【Netflix】「アメリカン・マリッジミステリー」子供の心を引き裂いた再婚と殺人
【概要】
アメリカン・マリッジミステリー: 密室の3人に起きたこと
Deadly American Marriage
2025
16+
ドキュメンタリー
殺人か、それとも正当防衛か? 妻と義父との口論の最中に命を奪われたジェイソン・コーベット。この事件の詳細を当事者双方の視点から追うドキュメンタリー。
(Netflix公式サイトより)
予告編(英語)
【評価】
(ネタバレあり)
5月9日に世界公開されたNetflixオリジナルドキュメンタリー。
いま英語圏で大いに話題になっている。
Netflix得意の犯罪実録もの。一見、理想的な家族の内幕が、犯罪によって暴かれる、というパターンだ。
Netflixのドキュメンタリーとして、最上の出来ではないけれど、「家族」についていろいろ考えさせてくれる。
話を引き延ばして何回かに分けたシリーズではなく、とにかく1回(1時間42分)で終わらせているのがいい。
アメリカ製かと思いきや、これはイギリス製のドキュメンタリー。
私の採点は、100点満点で70点。
なかなか複雑な話だが、簡単に整理すると、こうだ。
成功した実業家のアイルランド人、ジェイソン・コーベットは、アイルランドでマグス(マーガレット)・フィッツパトリックと結婚し、長男ジャックと長女サラをもうけた。
でも、サラを出産した直後の2006年に、マグスが急死し、30歳でジェイソンは男やもめになる。
そこで、ジェイソンは2008年、アメリカ人で31歳のモリー・マータンズを、ベビーシッターとして雇う。当時、ジャックは4歳、サラは2歳だった。
ジェイソンとモリーはすぐいい仲になり、二人は結婚して、家族でアメリカのノースカロライナ州に引っ越した。

事件が起こったのは2015年。
ジェイソンは自宅で、惨殺死体で発見される。頭蓋骨がこなごなになるほど破壊され、現場は血の海だった。享年39歳。
ジェイソンをレンガとバットで殴ったのは、モリーと、滞在していたモリーの父トムだった。
モリーとトムは、先にジェイソンがモリーに暴力を振るったと主張。モリーはジェイソンに首を絞められたという。つまり、ジェイソンのDVに対する正当防衛だと主張した。

