【noteでBL企画小説】その恋、供養されません!~転生しても逃げられない~
というわけで、noteでBL企画21弾!
2作目を投稿します。
こちらは1作目と違って高校生がワイワイしている楽しいお話です。
🔽企画の詳細はこちら🔽
🔽1作目はこちら🔽
ではでは、早速どうぞ~!
🔷ジャンル🔷
青春
🔷あらすじ🔷
前世の記憶を持つ高校生、胡桃。
主従は三世に渡って縁があるという仏教の言い伝え通り、彼の周りは前世の主やら同僚やら、縁のある者ばかりだった。
しかし、前世の恋人はどうも胡桃のことだけ思い出せないらしい。
どうなる胡桃の恋。
※ただし今回は胡桃の話じゃない
昨年8月の特別企画で投稿した『その恋、供養されません!~転生してもやっぱりお前か~』の続編。
三世の縁、というものがある。
三世とは前世、現世、来世の三つの世のこと。
主従は三世に渡るほど深い縁で結ばれているらしい。
というわけで、俺は前世の主である権三郎(前世では鷹継というカッコいい名前だったのに、現世どうした?)と今生でも再会した。
別に再会しなくても良かった。
代々鷹継のところに仕えてる家柄だったから仕方ないけど、お前のところで小姓やってたとか、黒歴史だ。特に何もなかったけど。
そして小姓仲間の星空(前世では瑠璃若。前世もなかなかのキラキラネームだが、現世もヤベェな)とも再会した。
コイツは今生では女に生まれ変わっているが、前世と変わらず権三郎とのバカップルっぷりを発揮している。
今まさに俺の目の前でイチャつきながら歩いている2人。
うらやましい。爆発しろ。
派手なチャラ男と派手なギャルのカップルはどうでもいい。
それよりも重要なのは俺の隣にいるめちゃくちゃ可愛い前世の恋人だ。
俺は前世で蓬翠という恋人がいた。
その生まれ変わりである慧とは高校で出会えた。主従でも夫婦でもない俺たちが今生で出会える確率は低かった。早死にした為に前世で恋人らしいことができなかった俺を、神が憐れんでくれたのかもしれない。
しかし、ここからが問題だ。
蓬翠の生まれ変わりである慧は俺のことをすっかり忘れていた。
いや、ちょっと違うか。
慧は前世の記憶は持っているのに、俺が前世の恋人だということだけ気付いていない。
何でだ。
こんなに近くにいるのに……と、俺は横にいる慧を見つめた。
若干の恨めしさを込めて。
慧は俺の視線には気付かず、たまに辺りを見回しながら静かに歩いている。
……今生でも可愛いな。
「すっかり遅くなっちまったな」
「誰のせいだよ……」
時刻は17時過ぎ。
冬が近い今頃は、この時間でも真っ暗だ。
しかもこの辺りは閑静な住宅街で人通りが少ない。街灯や民家の灯りはあるが、店の光がない路地は余計に暗く感じる。
権三郎は笑って話すが、こんな時間になったのは100%コイツのせいである。
放課後、権三郎と星空に強引に連れて行かれたのは、学校から少し離れた場所にあるカラオケだった。
そこから2時間以上付き合わされて、ようやく解放されたのだ。
「結構楽しかったでしょ?」
「ジャイ〇ンリサイタルに参加してるの〇太の気分だった」
星空は慣れているかもしれないが、俺にとってはそこそこの拷問だった。
権三郎、あんまり歌がうまくないわりにはマイクを離さない。
8割コイツが歌ってた。
まぁ、楽しそうにしている慧が可愛かったから、俺の心は満たされてますけど!
そんなたわいもない会話をしていると、突然慧が大声をあげた。
そういえば、さっきから無言でキョロキョロしてたな。
「コロコロマカロニ!!」
「「「は?」」」
その場にいた慧以外の全員の声がハモッた。
なんだなんだ。
コンビニの新商品か。
慧はこちらに向かって来た子犬に駆け寄った。
紐をくわえているのを見るに、散歩している途中で飼い主から逃げてきたようだ。
「見て。この子、コロコロマカロニだよ。懐かしい気配がするなぁって思ってたら、この子だったみたい」
慧は抱き上げた子犬をぐいっとこちらに見せてきた。
うわぁ……ふてぶてしい顔した犬……。
「コロコロマカロニって何?」
俺はつい尋ねてしまった。
犬種じゃないよな?
