィーシャは旅行鞄を片付けながら、
落ち着いた口調で答えた。
「武装女官団にいた頃も、このような格好で拘束任務に出ていました。」
そう言いながら、
最後の荷物を腰の小袋へ収める。
「それに、闇夜騎士団はもともと秘匿任務を主とする部隊です。」
彼女は手を伸ばし、
クレアの胸元に付いた徽章を軽く指先で叩いた。
「本当に重要なのは、制服ではありません。」
続いて、
命令書と逮捕状が入った書類袋を軽く叩く。
「重要なのは――」
「権限です。」
「そして、命令。」
そう言って、
もう一度徽章の位置を確かめると、
ついでにクレアの襟元も整えた。
「特に、逮捕状は。」
クレアはわずかに眉をひそめた。
「……それだけで十分なのか?」
ヴィーシャは手を止め、
静かにクレアを見上げる。
その瞳は、
いつになく真剣だった。
「ぱっちゃま。」
ゆっくりと口を開く。
「もし本当に、闇夜の制服を着た者たちが一個小隊で堂々と誰かを逮捕しに行くようなことがあれば――」
そこで一度言葉を切る。
「その時はもう、秘密裏に処理する必要がなくなったということです。」
部屋が一瞬、
静まり返った。
クレアは黙って視線を落とす。
胸元に輝く、
黒地に銀縁の流星徽章。
……
急に、
着たくなくなってきた。
ヴィーシャは壁の時計へ視線を向けた。
「そろそろ馬車が到着する頃ですね。」
そう言うと、
旅行鞄から二枚の仮面を取り出す。
一枚を自分で身に着け、
もう一枚をクレアへ差し出した。
「今夜の当直はカルダです。」
仮面を整えながら、
いつもの落ち着いた口調で言う。
「参りましょう、ぱっちゃま。」
そう言うと、
ヴィーシャは先に部屋を出た。
クレアも慌ててその後を追う。
宿の廊下へ出たところで、
ふと一つ気になることを思い出した。
「ヴィーシャ。」
「はい?」
「俺たち……。」
「こんな格好で、そのまま出て行って大丈夫なのか?」
ヴィーシャは振り返り、
小さく微笑んだ。
「問題ありません。」
その口調はいつも通り穏やかだった。
「受付は、こちらの者ですから。」
二人が玄関まで降りると、
受付係は何も言わずに軽く頷き、
静かに外を指し示した。
クレアとヴィーシャは言葉を交わすことなく、
宿の前に待機していた漆黒の馬車へ乗り込む。
やがて馬車は静かに走り出し、
二人を乗せたまま、
深夜の街並みへと溶けるように消えていった。
騎士団本部へ到着すると、
ヴィーシャとクレアは馬車を降りた。
ヴィーシャはもう一度クレアの制服を整え、
襟元や徽章の位置を確認すると、
小さく頷く。
「ぱっちゃま。」
「ここから先は、私が話します。」
「ぱっちゃまは、しばらく何もお話しにならないでください。」
「分かった。」
二人はそのまま騎士団本部へ向かって歩き出した。
正門には、
まだ若い騎士が立哨していた。
二人の姿を見るなり、
すぐに声を張り上げる。
「止まれ!」
「ご用件は!」
ヴィーシャは歩みを止めることなく、
冷たい声で答えた。
「副団長カルダ・スレネにお取次ぎください。」
ちょうどその時、
奥から年配の騎士が通りかかった。
その視線が、
ヴィーシャの胸元にある徽章で止まる。
ほんの一瞬だった。
だが、
その表情は見る見るうちに強張っていく。
黒地に銀縁。
流星の徽章。
それは以前、
王都から届いた公文書で一度だけ目にしたことのある印だった。
若い騎士は訝しげな表情を浮かべる。
「その制服も徽章も見たことがありませんが、一体――」
言い終わる前に、
年配の騎士が慌てて彼を横へ押しやった。
そして姿勢を正し、
二人へ向き直る。
「失礼いたしました。」
「ご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか。」
ヴィーシャは表情一つ変えず、
先ほどとまったく同じ言葉を繰り返した。
「命により参りました。」
「カルダ副団長をお呼びください。」
その声音には、
わずかな苛立ちさえ滲んでいた。
「……承知いたしました。」
年配の騎士はぎこちなく一礼すると、
足早に本部の中へ駆けていく。
その途中、
若い騎士の肩を軽く叩き、
小声で言った。
「お前は黙って立っていろ。」
「何も言うな。」
「いいな?」
「は……はい。」
若い騎士は、
何が起きているのかまったく理解できないまま、
ただ困惑した表情で立ち尽くしていた。
その頃――
カルダは宿直室のベッドへ横になっていた。
そろそろ目を閉じて少し休もうかと思った、その時。
――コンコン。
扉が軽く叩かれる。
「副団長。」
「ブールです。」
カルダは眉をひそめながら上半身を起こした。
「鍵は開いてるよ。」
「どうぞ。」
「失礼します。」
