母方の祖母は、100歳を迎えた翌日に老衰にて亡くなるという、大往生をやってのけた人だ。
30年近く前、彼女がまだ70代の頃。小学生だった私は盆・正月と、ことあるごとに奈良県から石川県に住む祖母の家に家族で行っていた。
ずっと農業をしていた祖母。私の記憶にある祖母の腰は、既にひん曲がっており、ゆっくり時間をかけて歩く人だった。しかし髪は、ふんわりと、そして黒々としていた。髪のおかげか、顔だけ見れば年よりも若く見えるほど。
祖母はたくさん喋るほうではなかった。親戚一同が集まる席(孫、ひ孫をいれると20名以上集まるときもあった)では、いつも自分用の座椅子に座り、にこにこと全体を見渡している。そういう人だった。
いつぞや、自宅で母が白髪染めをしていた。昔の白髪染めは、今の染料よりもっと臭いがきつく、私は母がリビングで白髪染を始めると、敷居なしでつながっているダイニングに逃げ込んでいた。
慣れた手つきで白髪染めを塗る母。それを遠目に眺める私。
「おばあちゃんはあんなに髪黒いのに、お母さんはなんで白髪多いん?」
幼い私は、デリカシーのデの字もない言葉を母にぶつけた。もちろん悪気はない。
すると母はふふっと笑った後、こう続けた。
「何言うてるん。おばあちゃんはホンマは髪真っ白やで。伯母ちゃんに染めてもろてるんやから」
幼い私は、はたから見れば、きっと目をまんまるにして驚いていたに違いない。あのふわふわの真っ黒な髪が、染めてできていたなんて。驚く娘をよそに、母は続ける。
「80歳になったら染めるのやめるって言ってけどな。ほんで、お母さんはあんたが成人したら染めるのやめるから」
その後、きっかり80歳だったかは不明だが、祖母は髪の毛を染めるのを辞めた。ふわふわの髪の毛は、ふわふわのまま真っ白になった。
そして母もまた、白髪染めを辞めた。こちらはわたしが大学を卒業するまで、宣言より2年延長した。白髪と黒髪が混ざった期間を過ぎ去り、今では見事にまで真っ白な髪を携えている。黒髪のままなら、年より若くみられるだろうに。70歳を迎えた母に、祖母の面影を重ねた。
そして娘の私はというと、20代半ばには白髪染めを始めた。人生で初めての染髪は、白髪染めであった。以降、独身時代は毎月のように美容室に行き、白髪を染めていた。
最近は節約のため、家で染めることも多い。昨日、白髪染めをしている途中でラップを用意するのを忘れていた。染料を塗った後、ラップでまくと色付きがよい気がするのだ。同居する母に、ラップを取ってもらうようにお願いした。
すると、母はラップを引っ張り出し、私の頭に巻こうする。
「いいよいいよ、自分でやるよ」
「ええからええから、よう姉ちゃんにもやってん」
なんでも、姉がこの家で同居していた時も、よくこうやってラップを巻いていたらしい。ぐるっと巻かれたラップ。眉毛に半分かかってしまったが、ありがたく受け入れることにした。
真っ白な髪の母が、娘の私の白髪染めを手伝う。シュールな光景に思わず笑ってしまった。
きっと、こんな些細なことも、いい思い出として、振り返る日がくるのだろうな。母の日を前にちょっぴり切なくなったのでした。
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