【noteでBL】金魚の背泳ぎ
ナントカイレブンいい気分〜♪ なご企画、いつもありがとうございます!
【テーマ】夏祭り、ゾンビ、水
【本文】3737字
【副題】〜不穏にアオハルを添えて、圧倒的陽の光を浴びる〜
水属性ゾンビって事は水死体? あかんグロいわ、水葬にしとこ……という発想から始まった今作。夏祭りだし、拙作のアオハルボーイズ(仮呼称ダサいな)出すと決めたまでは良いけど、仁志くん(今作攻めくん)がどんどん不穏枠に進化してきちゃった。
月は東にさんの素敵企画、100字BLの時点では、ちょっと拗らせてた程度だったのに…。
↑素敵企画はこちら。
↓同一キャラが出てる過去作はこちら。
あと、なんかめちゃくちゃ存在感あるクラスメイトカップルが出てくる前作はこちら↓から。
どれも知らなくても単品として問題なく読めると思いますが、興味を持って下さったなら、ティーブレイクのルマンド代わりにでもどうぞ。
コポコポ、コポンと音がする。
空の水槽に、誰にも供給されない酸素の泡が弾ける音だ。
「ちょっと前まで金魚がいたけど死んじゃって」
水槽も撤去したらこの部屋殺風景過ぎるから、と苦笑する男性。
まだ若い、大学生位の青年に見える。白地に青い蔦のような模様の浴衣を着ていて、本人が色白なのもあって全体的に白っぽい。少し長めの前髪が表情に影を落としている。
「妹が夏祭りの金魚すくいでとってきた子でね、どうせすぐ死ぬだろうと思ってたけど5年は生きたんじゃないかな」
痩せた手が十センチ近い大きさを示す。金魚のサイズだとしたら、随分と巨体だ。
「知らない人はフナだと思ってたんじゃないかな」
確か金魚はフナを鑑賞用に改良した小型種だから、長生きして野生に戻りかけていたのだろうか。そんな事あるのか。
「最期は可哀想で、背中に腫瘍みたいなのが出来ちゃって」
コポン。
一等大きな泡が割れた。
「もう上手く泳げなくなってたんだろうね。お腹を上にして、背泳ぎみたいに逆さまで動いてて」
眉を八の字に下げて、痛ましそうに目を伏せて、しかし表情は笑顔のままで男性は語る。
どんな表情を浮べるのが正解か分からないから消去法で選ばれた、そういう笑顔だと知っている。
そう、僕はこの顔を知っている。
唐突に思い出した。僕によく似た色素が薄いその顔の、張り付いた笑顔が嫌いだった。
「ちょうどぼくが死んだ時と同じようなものだったよ」
金魚の背泳ぎ
「駿河っち、一緒に夏祭り行かない?」
「いつのどこにだよ」
一学期の終業式を控えた教室は、夏の気配で騒がしい。
女子に貰ったとかいう、ピンクのうさぎがラメラメしいヘアピンで前髪を雑に止めたクラスメイトの駒沢が笑いかけてくる。真夏の向日葵畑のような、清々しくも暑苦しい笑顔だった。
「先にこの日暇〜?って聞くのも嫌がるじゃん駿河っち」
「先に要件言うようになった点は評価してやろう」
これまた雑に頭を撫で回してやれば、止めろと言いながら笑顔が更に緩む。
「毎週どっかしらでイベントやってるし、予定合う日のやつ行こーよ」
「ふーん。で、メンバーは?」
「俺はイインチョー誘おうかな〜」
「もうお前ら二人で行けよ」
付き合ってんだろ、と耳打ちしてやれば、途端に固まる表情。
「…………………………付き合ってないしぃ」
「おっと?」
率直に言うと、駿河大樹は驚いた。
この駒沢とクラスの委員長、青山はやたらベタベタとつるんでいて距離が近い。絶対好き合ってるだろ、というのがクラスの総意であり、一周回ってそういう持ちネタかのように扱われている。その度に、妙な所でだけ無駄に鈍い駒沢が「そんな訳ないじゃ~ん」と笑い飛ばすまでがセットだ。
セットだった、のだが。