ブールは扉を開けて部屋へ入ってきた。
その表情は、
明らかにいつもと違っていた。
「ん?」
「ブール、どうしたの?」
普段のブールは、
団でも冷静沈着で通っている。
こんな顔をしているのを見るのは初めてだった。
「副団長。」
「お客様です。」
「私に用があるならあるで。」
カルダは笑いながら勢いよく立ち上がった。
「そんなに緊張しなくてもいいじゃない。」
そのまま部屋を出ようとした――
だが。
ブールが一歩前へ出て、
そっと行く手を塞ぐ。
「……どうしたの?」
カルダは不思議そうに首を傾げた。
「副団長。」
「先に身なりを整えてください。」
ブールは青ざめた顔のまま答える。
「玄関に来られたお二人ですが……。」
一度言葉を切る。
そして低い声で続けた。
「おそらく――」
「闇夜騎士団の方々です。」
「カルダ・スレネ副団長でお間違いありませんか。」
ヴィーシャは、
ブールに伴われて現れたカルダを見ながら静かに尋ねた。
「……はい。」
「私がカルダ・スレネです。」
カルダは努めて平静を装って答える。
だが、
わずかに震える声だけは、
胸の内の動揺を隠しきれなかった。
そして、
ヴィーシャの隣に立つ見習い騎士へ目を向ける。
その瞬間、
彼女の瞳に驚きが走った。
だが、
それも一瞬だけだった。
すぐにいつもの冷静な表情へ戻る。
「私たちは闇夜騎士団です。」
「こちらは王女殿下ご署名の命令書になります。」
ヴィーシャは懐から書類を取り出し、
静かにカルダの前へ広げた。
「カルダ・スレネ。」
「あなたには反逆罪に関わる事件への関与の疑いがあります。」
「王都まで同行していただきます。」
書類に押された火漆印。
そこに刻まれていたのは、
紛れもなく王女の紋章だった。

カルダは思わず息をのんだ。
「待ってください、私は――」
「何を言ってるんですか!」
突然、
若い騎士が叫んだ。
「副団長がそんなことをするはずないでしょう!」
今にも飛び出してきそうな勢いだった。
だが、
ブールはすぐさま彼の腕を掴み、
そのまま本部の中へ引きずっていく。
廊下の奥から、
なおも叫び続ける声だけが響いていた。
カルダは、
二人の姿が廊下の向こうへ消えていくのを見届ける。
そして再び前を向いた、その時――
ヴィーシャの手は、
すでに剣の柄へ添えられていた。
その隣では、
クレアも反射的に腰の剣へ手を掛けている。
「お見苦しいところをお見せしました。」
「申し訳ありません。」
カルダは努めて落ち着いた口調で言った。
「彼は先月入団したばかりなんです。」
「少し血の気が多いだけですので……どうかお気になさらず。」
一度深く息を吸う。
そして静かに尋ねた。
「一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか。」
「どの事件について、なのでしょうか。」
「詳細は。」
ヴィーシャは相変わらず冷え切った口調で答えた。
「王都到着後にご説明いたします。」
カルダは小さくため息をつく。
「……分かりました。」
「おとなしく同行します。」
「ですが、その前に着替える時間だけ――」
「このまま出発します。」
ヴィーシャは言葉を遮った。
その声は冷たく、
有無を言わせないものだった。
一瞬、
場の空気が凍りつく。
その横で、
クレアは思わず目を丸くする。
(……怖い。)
(家で見ていたヴィーシャとは、まるで別人だ。)
「承知しました。」
カルダは驚くほど落ち着いた口調で答えた。
ヴィーシャの視線が、
ふと彼女の剣帯へ向く。
「手順です。」
短くそう言って、
剣帯を指差した。
「……分かりました。」
カルダは静かに剣帯を外す。
ちょうどその時、
ブールが廊下から戻ってきた。
カルダは剣帯を彼へ差し出す。
「少し預かってて。」
「すぐ戻るから。」
「副団長……。」
ブールは思わず声を漏らした。
カルダは小さく笑う。
「団のことは、しばらくお願い。」
まるで、
いつもの勤務交代でもするかのような口調だった。
ヴィーシャが一歩前へ出る。
「両手を前へ。」
相変わらず、
感情を感じさせない冷たい声だった。
カルダは何も言わず、
両手を差し出す。
ヴィーシャは懐から手枷を取り出し、
慣れた手つきで彼女の両手へ掛けた。
続いて、
黒い目隠し布を取り出す。
カルダの後ろへ回り込み、
そっと耳元で囁いた。
「少し目を閉じてください。」
「巻く時に当たると危ないですから。」
その声は、
つい先ほどまでの冷たさが嘘だったかのように、
驚くほど優しかった。
カルダはわずかに目を見開く。
ほんの一瞬。
――聞き間違えたのかと思った。
クレアの父親の案件について
なぜ、クレアが逃げるの?