「この子の名前。前世で飼ってた猫なんだよ。今世では犬になったみたい。わぁ、僕のこと覚えててくれたの? よしよし、いい子だね……」
犬は慧の頬を舐めている。
おい、懐きすぎだろう。
恋人の俺ですらそんなことしたことないのに!!
前世でも今世でもそんなスキンシップしてない。
悔しくて血の涙が出そうだ。
それよりも!
飼っていた猫のことは思い出せるのに、俺のことがわからないのは何でだ!?
俺への愛は猫以下だったのか!?
あの愛を囁いた日々は偽りだったのか!?
と、言えれば良いのだが小心者の俺は何も言えなかった。
ただ悲しみの視線を送るだけだが、慧は気付いていない。気付かれても困るけど。
「あ、ほんとだ。蓬翠さまが飼ってた猫だ」
犬の顔を星空が覗き込んだ。
「星空ちゃん覚えてるの? コロコロマカロニのこと」
「うん、寺に行った時に遊んでたからね。でも、名前違うよ。あの時代にマカロニは変でしょ」
慧の記憶は曖昧だ。
俺のことも忘れてるしなぁ……。
「確かに。お前、何て名前だったっけ?」
犬はワオンと鳴いた。
「わおんって名前なの? そんな記憶ないなぁ……」
慧は首を傾げた。
それは絶対ソイツの名前じゃないなぁ……。
ただ鳴いただけだなぁ……。
「あ、思い出した。虎子丸だよ。今は茶色一色だけど、前世では虎みたいな柄だったから」
「そうだ! 虎子丸! 星空ちゃん、記憶力すごいね」
「流石だな」
「えへへ」
星空は慧と権三郎に褒められて照れているが、俺は別のところが気になっていた。
「全然違う名前じゃねぇか!」
名前の中に「コ」と「マ」があるくらいしか合ってない。
何でそこから「コロコロマカロニ」になったのか。
「慧ちゃん、ほんと忘れっぽいよね。でもすぐに虎子丸って気づいたのはすごいよ。その調子で前世の恋人の子とも思い出すといいね」
「うん、早く会いたいな」
会ってますけどね!?
思い出してないだけですけどね!?
「何かこう……うまい手段はないのか」
「襲えばいいじゃねぇか」
俺が小声で尋ねると、権三郎はさも当然と言わんばかりに最悪な提案をしてくる。
それで思い出さなかったら、俺は友人を失うはめになるのだが!?
「この犬、どこから来たんだろう。首輪してるから飼い犬だよね」
「確かに。お前、飼い主はどうしたの?」
星空の疑問を受け、慧が犬に話しかけた。犬は相変わらず「ワオン」とだけ鳴く。
「わおん、だって」
「それ、ただ鳴いただけだからね。何の情報も得られてないよ」
さっきの俺と似たようなツッコミを、星空は呆れた顔で慧に返した。
「この犬どうしよう」という顔でお互いを見つめ合う俺たちに、救いとも言える声が聞こえて来た。
「コロ!? 何してるんだよ」
その声に犬が再びワオンと鳴く。
飼い主の登場らしい。
あれ?
名前、結構近いな?
俺たちの前に息を切らしてやってきたのは、クラスメイトの笹塚稔里だった。
「ノリリンじゃーん!」
星空は人を適当なあだ名で呼ぶ。
俺は胡桃だから「くるるん」。あだ名のセンス無さ過ぎだろう。
「皆こんな時間まで制服姿で何してたの。補習?」
笹塚くんは無邪気に聞いて来るが、そんなわけあるかい。もう18時だぞ。
「カラオケ行ってたんだよ~」
犬を渡しながら話す慧に、笹塚くんは慌てた様子でハンカチで取り出した。
「そうだ、ごめんね。突然コロが走って行っちゃって。服とか汚れてない?」
心底申し訳なさそうに謝る姿が、何だか小動物みたいだ。
ノリリン、良い奴なんだよなぁ。
そして、絶対前世で会ってるんだよなぁ。
あんまりハッキリと思い出せないけど、懐かしい感じがする。小姓仲間の誰かかなぁ。
でも、権三郎も星空も何も言わないところを見ると、違うのか?
