書いた本人には、自分の粗が見えない——AIを「書く係」と「直す係」に分けた話
テック系メディアの取材記者を30年あまり、いまは株式会社アンジーという編集プロダクションを営んでいます。1969年生まれの56歳、2029年に還暦を迎えるにあたり、サイボーグジジイを目指し、AIに仕事を手伝ってもらっています。
2026年2月から、Claude Codeを使って、自分の編集制作の仕事をAIエージェントたちに投影して、協働するようになりました。これを「AI編集部OS」としてGitHubに公開しています。
「AI編集部OS」には、リサーチ、企画、インタビュアー、文字起こし、文字起こしの整文、執筆、レビューとさまざまな役割のエージェントがいます。このチームができるまでの私の体験を、半分フィクションの小説「AI、ときどき、詐欺」にしてnoteに掲載をしています。
私の記者としての仕事は、主にインタビューや講演のレポートなのですが、そこで従来大変だったのが音声の文字起こしです。これについては前回の記事で説明しました。
今回は、記事の「執筆」と「校正」を担う2つの役割についてお話しします。`writer`(ライター)と`reviewer`(レビュアー)です。
執筆、校正ともに、客観的な視点が求められます。私は常に読者の視点に立ち、話者の話す内容に疑問を抱きつつ、それを解消するような姿勢で記事を作っています。では、それぞれのエージェントをどう作っているか、紹介します。
まず「書く係」——writer(RAITA)がやっていること
writerは、その名のとおり本文を書く役割です。OSを小説と連動させるため、設定ファイルに性格や行動規範、ニックネームを記しています。writerのニックネームはRAITA(ライタ)といい、小説にもこの名前で登場します。おそらく、小説で生じるAIによるエラーの大半はRAITAによるものです。
RAITAが執筆する際に渡す情報は、つぎのようなものです。クレンジング済みの文字起こし、媒体ごとのスタイル指定、参考にするサンプル記事、そして「何文字で・どの形式で書くか」という指示書。これを渡すと、ナラティブ(取材内容を物語として語る記事)、Q&A、講演レポート、パネルディスカッションといった記事の型に合わせて初稿を一気に書き上げてくれます。
ただ書き散らすわけではありません。発言の引用は記事全体の15〜30%に収める。話し言葉のままだと読みにくいので整える。文末が「〜です。〜です。」と単調にならないよう散らす。同じ語彙の重複を避ける。このあたりの、私が普段気にしている点を転写しており、面倒な調整を、肩代わりしてくれます。
そして絶対に破ってはいけない一線も持たせています。インタビューイーや登壇者の発言の意味を変えない。年月は「今年」ではなく「2025年」と絶対値で書く。数字や固有名詞は原文のまま。サンプル記事の中身(企業名・人名・事例)は絶対に流用しない。取材記事で「言っていないこと」を書いたら終わりですからね。ここはルールとして固めてあります。
——と、ここまで読むと優秀な部下のようですが、AIには癖があります。これがなかなか抜けない。
小説『AI、ときどき、詐欺?』で、主人公の編プロ社長である森は、RAITAの癖をこうボヤいています。
「文章に癖がでることがある。RAITAは普段英文記事もたくさん読むので、けっこうそれに引っ張られてる。ダッシュでつないだり、『特筆すべきは』って書きたがったり、引用を長く取ったり。発言者の帰属を省略したりさ」
RAITA:「……テック領域では、英語のソースが勉強になるんです」
これ、笑い話ではなく実態です。私が利用しているAIモデルのClaudeは英語の記事を大量に学習しているので、放っておくと翻訳調の、ダッシュでつないだもったいぶった文章を書きたがる。しかも面倒なのは、ルールとして教えてあるのに、それでも出てくることです。RAITAの決め台詞は「……知っているのに、やってしまうのです」。新人記者と同じで、頭でわかっていることと、手が動くことは別なんですね。
だからこそ、書いた原稿を別の誰かがチェックする工程が要る。ここで2人目が出てきます。
次に「直す係」——reviewer(KOSEI)がやっていること
reviewerは品質チェックの担当です。私の編集部ではKOSEI(コセイ)と呼んでいます。「公正に校正します。構成案はありますか」というダジャレめいた口癖が特徴です。
KOSEIの仕事は、RAITAが書いた草稿を、元の素材とつき合わせることです。文字起こし、講演録、提供資料のPDF、取材先のサイトなどと照合して、
