見出し画像

30年前、講談社が「ユダヤ本」を出さなかった理由とは?

(ヘッダー画像はYouTube「ゆうき牧師のバイブルライフコーチング」より)


昨日に続いて、出版界の話題。

昨日の絶賛炎上中『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』の話題より地味だ。

でも、元出版人として面白い話だったので、記録しておきたい。


高原剛一郎氏(1960年生まれ、東住吉キリスト集会)は、いま日本で人気ナンバー1のキリスト教伝道師だと思う。

少なくともYouTuberとして活動している伝道師の中では、最高の視聴回数を誇っている。

彼の新刊、5月3日発売予定の『世界は聖書でできている』(秀和システム刊)は、予約段階でアマゾンの「キリスト教書籍」や「哲学・思想の評論集」カテゴリで1位となり、先ほど見たら本全体でも400位台にランキングされていた。


その彼が、かつて講談社から本を出す予定だったのに、編集者との意見の違いで出せなかった、という話を、最近のYouTube番組で、かなり具体的に語っている。それなりのニュースバリューはあるだろう。

彼がその話を語ったのは、自分のYouTubeチャンネルではなく、新刊のプロモーションのためにゲストで出た、別の牧師のYouTube番組だ。


【世界情勢#38-1】予約殺到!高原剛一郎先生の新刊『世界は聖書でできている』緊急対談!(ゆうき牧師のバイブルライフコーチング 2025/4/15)


講談社との出版話は、その番組の最後の方に出てくる。以下、その文字起こし。


(動画28:00あたりから)

私ね、トラウマがあるんです。

今から30年ほど前、ある保守の大御所の評論家の方、まあ名前言ってもいいでしょう、加瀬英明という方がいらっしゃるんですよ。この人のお父さんは、あの日米戦争開戦時の北米局長です。

で、加瀬(英明)先生は日本ブリタニカ百科事典の初代編集長で、今の自民党の右寄りの人たちの師匠なんですよね。

彼がある時、私の講演を聞いてくださって、まだ30代なのに私をえらい可愛がってくれたんですよ。君、本を出したらいいぞってね。それで日本でいちばん老舗の本屋さん、講談社、護国寺にありますね、東京の。(そこを紹介してくれた。)

で、いきなり本を出すと言っても、あなた無名だから、有名どころと対(つい)になって書いたらどうだ、ということでね。

当時、ユダヤといえばマーヴィン・トケーヤーという、ラビがいたんです。20冊以上、ユダヤ教の観点で見た日本人論とか、日ユ同祖論とか、ユダヤ人の知恵とかタルムードの知恵とか、いっぱい書いている人なんですよ。

その人が私にドーンと資料を渡す、と。で、私がその資料を読んで現場に取材に行きます、と。

そして彼との連名で、「対極の民 ユダヤ人と日本人」という本を出すということで、ある言論雑誌、月刊誌に、15カ月連続で連載したんです。その連載を合本にして本を出そうということでね。

自分で言うのもなんですが、すごく好評でね、保守論壇の人たちから褒められた論文だったんですが。

いよいよ本にするときに、ちょっと編集者とのあいだで譲れない大問題が起こったんですよ。

それは何かというとね、ユダヤ人がもしイエス・キリストを信じたら、キリスト教徒になるので、その瞬間、ユダヤ人でなくなる、というのがこの編集者の考えだったんです。

というのは、ユダヤ人の定義は、ユダヤ人の母親から生まれて、そしてユダヤ教に改宗しているユダヤ教徒であることだ、と。それが、イスラエル共和国のユダヤ人の定義になっている。

だから、ユダヤ人でイエスを信じたら、もうそれはユダヤ人じゃない。クリスチャンであって、ユダヤ人じゃない、と。

いや、そうじゃない、ユダヤ人がイエスを信じることこそ、ユダヤ人として完成することなんだ、という論旨で(自分は)書いたんです。

それを、編集者の言うことを私が受け入れたら、私がこれを書いた意味がなくなるし、全部、話が崩れていくんですよ。

だから、これを呑んでくれ、いや呑めない、呑んでくれ、呑めない、ということでね。喧嘩別れで。出なかった。幻の本、これ。

でもね、そのペンディングの期間が1年間つづいたんです。

出すと思って書いたわけですよ。で、出さないともすぐ決まらないで、1年半のあいだ、ずっと引き延ばされてね。ある時から、メールを送っても、返事もこない。

というような状態の中でね、メンタルがね、まいっちゃったんです。


(*ここで高原氏は、加瀬英明の父、加瀬俊一を「日米開戦時の北米局長」と言っているが、wikipediaによれば「東郷茂徳外務大臣の秘書官兼政務局6課(北米担当)課長として日米交渉を担当した」とある。正確には局長ではなく課長らしい)



この出来事により、彼はこれまで本の出版に積極的になれなかったという。

出版社が、著者に原稿を依頼して、原稿が出来たあとに出版を取りやめる、ボツにする、ということは、あり得る。

とはいえ、やはりかなり特別で、通常は騒動になる。


その場合、原稿料という名目の「解決金」(ボツ料)を払うのが普通だと思うけど、高原氏の場合はどうだったのだろう。

高原氏は雑誌に連載しているから、そこで原稿料が出ているだろうし、取材費も出てはいるだろう。

しかし「ボツ料」が払われたかどうかはわからない。


ちなみに、高原氏は雑誌名を明らかにしていないが、ネットの彼の古い経歴書に、以下の文言が残っていた。


雑誌『自由』に連載中の「対極の民 日本人とユダヤ人」が、単行本として出版予定


「自由」は、かつて存在した保守系月刊誌で(2007年に終刊)、加瀬英明が編集委員会代表を務めていた。

その加瀬氏が2022年に亡くなったから(85歳、老衰)、高原氏もこの話ができるのだろう。


しかも、「ユダヤ人とは何か」をめぐって、編集者と意見が対立した、というのが、異例だ。

この問題について、私は詳しいわけではないが、高原氏がいわゆる「クリスチャン・シオニスト」で、イスラエルのユダヤ人もキリスト教に改宗すべきだ、という考えの持ち主であることは、少し前にnoteに書いた。


クリスチャン・シオニスト(キリスト教徒のイスラエル支持者)は、いまトランプ政権を支える宗教の一派として注目されている。

だけど、30年前に、一般的だったとは思えない。

高原氏としては、このボツになった話によって、30年前から自分の考えが一貫していることも言いたいのだろう。


高原氏の話で疑問なのは、共著者であったはずのマーヴィン・トケーヤー氏の立場である。

イスラエルのユダヤ人もキリスト教徒になるべきだ、という考えに、トケーヤー氏は当然反対しただろう。

そして、トケーヤー氏が反対したら、加瀬氏もそれに味方しただろう。


だから、高原氏原稿の「ユダヤ人」定義に反対したのは、編集者ではなくトケーヤー氏ではないか。あるいは、編集者はトケーヤーの意思を代弁したのではないか、とも考えられる。

マーヴィン・トケーヤー氏は、88歳で健在で、ニューヨークでユダヤ教のラビを続けているという。


ただ、いずれにしても、出版する約束で書いた原稿をボツにされて、高原氏がメンタル的に打撃を受けたのは本当だと思う。

仮に「解決金」が払われたとしても、その精神的ダメージのほうが大きいのではないか。

本来なら、出版社の信用問題になる。


このエピソードが語られたYouTube番組では、聞き手が浮世離れした牧師さんなので、なんとなく聞き流されていた。

元出版人の感覚からは、けっこう大きな「事件」であり、もう少し事情を詳しく知りたかった。


<参考>


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集