早死にしたせいか、慧のことを言えないくらいに俺も記憶が朧気なのかもしれない。
クラスメイト同士、子犬を囲んでワイワイ話していたところで、背後から声をかけられた。
「あれ、笹塚くん」
「……宵坂くん」
宵坂。
その名前は聞いたことがあるし、学校で何回か見かけたことがある。
クラスが離れているから特に接点はないが、女子の間で「かっこいい」「付き合いたい」という評判をよく聞く。
ほほぉ、これが噂の……。
確かにビジュは良い。
「奇遇だね。こんな時間にどうしたの?」
「犬の散歩で……」
宵坂は親し気に話しかけているが、笹塚くんの歯切れは悪い。
目を合わせないようにしているようにも見える。
あれか。
顔が美形過ぎて直視できないのか。
確かに顔は良いが、そこまでか?
「あの、散歩の途中だから……もう行くね」
コロを抱きしめて、そそくさと笹塚くんはその場を立ち去ってしまった。
いつもニコニコと優しい彼らしくない、何だかよそよそしい雰囲気だった。
あっけに取られている俺とは反対に、権三郎は険しい顔をしていた。
星空も警戒している。
いつもアホ丸出しな2人が、真剣な表情をしているのは珍しい。いつもと違う空気に俺は息をのんだ。
「お前、吾積のところの次男坊だろ。何か引っかかるとは思ってたけど、そうか。前世で知ってる奴だったか」
え、え。
権三郎、声が怖いよ。
吾積って、前世で俺たちと敵対してた家じゃん!
「これはこれは、鷹継さま。相変わらずの派手な出で立ち、俺は入学式の時からわかってましたけどね」
おおう、そっちも煽ってくるじゃん。
俺は権三郎と宵坂を交互に見た。
2人の視線が交差している。背景に龍と虎のオーラが出ている気がするし、見えない火花が散っているようだ。
え? 突然喧嘩とか始まらないよな、これ。
前世の諍いは現世に持ち越さないよな?
一触即発とも言える空気を破ったのは、慧のおっとりした声だった。
「もしかして、景隆殿?」
「おや、蓬翠さまも記憶が?」
ん?
知り合い?
でも蓬翠って名前で呼んだということは、今生じゃなくて前世の方か。
「ごめんねぇ、ずっと気になってたんだけど思い出せなくて。吾積って名前を聞いてようやく思い出したよぉ」
「俺はずっとわかってたけどね。蓬翠さまは変わってないな」
待て待て待て、俺のことは思い出せないのに、何でコイツのことはすぐ思い出すのかな?
さっきの犬といい、どういうことかな?
「知り合いなのか? ほら、慧の前世と……」
2人の関係が気になり過ぎて、つい聞いてしまった。
思った以上に低い声が出てしまったが、慧は気にしていない様子だ。セーフ。
「うん、胡桃ちゃんには僕の前世の話はしたよね? 僕がいた瑞蓬寺って書物がたくさんあったんだけど、景隆殿はよく読みに来てたんだ。あと、恋愛相談聞いてた」
寺なのに煩悩を否定しないんだ……。
あ、男同士は良いんだっけ。
俺と蓬翠も恋仲だったもんな。何もしてないけど。
「前世の恋人探してるんだけど、見つからないんだぁ」
溜息と一緒に慧が残念そうな声を出す。
いるよ、前世の恋人、ここにいるよ!
「蓬翠さまは忘れっぽいからな。思い出すのが難儀そうだ。でも前世で縁が深かった人は今生でもきっと縁が深いはずだから」
お前に言われなくても、わかってるよ!
縁が深いからこうして今生で再会できたんだ。
「だよねぇ。君は? 前世で死別した人に会えた? ずっと後悔してたもんねぇ」
「ああ、すぐにわかったよ」
やけに親し気ですね!?
もしかして前世の恋人を差し置いて、今生でも仲良くするつもりですか!?
