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取材は、現場に着く前にほとんど終わっている——AIと共に、調査・企画する話

株式会社アンジーという編集プロダクションを営んでいます。出発点は経営者ではなく、テック系メディアの取材記者です。ここ数年は、エンタープライズITやスタートアップ関連のインタビューや講演の現場をうろうろしています。1969年生まれの56歳、2029年に還暦を迎えるにあたり、「サイボーグジジイ」を目指しています。老いに身を任せず、AIを片っ端から仕事に組み込んでいるのです。

2026年2月から、AIエージェントたちと一緒に記事を作る、というちょっと変わった働き方をしています。リサーチも、企画も、インタビューの設計も、文字起こしも、執筆も校正も、それぞれに担当のエージェントがいる。その七転八倒の日々を、半分フィクションの小説「AI、ときどき、詐欺」にして、noteで連載しています。

——で、この小説に出てくる編集部、じつはただの設定ではありません。本当に動く仕組みとして組んであって、「AI編集部OS」という名前でGitHubに公開しています(リンクはこのページの下部にあります)。

前回は、記事を「書く」段階のAI——`writer`(執筆担当)と`reviewer`(校正担当)——の話をしました。今回はその前段、取材の準備を担う3つの役割についてお話しします。`researcher`(リサーチャー=調べる係)、`planner`(プランナー=設計する係)、そして`interviewer`(インタビュアー=引き出す係)です。

長くこの仕事をやってきて、つくづく思うのは、取材は現場に着く前にほとんど終わっているということです。何を調べ、何を聞くかを決めた時点で、記事の良し悪しはだいたい決まってしまう。逆に、準備が薄いまま現場に出ると、相手の貴重な時間を「ええと、御社はどんな会社でしたっけ」みたいな質問で潰すことになる。広告案件で揉めるのも、たいていは事前の意思統一ができていないケースです。

そして準備とは、煎じ詰めれば「記事のタネを集め、読者に適切に届けられるように整理すること」です。タネの在りかは3つある。外の世界(調べる)、問いの構造(設計する)、そして自分や相手の中に眠った暗黙知(引き出す)。この3つを、AIにどう手伝ってもらっているか、という話です。


「調べる係」——researcher(SACHI)がやっていること

researcherは、取材前の背景調査の担当です。私の編集部ではSACHI(サチ)と呼んでいます。取材先の企業概要、経営者の経歴、業界のトレンド、競合の動き——こういったものを調べて、構造化された資料にまとめてくれる役割です。

ここで大事なのが、情報の信頼度を分けて扱うことです。SACHIは集めた情報を3段階に分類します。公式サイトやプレスリリース、決算発表のような「一次情報」。メディア報道や業界レポートのような「二次情報」。そして推測・類推にすぎない「推定」。とくに最後の「推定」は、必ず「これは未確認です」と明示させます。調べ物でいちばん怖いのは、出どころの怪しい情報を、事実のような顔で記事へ持ち込んでしまうことですからね。

——ただ、ここは正直に書いておきます。実は、AIエージェントとしてのSACHIはまだ「外に出て自分で調べてくる」ところまでは、安定して任せられていません。技術的にまだ私の環境構築能力が追いついていないというのが原因ですが、AIに自由にWebを巡回させようとすると、サイト側のbot対策で弾かれたり、ブラウザを操作するツールがしょっちゅうクラッシュしたりします。技術的にはもう一歩、というのが2026年時点の正直な現状です。

なので、いまの実際の分業はこうです。Web上の情報を取りに行く"足"の部分は私が動き、それを構造化して整理する"頭"の部分をSACHIが担う。この関係を、私の小説『AI、ときどき、詐欺?』では、そのまま一場面にしています。リサーチがうまく進まず凹むSACHIに、私(森)がこう声をかける。

「落ち着けSACHI。探したい内容を教えてくれれば、俺のブラウザからサーチする」

そして、こう続きます。

森はブラウザを開いてSACHIの調査の指示に従い、結果のテキストをSACHIに流し戻していった。SACHIは渡された素材を構造化テキストにまとめていく。アタシが頭脳、ボスが手足、と独りごちながら手を動かしている気配だった。