以上の翻訳は ChatGPT による翻訳文をもとに、自ら校正・監修した形でお届けしています。
もし文体や語調などに不自然な箇所がありましたら、ぜひご指摘いただけますと幸いです。
ご感想やご質問などございましたら、コメント欄にてお知らせください。できる限りお返事させていただきます。
改めまして、本作品をお読みいただき、誠にありがとうございます。
中国語本文
【第三十六章:流星所指之路 】
王女的命令送達了。
被懷疑涉及叛國罪的,是地方騎士團副團長卡爾妲.斯雷涅。
而被要求同行押送她回王都的,則是克雷亞。
在維莎帶來的委任書前, 克雷亞終於踏上了那條早已由王女安排好的道路。
闇夜騎士團見習騎士。
胸前別上流星徽章的那一刻, 他已經不再只是旁觀者。
深夜的伊吉塔亞, 漆黑的馬車駛向地方騎士團本部。
這一次, 流星所指向的地方,是卡爾妲。
克雷亞愣住了。
「少爺?」
被維莎叫了一聲才回過神來。
然後拍著額頭說:
「等一下,我有問題。」
「少爺請說。」
克雷亞吸了口氣。
「第一、為什麼要抓卡爾妲。」
「第二、為什麼是妳?」
維莎聽到,邊掏口袋邊說:
「第一個問題我等下會跟少爺說,至於第二個...」
她掏出了徽章。
和莉潔一樣的銀邊流星。
「闇夜騎士團第IV小隊騎士,維莎.哈維爾」
「果然...等一下。」
克雷亞想到一個事情。
「第IV小隊不是說都是見習騎士的嗎?」
「我待過武裝女官團。」
維莎邊整理裙子邊說,
「有騎士銜。」
「......」
「少爺?」
「不,讓我整理一下。」
「所以我這段時間雇用的是王宮退役近衛?」
維莎微笑著說,
「是的。有甚麼問題嗎?」
然後從行李箱掏出佩劍。
克雷亞看著那把劍。
又看著維莎。
沉默數秒。
「......薪水是不是給太少了?」
「沒有。」
「少爺給的剛好是行情價。」
維莎邊把劍帶別上邊說。
那動作真的像是一般的騎士。
「而且其實有不少貴族,會聘請退役的武裝女官擔任女眷護衛。」
維莎一邊調整劍帶一邊說道。
「只是......」
她停頓了一下。
「願意離開王宮的人不多。」
等到維莎將劍帶整理妥當後,才轉過頭來。
「好了。」
「少爺。」
「現在來回答第一個問題。」
維莎拿出一份文件。
「卡爾妲.斯雷涅涉及叛國罪案件。」
「殿下命令,即刻逮捕,並押送王都。」
克雷亞接過文件看了一眼。
上面的火漆印,他並不陌生。
無論是任命書,還是解任書,都曾見過同樣的印記。
毫無疑問。
這是王女的命令。
只是——
卡爾妲和叛國罪?
