20年落ちのヴィッツの車検が30万だった件。整備士と『ダルマさんが転んだ』をしてきた
さささ…さ…さんじゅうまんえんなんですよ。
ヴィッツの車検、30万円なの…。
見積書をみて、呼吸困難になりかけた。
そりゃ20年近くも乗ってますからね。
タイヤもなんかツルツルしてるし。
クルマのことはよくわからないけど、これって、車検の値段なの?
ちっちゃい車なら新車で買えるんじゃないの? トゥクトゥクとか。
でも、ディーラーは、ぼったくりなんてしてないと思う。
だって、自分は「見込みなし客」だから、熱心な営業担当者はついてない。
車検の受付をしてくれたのも、とても誠実そうな整備担当者の方だ。
その日は、車をディーラーに持ち込んで、ラウンジのテーブルで珈琲を飲みながら、のんびりと車検の見積りができるのを待ってた。
しばらくすると、整備担当の方がテーブルへと近づいてくる姿が見えた。
でもね、なんか離れたところで止まって、こっちをみてる。
一瞬、珈琲に目を落として、振り向いたら、ちょっとだけこっちに近づいてた。ポーズも微妙に違う。
ラウンジで「ダルマさんが転んだ」がはじまってた。
なになに? なにがどうなってるの?
よくわからないけど声をかけてみる。
「どうしたんですか?」
「いえ…」
なんだか困った顔をしてる。
「見積書ですよね? どうぞ、こちらに来ておかけくださいな」
自分がディーラーのヒトみたいになってる。
整備担当の方が、小走りに駆け寄ってくる。
そして、テーブルの向こう側に座る…と思いきや、オレの真横に立った。
ここでフェイント? ディーラーってこういうルール?
なんだか落ち着かない。
「座ってくださいよ。それで、いくらぐらいになりそうですか?」
でも、整備士のヒト、動かない。
動かざること山の如し。決意が怖い。
聞いただけなのに、潤んだ目で何かを訴えてくる。
もしかして、オレ、なんか悪いこと聞いてる? そうだったらごめん。
少しの沈黙の後、彼は意を決したように口を開いた。
「それがですね。タイヤ交換が必要でした。あとですね、シ…シャーシがゆ…歪んでいて、安全のために…修理が...。あとマ…マフラーが」
シャーシがなんなのかよくわからないけど、人間の背骨みたいなところ?
「あの、それでおいくらぐらいに」
「タイヤは、一個だけは使えそうなんですけど。あとホイールは外したら、元に戻せない感じで」
なかなか切り出してくれない。
「それで、だいたい、おいくらぐらいで?」
整備士の人、もう泣き笑いみたいな顔になってる。ごめん。
「それが…さ、さささ、30万円ででで…」
ビックリして、思わず聞き返した。
「えっ? さ、さささ、30万円ででで…」
オレも泣き笑いみたいな顔になってた。
そして見積書を手に、放心状態で帰ってきました。
これはもう車検じゃないよね?
軽い気持ちで「健康診断」に行ったら、「延命措置」か「安楽死」かの選択を迫られてる。
フレームが歪んでるって言われると、確かにそんな気もする。
ハンドルを切るときにヘンな音がしてた。
マフラーもすごい勢いでブルブル震えてて、信号で止まるとヘンな音が聞こえてた。
ヴィッツと過ごした思い出がよみがえってくる。
近所のスーパーに買い出しにいったこと
近所の役所にマイナンバーの更新にいったこと
近所のホームセンターに蛍光灯を買いにいったこと
お使いばっかりだろが!! イヌの散歩かよ!
思い出の解像度が異様に粗い。
大雨の日に窓を閉め忘れて、外に放置してたことがあった。
翌日、乗ろうとしたら、ドアポケットが水でいっぱいにあふれてた。
シートは水を吸ったスポンジみたいになってて、座ったらズボンがびしょ濡れになった。
ダッシュボードのグローブボックスを開けたら、ボックスごと外れた。
でも、まだ元気に走ってる。
オレより早く走れるし、オレより重いものを運べる。
延命措置しかないよ。オレよりすごいんだから。
中古市場なら値段もつかない。
だけど、オレのなかでは価値がついている。
こいつが動けなくなった時のことを想像する。
なぜかオレは、でっかい紐をかついで、ヴィッツを引っ張っている。
「もう楽にさせてくれ」とヴィッツが言う。
オレは何も答えない。
🔶「ヴィッツ」シリーズ
いいなと思ったら応援しよう!
最後までお読みいただきありがとうございました。チップしちゃおうかなと思ったら、迷わなくていいんです。私がそっと背中を押しますからね!