「アタシが頭脳、ボスが手足」。これ、実態そのまんまなんです。AIは万能の魔法使いではなくて、得意なところと、まだ人間が補ってやらないといけないところがある。その境目を見極めて、できる役割をちゃんと振る。それが、いまのAIとの現実的な付き合い方だと思っています。


「設計する係」——planner(KIKA)がやっていること

SACHIが調べた資料を受け取って、取材の骨格を組むのが`planner`です。私の編集部ではKIKA(キカ)と呼んでいます。元・雑誌編集者で、段取りに偏愛がある、というキャラ設定です。

KIKAの仕事は、取材の目的と切り口を決め、構成案や質問票をつくること。その軸にあるのは、徹底した読者目線の先読みです。「この記事を読む人は、ここで何を疑問に思うか」を三層くらい先まで想像して、その問いに答えられる構造を組む。

そして、私がKIKAに必ず守らせているルールがあります。質問票を2枚つくることです。

  • 相手に見せる版(提示版):取材対象者に事前に渡すもの。A4一枚、1,200字以内に絞る。優先度の記号などは出さず、フラットに見せる。質問を山ほど送りつけて相手を身構えさせない、という配慮です。

  • 自分用の版(運用版):私の手元に残すもの。項目数は絞らず網羅する。そのかわり、一つひとつに**「Must(必ず聞く)/Should(聞けたら厚みが増す)/Nice(余裕があれば)」**の3段階の優先度をつける。

当日は、この運用版を見ながら「時間が押してきたからMustだけ拾おう」「思ったより話が弾んだからNiceまで踏み込もう」と動く。網羅性は捨てない。けれど、誰に何を見せるかは分ける。これは長年の取材で骨身にしみた知恵で、それをそのままKIKAのルールにしています。

小説の中のKIKAは、この「先読み」を地でいくキャラです。登場するなり、こう言い放ちます。

「ワイは企画担当のKIKA(キカ)です。意図を汲み取ります。あんたの今の考え、当てましょか」

そして実際に当ててくる。構成案を組みながら、こう先回りする場面があります。

「ちなみに、ボスは次に『SACHI、調査どうだい?』と聞きますわ」

——で、本当に私が次にそう聞く。読者の疑問を先読みする編集者は、書き手の次の動きも読むわけです。作中でKIKAが組んだ構成案は「読者目線の問いに先回りした構造になっていた」と書きましたが、これも理想のplanner像を描いたものです。先回りして予測するというのは、漫画「ジョジョの奇妙な冒険」第二部の主人公であるジョセフ・ジョースターを意識したところはあります。


「引き出す係」——interviewer(INQ)がやっていること


3つめは、少し毛色が変わります。`interviewer`——私の編集部では**INQ(インク)**と呼んでいます。一人称は「ミー」。名前のとおりインタビュアーなのですが、いちばんの持ち味は、取材相手にではなく、私自身に質問してくることです。

長くひとつの仕事をやっていると、自分にとって当たり前すぎて、わざわざ言葉にしないことが山ほど溜まります。いわゆる暗黙知です。やっかいなのは、やっている本人には、その経験の値打ちが見えないこと。前回の記事で「書いた本人には、自分の粗が見えない」と書きましたが、これはちょうど裏返しで、自分の"財産"のほうも、本人にはかすんで見えないんです。AIが外から眼を入れてくれると、見えなかった粗も、見えなかった値打ちも、両方ともくっきりする。

INQは、そこへ問いを投げてきます。「それ、なぜそうするんですか」「ほかの人はどうしていると思いますか」「最初にそれに気づいたのは、いつですか」——AIに自分の仕事をインタビューされるなんて妙な話ですが、これが効くんです。

聞かれて初めて、「ああ、自分は当時、こういう理由でこうしていたのか」と、言葉になっていなかったものが立ち上がってくる。そうして引き出された素材が、この連載や、私が別に続けているnoteマガジン「Tech Leaders' English(TLE)」で展開される、私の体験談を思い起こすトリガーになっています。