無論怎麼想,這兩件事都連不起來。
維莎看了他一眼。
接著又從文件袋裡抽出另一份文件。
「殿下另外表示。」
她的聲音依舊平靜。
卻比剛才更加堅定。
「如果少爺願意以闇夜見習騎士身分參加本次任務。」
「殿下可以保證卡爾妲的人身安全。」
克雷亞微微一怔。
然而維莎並沒有停下。
「但是——」
她停頓了一下。
然後平靜地補上後半句。
「少爺必須知道整件事情的來龍去脈。」
「並且不得洩密。」
房間忽然安靜下來。
克雷亞沒有說話。
剛才還顯得有些狹窄的房間。
此刻卻安靜得令人不安。
過了片刻。
維莎將文件遞了過去。
「如果少爺願意。」
「請在這裡簽字。」

克雷亞接過文件。
低頭看了一眼。
那是一份臨時委任書。
委任時間自簽署後即刻生效。
直到任務結束為止。
換句話說。
只要簽下名字。
他就會以闇夜見習騎士的身分,
隨同押送卡爾妲返回王都。
克雷亞抬起頭。
沉默片刻後問道:
「那殿下的保證呢?」
維莎似乎早已預料到他會這麼問。
「是口頭保證。」
她平靜地回答。
「殿下並未將這部分寫入命令。」
克雷亞看著手中的委任書。
沒有說話。
維莎則繼續說道:
「至於其他事項。」
她微微停頓。
然後轉述王女留下的最後一句話。
「殿下表示——」
房間裡安靜了一瞬。
「要麼參加。」
「要麼就當作不知道。」
「然後立刻離開。」
克雷亞望著桌上的委任書。
心裡卻早已翻騰不已。
他知道。
如果是闇夜騎士團出面,
就代表王女那邊,一定已經掌握了什麼。
……就像父親當年的案子一樣。
或許,
父親的事情,王都一開始就知道了。
只是一直沒有收網。
而自己,
只是因為某個原因,僥倖逃了出去。
想到這裡,
克雷亞的目光又落回那張委任書。
可是……
卡爾妲。
那個會笑著把自己拉去練武場,
明明大剌剌的,
卻對騎士的職責認真到近乎固執的人。
她,真的會叛國嗎?
如果……
只是如果。
「她是冤枉的呢?」
克雷亞閉上眼。
闇夜騎士團親自出面,
代表翻案的可能性其實已經很低。
但是……
「殿下說,可以保證她的人身安全,對吧?」
「是的,少爺。」
維莎毫不猶豫地回答。
克雷亞沉默了許久。
最後,輕輕吐出一口氣。
「……那,就到王都再說吧。」
如果殿下真的只是想處理掉一個人……
好像沒有必要,特地派自己和維莎押送。
更沒有必要,一路帶回王都。
既然如此——
至少在抵達王都以前,
卡爾妲的安全,就由自己負責。
至於之後……
那就是殿下的判斷了。
克雷亞終於伸出手,
拿起桌上的筆,
在委任書上簽下了自己的名字。
(……自己,終究還是成為闇夜的人了嗎?)
就在墨跡尚未乾透時,
維莎已經默默打開一旁的行李箱。
從裡頭取出一套整齊摺好的制服。
淺紫色的制服。
黑色的水手領。
闇夜騎士團——
見習騎士制服。
「呃……維莎,那個是……」
「少爺的制服啊。」
維莎回答得理所當然。
克雷亞整個人愣在原地。
「這……這個……」
「殿下特地準備好的,交代我一起帶過來。」
「所、所以……」
(殿下知道……我一定會簽。)
這個念頭,瞬間閃過克雷亞腦海。
他忽然有種,自己從拿到委任書開始,就一直走在王女安排好的路上的感覺。
維莎像是不打算給他喘息的時間,接著說:
「既然少爺已經接受委任。」
「那我就可以告訴您,這次真正的任務內容了。」
她將聲音放低,開始說明這次行動的細節。
克雷亞原本神情專注。
但隨著維莎一句一句說下去,
他的表情也跟著慢慢變化。
從認真。
到驚訝。
再到哭笑不得。
最後,只能扶著額頭,低聲嘆了一句:
「……腹黑王女。」