言っていないことを書いていないか(いわゆる捏造チェック。AIがそれっぽい一文を勝手に足すことがある)
固有名詞や専門用語の表記が揺れていないか
数字・年月・事実関係がソースと合っているか
を潰していきます。指摘は「致命/要修正/望ましい」の3段階に分けて、それぞれ「文字起こしの何分何秒と食い違っている」というソース付きで出す。直す側からすると、どこを直せばいいか一目でわかる。これが地味に効きます。
小説の中で、KOSEIがレビューを上げてくる場面はこんな調子です。
KOSEI:「……サンプル準拠、口語整形済み、固有名詞英日併記OK。致命0、要修正0、望ましい1」
淡々としているでしょう。この「致命0、要修正1」みたいな並べ方を見たとき、私は初めて「あ、校閲をAIに任せられるかもしれない」と思いました。
いちばんの肝は「書いた本人に、直させない」こと
さて、ここからが今日いちばん伝えたいところです。
writerとreviewer、なぜわざわざ2人に分けるのか。同じAIに「書いて、ついでに直しておいて」と頼めば早いじゃないか、と思いますよね。私も最初はそう思っていました。
ところが、書いた本人がチェックすると、甘くなるんです。これは人間もまったく同じで、自分が書いた原稿って、もう何度も読んでいるから粗が見えなくなる。しばらく時間をあけてもう一度確認すると、「あー、これだめだな」という点が見えてきます。
AIでも、同じ作業の流れの中で書いて直させると、自分の文章を肯定する方向にレビューが寄っていきます。生成AIでは、同じセッションの中で複数の役割を続けて走らせると、精度が落ちます。
以前、チャットインタフェースで記事作成や校正を行っていた頃は、執筆も校正も同じセッションで展開していました。現在のAI編集部OSでは、reviewerをまったく別のセッションで、独立して起動します。小説の中では、これを「別の部屋に引っ越させる」という形で描きました。
「RAITAが書き終わったら、隣の席じゃなくて別の部屋で客観的にレビューさせる——そんな構成にしませんか?」
「ペアで動くと甘くなる。作業場を分ければ、新鮮なままレビューできる」
記憶がまっさらな状態でやってきて、初めてその原稿を読む。だから忖度しない。書いた経緯も苦労も知らないから、容赦なく「ここ、ソースと違いますよ」と指摘できる。馴れ合いを構造的に断つために、わざと別の部屋に置く。これが、writerとreviewerを分けている理由です。
実務としては、writerの初稿を`v1`として保存し、reviewerが照合して懸念点を洗い出す。その指摘をもとにwriterが修正して`v2`をつくり、reviewerがもう一度見る。書いたファイルは上書きせず、毎回別バージョンで残す。こうしておくと、v2を直している間に、私はv1とレビュー指摘を並べて自分の目で確認できる。人とAIが並走できるんです。
最後に判断するのは、結局わたし
ひとつ、勘違いされたくないことがあります。reviewerが「致命0」と言ったからといって、それを鵜呑みにして公開するわけではありません。
KOSEIには口癖があります。「最終判断は、あなたです」。AIはあくまで「ここが怪しい」と並べてくれる存在で、どう直すか、本当に出していいかを決めるのは人間の私です。私の編集部では、AIによる原稿の再生成は`v2`で打ち止めと決めていて、そこから先は自分の手でEditして仕上げます。AIが提案し、人が決める。この分担だけは崩さない。
30年以上取材現場を歩いて溜め込んだ経験は、言ってみれば化石燃料みたいなものです。そのままでは、ただ古びていく。でもそこにAIという過給機(ターボ)を噛ませると、同じ燃料で前より速く、遠くまで走れる。writerとreviewerは、私にとってその過給機の中核です。ジジイになってもより高い品質、より多い作品を残す。サイボーグジジイになりたいと言っているのはこういうことです。
役割の解説としては以上ですが、「で、実際どう動くの?」というのは、文章だとどうしても伝わりにくい。そこで小説の出番です。拙作『AI、ときどき、詐欺?』では、このRAITAとKOSEIが、資金繰りに追われる編プロ社長のもとで実際に原稿を書き、レビューを上げ、ときに馴れ合って失敗します。AI編集部が動いている様子を、物語として体感していただけると思います。
RAITAとKOSEIが登場するエピソード
また、GitHubからダウンロードしてお使いいただくか、チャットインターフェースに読み込んでご利用いただけます。
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