当時10歳のジャックと、8歳のサラは、事件を直接目撃してはいないが、父親が怒りっぽかったと、モリー寄りの証言した。が、その証言は、バイアスがあるとして、裁判で採用されなかった。
裁判では、防衛だとしても過剰だとして、2017年に2級殺人と判決され、モリーとトムは20年以上の懲役となる。
この事件は当時、アメリカとアイルランドの両方で、大きな話題になったらしい。
アイルランドでは、「アイルランド人がアメリカ人に惨殺された」という感情が爆発したようだ。
だが、2018年、モリーとトムの弁護士は、子供の証言が裁判で採用されなかったことなどを不当として、再審を請求した。
2021年、ノースカロライナ州の高裁は再審を認め、モリーとトムを保釈金付きで釈放した。
それに対して、事件以後、ジェイソンの妹(トレーシー・フィッツパトリック)夫婦に引き取られてアイルランドで暮らしていたジャックとサラは、
「父を殺した犯人が釈放されたのは許せない」
と憤慨する。
2023年、今や10代の後半になったジャックとサラは、「子供の時の証言はモリーに操作されていた」と主張し、再審の法廷で、ジェイソンは優しい父であり、モリーとトムは信用できないと訴えた。
再審の結果、司法取引がおこなわれ、モリーとトムは有罪を認める代わりに刑期の大幅な短縮(懲役20〜25年→懲役4年)を得た。
2024年、モリーとトムは最終的に釈放された。
モリーは、「自分たちは無罪だが、高齢の父(トム)の残りの人生を刑務所で送らせるわけにいかないから、罪を認めた」と語った。
モリーは、子供たちに接近禁止となった。
事件は、ジェイソンのDVに対する過剰防衛だったのか、それとも、ジェイソンを憎んだモリーとトムの殺人だったのか。
再審の裁判官は、「結局、真実はわからない」と語った。
どちらの言い分が正しそうかは、ドキュメンタリーを見て、各自で判断するしかない。
以上がこのドキュメンタリーの「あらすじ」だが、わかりにくいのは、モリーの側の動機だ。
モリーがジェイソンを殺したとして、その「憎しみ」の原因はなんだったのか。
モリーは、子供たち(ジャックとサラ)を、マータンズ家の養子にするよう、ジェイソンに求めていた。
このあたりが、「結婚して戸籍が同じになれば、子供たちも共有物だろう」と感じる、私のような日本人にはわかりにくい。
なぜ、夫婦なのに、子供を「養子縁組」しようとするのか。
そのあたりが、番組でもちゃんと説明されてないので、私自身よくわからないのだが、ジャックとサラは、アイルランド人の両親のあいだで、アイルランドで生まれたから、アメリカの市民権がないのだろう。
モリーは、子供たちと、アメリカで住み続けたいと思っていた。だから子供たちをアメリカ国籍にしたかったのだろう。
しかし、ジェイソンは、ゆくゆくは子供とともにアイルランドに戻って事業をするつもりだったらしい。
くわえて、ジェイソンは最初の妻(マグス)と結婚した時、もし自分が死んだら、子供たちの親権は自分の妹(トレーシー)に渡る、という遺書を残しており、それをモリーと結婚した後も、書き換えなかった。
つまり、ジェイソンは、子供たちの親権を、モリー(マータンズ家)に渡すつもりがなかった。
そのことをめぐって夫婦仲が悪くなり、ジェイソンがモリーとの離婚を考え始めたのを察知して、モリーは、子供たちを含めてこれまでの結婚生活の全てを失うと感じていた。
もし、モリーと、父親のトムが、ジェイソンを殺そうと決意したとしたら、このことが原因だろう。
親権と国籍の帰属がからむ、そういう複雑な事情が、私のような子供のいない、ぼーっと生きている日本人にはわかりにくい。
モリーは、知り合いの弁護士から、「母親としての実績があれば親権を得られる」とアドバイスされていた。
だから、事件の前から、ジャックとサラにことさら密着し、仲良くしている写真をたくさん撮って、のちにSNSで大々的に公開する。

ジャックとサラは、事件当時、モリーが母親として自分たちを愛していると信じていたが、そうしたモリーの作為的な振る舞いに、次第に疑問を感じるようになる。
このドキュメンタリー、前半はおおむねジャックとサラの視点に立って、モリー側に不利な印象をばら撒くのだが、後半になると、少しトーンが変わってくる。
このドキュメンタリーの「スクープ」で、論議を呼びそうなのは、ジェイソンの最初の妻、マグスは、ジェイソンによって殺された可能性がある、と示唆している点だ。
公式には、マグスは喘息の発作で呼吸困難を招いた病死とされていたが、首を絞められた可能性があるという。
それが事実なら、ジェイソンのDV癖を主張していたモリー側の言い分が信憑性をおびる。
しかし、子供たち含め、コーベット家の側は、ジェイソンは愛情に満ちた優しい人物だった、DVはあり得ない、と一貫して主張する。
ジェイソンは、本当はどんな人物だったのか。真正面から見方が対立しているわけだが、ドキュメンタリーを見ているだけのわれわれには、判断が難しい。ジェイソンについての矛盾したイメージを抱かせたまま、番組は終わる。
誰もが感じるのは、ジャックとサラという子供たちが可哀想だということだろう。
もの心つく前から、父と母、二つの家系の綱引きの中で、心を操作されているので、両親について何が真実なのか、わからなくなっている。
客観的には、生みの親に早くに死なれ、育ての親(モリー)には裏切られたと感じて成人する。
事件後、アイルランドの伯母夫婦のもとで、愛情深く育てられたようだが、幼少期の心の傷は、そう簡単にいやされないだろう。
「所有(親権)」をめぐり、争いのタネにされるくらいなら、親などいないほうが子供たちにとって幸せだ、と思えてくる。
<参考>NetflixのDVドキュメンタリー