「哈啾!」
王宮辦公室裡。
正在批閱公文的王女,忽然打了一個噴嚏。
「殿下,沒事吧?」
正在書架前翻找資料的副官回過頭。
「嗯,沒事。」
王女揉了揉鼻尖,若有所思地笑了一下。
「大概是某個人在罵我吧。」
「克雷亞?」
副官想都沒想就問。
「八成是。」
王女聳了聳肩,又低頭繼續批閱公文。
副官沉默了兩秒。
默默把手上的檔案放回架上。
「……這次,我站克雷亞。」
王女沒有反駁。
只是安靜地翻過下一頁公文。
辦公室裡,再次只剩下紙張翻動的沙沙聲。
「少爺,您也該準備一下了。」
維莎一邊將制服遞給克雷亞,一邊說道。
「我們最好在午夜前離開伊吉塔亞。」
她瞥了一眼牆上的時鐘。 時針已經快指向十點。
「否則,恐怕很難在明天晚上前抵達王都。」
克雷亞默默接過制服,走到一旁的屏風後換裝。
……意外地合身。
他低頭看了看身上的淺紫色制服,不禁苦笑。
「看來……真的被玩弄於股掌之間了啊。」
「……從頭到尾,都被殿下算到了。」
等他整理好衣著,從屏風後走出時,維莎立刻迎了上來。
她細心地替他整理衣領、拉平袖口,又調整好腰間的劍帶,直到確認一切都沒有問題,才輕輕點了點頭。
隨後,她打開行李箱。
從裡頭取出最後一樣東西。
一枚黑底銀邊、刻著流星的徽章。
——和她胸前佩戴的一模一樣。
維莎雙手捧著徽章,站直了身子。
「少爺。」
「請容許我,替您佩戴闇夜騎士團的徽章。」
克雷亞沉默了片刻,輕輕點了點頭。
維莎小心地將徽章別在他的右胸。
接著退後一步,仔細確認位置是否端正。
「好了。」
她露出淡淡的微笑。
「從現在開始,少爺就是本次任務的闇夜見習騎士了。」
克雷亞低頭看了看自己胸前的徽章。
又看了看仍穿著女僕服的維莎。
……
怎麼看,都覺得自己比較像闇夜。
「所以……這樣就可以逮捕人了?」
維莎一邊收拾行李箱,一邊平靜地回答:
「以前在武裝女官團的時候,也是這樣出去執行拘提任務。」
她將最後一樣物品放進腰間的小包。
「況且,闇夜騎士團本來就是偏向秘密行動的部隊。」
她抬起手,輕輕點了點克雷亞胸前的徽章。
「真正重要的,從來不是制服。」
接著又拍了拍放著命令書與逮捕令的文件袋。
「而是授權。」
「以及命令。」
她確認了一下徽章的位置,又順手替克雷亞整理了一下領口。
「尤其是逮捕令。」
克雷亞微微皺起眉。
「……光這樣就夠了?」
維莎停下動作,抬起頭望向他。
那雙眼睛異常認真。
「少爺。」
她緩緩開口。
「如果真的有一整隊穿著闇夜制服的人,大張旗鼓地去逮捕一個人——」
她停頓了一下。
「那通常代表,事情已經沒有秘密處理的必要了。」
房間安靜了一瞬。
克雷亞默默低下頭,看著胸前那枚黑底銀邊的流星徽章。
……
突然有點不想穿了。
維莎抬頭看了一眼牆上的時鐘。
「馬車差不多到了。」
她說著,從行李箱裡取出兩副面具。
自己先戴上一副,又將另一副遞給克雷亞。
「今天卡爾妲值夜班。」
她一邊整理面具,一邊平靜地說:
「我們該出發了,少爺。」
說完,她便率先走出房間。
克雷亞趕緊跟了上去。
直到踏上旅店的走廊,他才忽然想到一件事。
「維莎。」
「嗯?」
「我們穿成這樣……直接走出去,真的不要緊嗎?」
維莎回過頭,露出一抹淡淡的笑容。
「沒關係。」
她的語氣依舊平靜。
「前台,是我們的人。」
到了門口,前台只點了點頭,指向外面,
克雷亞和維莎默默的坐上門口那輛漆黑的馬車,
消失在深夜的街道。
到了騎士團總部,維莎和克雷亞下了馬車,
維莎又幫克雷亞整理了一下衣服,然後看了一下,