嫉妬の炎を燃やす俺の横では、今にも噛みつきそうな権三郎を星空が「どうどう」と宥めていた。
権三郎、前言撤回だ。
やれ、やってしまえ。
前世の争いは現世でも継続していい。
と俺は心の中で権三郎をけしかけたが、「それじゃあ」と言って宵坂はあっさりその場を去ってしまった。
笹塚くんといい宵坂といい、何なんだ。
その後ろ姿を眺めながら、「また会えるといいなぁ」なんて慧が嬉しそうに笑っている。可愛い。
その笑顔は宵坂がもたらしたものだと考えると、ムカつくけどグッジョブだ。
慧よ、宵坂には会えるよ。
だって同じ学校だもん!!!
……会わせたくないけどな。
翌日。
笹塚は美術室でキャンバスを前に溜息を吐いた。
もう放課後になっているというのに、昨日の出来事のことを思い出しては自己嫌悪に陥っている。
おかげでコンテスト用の絵はまったく描けていない。
飼い犬の散歩の途中でクラスメイトに会った。
特別親しくしているわけではないが、どこか懐かしい雰囲気のする彼らに笹塚は好感を持っていた。
それだけなら良かったのに、宵坂にも会ってしまった。
彼に会うと、どうしても平常心を保てない。
今もそのことで頭がいっぱいになり、絵に集中できないままだった。
(もう遅いし、今日は帰ろう)
教室に入った時は電気をつけなくても気にならなかったが、今は暗く感じる。
笹塚以外に人がいない美術室は、夕焼けでオレンジ色に染まっていた。
キャンバスに描かれた風景画を、笹塚はそっと指でなぞった。
(俺の絵、好きって言ってくれたのに)
笹塚が初めて宵坂に会ったのは、高校入学の直後だった。
中学の終わりにコンテストに出した絵が受賞したので、廊下に飾ってもらえることになったのだ。
豪華な額に飾られた自分の絵を見上げていた時に声をかけてきたのが宵坂だった。
「この絵、君が描いたの?」
「う、うん」
学ランの襟につけられたバッヂの色から、同級生だとすぐにわかった。
涼し気な目元はどこかで見たことがある気もしたが、テレビで見た芸能人に似ていたのかもしれない。
綺麗な顔だと思った。
「上手だね。好きだな、その絵」
褒められたのに、怖かった。背筋が凍る、とはああいうことを言うのだろうか。
心臓が掴まれたような感覚だった。
その時、自分は何と答えてその場を去ったのか覚えていない。
それ以来、ことあるごとに宵坂は話しかけてくれるのだが、笹塚はいつも簡単な挨拶だけで終わらせていた。
それは昨日も変わらず、そっけない行動を取ってしまう自分に幻滅するだけだった。
憂鬱な気持ちのまま帰り支度をして、美術室を出た。
(宵坂くんは何も悪くないのに。最低だな、俺)
どうして彼を見るとこんなにつらい気持ちになるのだろう。
権三郎たちと会った時の安心するような感覚とは正反対だ。
自分の忘れていた誰かと重ねているのだろうか。例えば、幼稚園くらいに出会ったいじめっ子と宵坂が似ているとか。
そんな記憶はないけれど、ここまで苦手に思うのも不思議だった。
演技でもいいから普通に接していればいいのに、何故かそれができない。
嫌いじゃない。
むしろ離れている時は好意を持っていると言っていい。
もっと話したい。
心の中ではそう思っているのに、体が拒否をする。
自分でも自分のことがわからないくらいだ。
誰もいない廊下を歩いて行くと、下駄箱の前に宵坂がいた。
彼も帰るところなのだろう。
反射的に逃げようとしたが、それよりも早く声をかけられた。
「笹塚くんも帰るところ?」
昨日のことなんてなかったかのように、いつものように宵坂が挨拶をしてくる。
その優しさに救われるやら気まずいやら。
笹塚の体は緊張で強張ってしまった。
「昨日……ごめんね」
宵坂の顔を見ることができず、笹塚は視線を逸らして声を絞り出す。
これが自分のできる、精一杯の誠意を示す行動だった。
「別にいいよ。でも、君に避けられるのは寂しいかな。仲良くしたいから」
相手の表情は見えないが、寂しげな声に罪悪感が増した。
「ほんと、ゴメン。宵坂くんが悪いんじゃない」
自分も仲良くしたいと言えればいいのだが、口にできなかった。
宵坂を前にすると、どうしても脳が「逃げる」という選択肢だけになってしまう。今もそうだ。
別に彼は自分を攻撃しようとしているわけではない。