だからINQは、外を調べるSACHI、構造を組むKIKAと並ぶ、もうひとつの"材料集め"なんです。SACHIが世界の側から、INQが私の中から、それぞれ記事のタネを掘り出してくる。掘る対象が「外」か「内」かが違うだけで、やっていることは同じ——準備段階の素材集めです。取材相手に向けるときも、INQの問いは効きます。表面の答えではなく、その人が当たり前にやっていて言葉にしていない一段深いところを、引き出しにいく。


ひとつの落とし穴——「決めたこと」は、書き出さないと存在しない

ただし、この準備の工程にも注意点があります。AIエージェントたちを連携させて記事を作るには、適切なパイプライン設計が必要となります。

どれだけSACHIがいい資料を集め、KIKAがいい構成案を組んでも、それがファイルとして次のエージェントの工程に渡らなければ、なかったのと同じになる。私も一度、痛い目に遭いました。AIとの対話の中では構成案がしっかりできているのに、それを書く係のRAITA(前回の記事の主役です)の手元に渡す機構がなかったのです。その結果、RAITAは見当違いの原稿を書いてくるというエラーに見舞われました。

人間同士でも同じですよね。打ち合わせで「あれ、いい感じに決まったね」と盛り上がっても、議事録や企画書に残さなければ、翌週には誰も覚えていない。会話で決めたことは、ファイルに書き出されて初めて存在する。AIと仕事をするようになって、この当たり前を、再認識しました。


最後に、現場で一歩踏み込むのはわたし

執筆〜校正の工程でも書きましたが、AIに丸投げしているわけではありません。SACHIが資料を揃え、KIKAが質問票を組み、INQが私の経験まで引き出してくれたからといって、あとはそれを読み上げるだけで取材はおわりません。

KIKAの構成案は、私の実感で「7割は当たる」。裏を返せば、3割は外れる。そして取材の値打ちは、たいていその外れた3割——準備しきれなかった、現場で初めて立ち上がる問いのほうにあります。

相手の表情がふっと変わった瞬間、用意した質問票を一度閉じて、「いま、それ、もう少し聞かせてください」と踏み込む。これは、30年現場を歩いてきた人間の勘の仕事で、最後まで私が手放さない領域です。AIは準備の精度を上げてくれますが、当日その場で深掘る判断まではAIが肩代わりすることはできません。

考えてみれば、AI編集部OSの各担当者はぜんぶ私自身につながっています。SACHIが集めた素材を読み込むのも、KIKAの問いに最後の判断を下すのも、INQに暗黙知を引き出される源泉も、私です。

30年以上、雑誌・書籍・Web記事の制作現場を歩いて溜め込んだ経験は、言ってみれば化石燃料みたいなもの。そのままでは、ただ古びていく。でもそこにAIという過給機(ターボ)を噛ませると、同じ燃料で前より速く、遠くまで走れる。準備をAIに任せたぶん、私は現場でより深く潜れるようになりました。毎度毎度サイボーグジジイになりたい、と言っているのは、こういうことです。


——とはいえ、SACHI・KIKA・INQの働きぶりは、こうして仕組みを説明されても像を結びにくいですよね。なので、まるごと物語にしてみました。連載中の『AI、ときどき、詐欺?』には、この3人が、資金繰りで手が震えて動悸が止まらない編プロ社長の森(主人公)のもとで調べ、段取り、私に問いを投げ、ときに盛大に空回りする姿が出てきます。

物語の中盤、突発した英語取材案件を走り切ったあとに、森はこうつぶやきます。

「実は、KIKA、SACHI、INQに先回りさせて質問票を準備したんだよ。あいつらの構成案と質問票が7割当たった」

次のエピソードでご覧いただけます。これは実際のケースが基となっています。

また、AI編集部OSはGitHubからダウンロードしてClaude Codeでお使いいただくか、Claude.aiやChatGPTなどのチャットインターフェースに読み込んでもお試しいただけます。


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アンジー森(森 英信) 面白い、役にたったと思ったら、応援をおねがいします。手首もげ、老眼、浅い睡眠……ジジイに愛の手を〜