「少爺,等一下都我先說,您先不要說話。」
兩個人就往團部走去。
門口站崗是個看起來很年輕的團員,
看到他們就馬上喊了:
「站住,有什麼事?」
「我們找副團長卡爾妲•斯雷涅。」
維莎冷冷地說。
剛好有個比較年長的團員從後面經過,
他的目光在維莎胸前停了一瞬,神情瞬間僵住。
那枚銀黑色徽章,他只在王都的公文上見過一次。
「你們的制服和徽章沒看過啊,到底...」
還沒講完,就被年長的團員推到一邊。
「請問兩位是?」
「奉命前來,請卡爾妲副團長出來。」
維莎又冷冷地說了一遍,透出一絲不耐的表情。
「好的,請稍候。」
年長團員很僵硬的講了一聲,轉頭就往團部內走去。
走之前,到了那個年輕團員身邊。
「你安靜在這邊站著,甚麼都不要說,聽到沒有?」
「是......」
年輕團員滿臉問號。
卡爾妲正在寢室裡躺著,正在想要閉眼休息的時候
門口響起了敲門聲
「副團長,我是布爾。」
她皺著眉坐了起來,「門沒鎖,請進。」
「失禮了。」
布爾開門走了進來,表情明顯不大對勁。
「嗯?布爾,怎麼了嗎?」
因為布爾在團上以沉穩著稱,卡爾妲從來沒看過他露出這種表情。
「副團長,門口有人找。」
「找我就找我,幹嘛那麼緊張啊?」
卡爾妲笑著跳起來,就要走出去的時候,布爾攔了下來。
「怎麼了?」
「副長,先整理一下衣服吧。」
布爾臉色蒼白的說,
「門口兩位……恐怕是闇夜騎士團的人。」
「是副團長,卡爾妲•斯雷涅嗎?」
維莎看著布爾陪著出來的卡爾妲,一邊說到。
「是的,我是卡爾妲•斯雷涅。」
她努力維持著平靜。
只是微微顫抖的聲音,仍然藏不住內心的不安。
她看見站在維莎身旁的見習騎士時,
眼中閃過一絲錯愕。
只是下一瞬間,便重新恢復平靜。
維莎從懷裡取出文件,攤開在卡爾妲面前。
「我們是闇夜騎士團,這邊是王女簽署的命令。」
「你被懷疑涉及叛國罪案件,請跟我們回去協助調查。」
命令上的火漆,是王女的印章無誤。

卡爾妲倒吸了一口氣。
「等等,我——」
「你們在說甚麼?副團長不會作那種事的!」
轉頭一看,那個年輕的團員一副要衝上來的樣子。
布爾馬上就把他架住,往團部裡面拖了進去,還可以聽到他大吼的聲音。
卡爾妲看著布爾和年輕團員的身影消失在走廊盡頭,
回過頭時,維莎的手已經按在劍柄上。
而站在旁邊的克雷亞,也下意識跟著握住了腰間的佩劍。
「讓你們見笑了,沒事沒事...」
她努力讓自己的語氣保持平穩。
「他上個月才剛入團,衝動了點,請不要計較...」
卡爾妲吸了一口氣,
「我可以問一下,是甚麼案件嗎?」
「相關事項,抵達後會說明。」
維莎口氣還是一貫的陰冷。
卡爾妲嘆了一口氣。
「我跟你們走,可是......可以讓我換一下衣服嗎,制服還是-」
「現在就走。」
維莎露出不耐的表情,以非常強硬的口吻說。
克雷亞有點嚇到,
這完全不是在家裡那麼溫柔的維莎。
「好的。」
卡爾妲非常鎮定的回答。
維莎眼光掃到她的劍帶。
「程序。」說著,她指著卡爾妲的劍帶。
「了解。」
卡爾妲解下劍帶,交給剛好出來的布爾。
「幫我保管一下,我去去就回來。」
「副長...」
「團上的事先交給你了。」
卡爾妲對著布爾笑笑,好像只是日常交接而已。
「雙手伸出來。」
維莎依舊用冰冷的語氣命令道。
卡爾妲伸出雙手,
維莎掏出了一副手枷,熟練地銬在她的雙手上。
接著又抽出一條黑色遮眼帶,繞到卡爾妲身後。
在她耳邊輕柔地說道:
「眼睛先閉起來,免得等下弄到。」
那聲音溫柔得幾乎不像剛才那個人。
卡爾妲微微一怔。
剛才那一瞬間。
她幾乎以為,自己聽錯了。