それはわかっているのに、心臓がバクバクとうるさいくらいに鳴っている。
「じゃあ、何で? 俺、何かした?」
整った顔が気遣わし気に笹塚の顔を覗き込んだ。
目が合いそうになって、慌てて顔を逸らす。
「またやってしまった」と罪悪感に押しつぶされそうになって、咄嗟に言い訳めいたことを口にした。
「違う、宵坂くんのせいじゃなくて、俺が悪いんだ。宵坂くんを見るとドキドキしちゃうから」
言ってから後悔した。
自分は今、変なことを口走ったのではないか。
しかし、返って来たのは弾んだ声だった。
「それって、俺のこと好きってこと?」
「え?」
あまりにも飛躍した発言に思わず顔を上げると、宵坂は嬉しそうに笹塚を見つめていた。そんな表情を見てしまうと、何も言えなくなる。
心臓が苦しくなって、うまく頭が回らない。
宵坂のことは嫌いではない。
仲良くしたい。
それは好きということになるのだろうか?
「だって、俺を見ると鼓動が高鳴るんだろう? 恋してる、って言ってるみたいだ」
「そう……なのかな?」
笹塚がそう呟くと、宵坂はさらに笑みを深めた。
その表情は彼をいつもより幼く見せる。
いつも大人びた雰囲気を纏っていた彼とは異なる一面を見て、苦手意識が薄まったのを感じた。
(何だか可愛いかもしれない)
思わず笑ってしまった笹塚に、宵坂は抱き着いてきた。
制汗剤の爽やかな香りが鼻孔をくすぐる。不思議と嫌な気持ちではなかった。
あれだけ避けていた相手なのに、抱きしめられると懐かしい気持ちになる。
権三郎たちと話している時とは違った懐かしさだ。笹塚はこの体温を知っているような気がした。
鼓動は相変わらずうるさいくらいだが、恋だから仕方ないのだろうか。
恋なんて、したことがないからわからない。
でも、小説でも漫画でも恋は苦しいって言っていた。
(じゃあ、これは恋なのかな)
宵坂の腕の中で笹塚は目を閉じた。
頭の中で「違う」と叫ぶ声が聞こえた気がした。
ようやく手に入れた。
陽が落ちて暗くなった道を、宵坂は一人歩いていた。
あまりの嬉しさに、口元が緩んでしまいそうになる。
高校に入学してすぐ、笹塚が自分の探している人だとわかった。
前世の記憶が戻ったのもその時だ。
権三郎がいるせいか、この学校は前世の関係者が多い。
だが、前世の記憶が戻っていなかったとしても宵坂は笹塚に惚れていただろう。
前世でも愛らしい容姿をしていたが、現世も変わらぬ可憐さだ。
自分を見る時の怯えた顔さえも愛おしい。
すぐに人の言うことを信じる純粋さも変わっていなかった。
おかげですぐに言いくるめることができた。
初めて澄親と出会った時も、あの花のような姿に見惚れたのではなかったか。
そして清らかな彼の精神に触れ、ますます思慕を募らせていった。
出会った頃はまだ平和とも言える時期で、2人はそれなりに交流を深めることができた。
恋仲だった、と言っても嘘ではないだろう。
だが、幸せな時間は長くは続かなかった。
小さな諍いが続いていた黒瀬家と吾積家だったが、黒瀬家の当主であった鷹継の死をきっかけに、関係は一層悪化した。
戦が起これば澄親と会うことができなくなる。最悪の事態を避けようと奔走した景隆の努力も虚しく、争いの火種は大きくなっていった。
いよいよ戦が始まる直前、何とか澄親と会う機会を作り、必死で説得した。
しかし、澄親は景隆ではなく黒瀬家を選んだ。
吾積家に寝返ってくれれば破格の待遇で召し抱えると言ったのに、澄親は是と言わなかった。
この機を逃せば、もう2度と澄親と会うことはできないかもしれない。それなら死んでしまった方がマシだ。
そう情に訴えたところで、澄親の意思は変わらなかった。
焦った景隆は凶行に走った。狂っていたのかもしれない。
この手に入らないのなら、いっそのこと。
そして、景隆は愛しい男を手にかけた。
後悔した景隆は仏門に入ることを願ったが、周囲が許してくれなかった。
せめて澄親を弔いながら生きようと寺に通ったが、親しくしていた蓬翠も若くして亡くなった。
その後、己がどう生きてきたか覚えていない。
愛するものを失って、亡骸のように生きていたのだろう。
だが、今は戦国の世ではない。
2人を隔てるものは何もないのだ。
「今生では、幸せになろうね」
前世の失敗は繰り返さない。
宵坂はうっそりと微笑んだ。
〈了〉
あとがき!
10か月ぶりくらいの転生組でした。
多分、胡桃は永遠に慧に思い出してもらえないでしょう。
慧は胡桃のこと食べちゃいたいくらい好き(not性欲yes食欲)らしいので、普通に告白すればワンチャンお付き合いはできると思います。
そんな胡桃よりも、私はノリリンの方が心配です。
書いたの私ですが、こんなにチョロ過ぎて大丈夫か。
『花の名前』の菫と肩を並べるくらいチョロい。ひぇ~心配!
宵坂はベタ惚れ攻めなんですけど、ノリリンは誘い受け(無自覚誘い受けかもしれんが)というよりも、詳細のところ(こんなのが好き!って、なみさんと会話してるとこ)に記載してあった「何だかんだで攻めが大好きな受け」の方が近いかも。
宵坂も「受けが依存するように仕向けてくる攻め」寄りですね。
この後、ノリリンは幸せになるのか、それとも宵坂がヤンデレ発揮してメリバになるのか。
何となく、悪い方向に行きそうになったらゴンちゃん(権三郎)が助けてくれそうな気がします。良かったね、ノリリン。
登場人物紹介!
笹塚稔里(前世では澄親)
前世では絵をたしなんでいたが、現世でも絵の才能は引き継がれた模様。
その辺りも宵坂を喜ばせる要因となっている。
小柄で可愛い見た目。
多分、宵坂が抱えてどっかに持っていけるサイズ感。
胡桃が覚えてないのは、小姓じゃなかったから。
宵坂のことは前世で殺された記憶と仲が良かった記憶のどっちも持ってるから、脳がバグってる。
普通に宵坂のことは好き。
ちなみに澄親は景隆のことを恋人だと思っておらず、親友だと思っていた。
「景隆どの、抱き着くし距離感近いし、親に甘えられなかったのかな……」とか考えていたので、争いがなくても何かしらの事件は起きていたと予想される。
宵坂蒼真(前世では吾積景隆)
前世から続く激重感情の持ち主。
澄親を追いかけて黒瀬家に寝返ろうとしたが家臣に阻止されたし、駆け落ちの提案も澄親が拒否した。
登場人物の誰よりも戦国の世を怨んでいる。
とりあえず澄親の遺体は食べておらず、ちゃんと供養した模様。
眼鏡をかけた敬語キャラにしようと思っていたが、作者が忘れていたために普通のクール系美男子になった。
下書きメモでは敬語で喋っていた。いつしか敬語は消え、眼鏡は犠牲になった。
眼鏡がお好きな方は、心の目でかけさせて下さい。
コロ(前世では虎子丸)
蓬翠が飼っていた猫。現世では犬に転生。
胡桃が覚えていないということは、胡桃が他界した後に蓬翠が飼い出した。
ちなみに死んだ後は蓬翠に食われた。
前回からの奴ら(詳細はこちら)
・胡桃(前世では桃春)
・慧(前世では蓬翠)
・星空(前世では瑠璃若こと綾常)
・権三郎(前世では鷹継)
というわけで2作目でした!
ここまでお読みくださりありがとうございます🙇♀️
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