「とりあえず赤飯炊けば良いか?」
「ナンデ!?」
「えんだーいやー?ってやつだろ」
「駿河っちに変な事教えたの誰〜!」
ようやく自覚したのかこいつ。近くの席の女子が満面の笑顔で親指立てていたが、気付いてないようなので教えないでおこう。
「やれやれ、二人っきりじゃ素直になれないコマくんの為にも一肌脱ぐか」
「違うってば〜!」
そもそもコマくんとか普段呼ばないじゃん、と叫ぶ駒沢の向こうで彼氏(仮)がこちらをチラチラ伺っている事にも気付いていないのだろうか。
(はいはい、ころころ表情変わるの可愛いよな。取りはしないから複雑そうな顔すんなご馳走さん)
内心の突っ込みをスルーしつつ、取り出したルーズリーフにシャーペンを走らせる。
「こっちの予定書いたから、そっちの予定とすり合わせといて。日程決まったら連絡くれ。ダーリンにもよろしくな」
「だから〜!」
ーーなんてやり取りからしばらく経ち。
何度か調整した後の、夏祭り当日。
「なんでお前までいんの?」
「おや、ご挨拶ですねぇ」
市内の外れにある、某寺院。地元民には魚塚さんと呼ばれている小さな山寺だ。
こじんまりとした盆踊り会場と十数店の屋台が立ち並ぶ、いかにも“地元民の為の縁日”といった風体である。
気温のピークこそ過ぎたがまだ暑い、夕方と呼ぶには少し早い時刻。待ち合わせ場所の山門前で、駿河は甚だ遺憾であった。
駒沢と青山、この二人は良い。計画通り。紺色の甚平と白地の浴衣で、デート(仮)への意気込みも伺えて天晴なくらいだ。
「そう邪険にせずに。……お二人だって、貴方が一人きりではぐれでもしたらデートどころではなくなるでしょう?」
愉快犯の笑顔で、犯罪計画でも告げるかのようにこっそりと耳打ちするこの男。隣のクラスの仁志史郎は、青山と同じ剣道部の生徒である。
「……目的が一致するなら譲歩しよう」
「駿河っちさっきから何言ってんの?」
道着で着慣れているからか、やけに様になっている青山を直視出来ない駒沢が挙動不審だが、情けは無用。
「いや? 祭り楽しもうぜって事だよ」
ーーー
ーー
ー
「電波わっる……え、これも折り込み済みかよお前」
「思いの外、人も多いようで」
とりあえず参拝したり、射的やくじ屋を冷やかしたり。適当に祭りを見て回り、早々にはしゃぐ駒沢を見る誰かさんの視線がデレデレしだした頃。
予定通りうっかりはぐれた後、一応ライン入れとくかと取り出したスマホを見て眉間にしわが寄る。流石田舎の山、完全に圏外でこそないが、これでは合流は難しい。
「念の為帰りの集合場所決めといて良かったな」
「白々し……ふふっ」
思わずとばかりに吹き出した仁志も、してやったりと言わんばかりのドヤ顔だ。あとは若い二人に任せて、だったか。気分はすっかりお見合いババァだ。
「さて俺等はどうするか」
「鉢合わせは避けたいですからね」
がやがやと騒がしい人混みの中、薄水色の半袖から伸びる腕を引き寄せたのは気まぐれだった。
「肝試しでもしようぜ」
珍しく素直に丸くなった目が愉快で、駿河もドヤ顔で教えてやる。
「貝塚は貝の捨て場、首塚は首級を祀った場所。じゃあ魚塚は?」
「魚の捨て場、もしくは供養地でしょうか」
「当たり」
曰く、この寺の境内にある池。元々はこの池の呼び名が魚塚さんだったらしい。
この池は底の方で地下水脈と繋がっており、長い時間をかけて海まで続く悠久の水路でもある。
「土地柄海産物は珍しかったんだろう。海からはるばる来たものを、潮風も無い山に埋めて良いものかって考えたんだと」
死者は土に還ると言うが、海の生き物ならば還るべき場所は仄暗い水底だろう。人に食われたスッポンが祟ったとかいう伝説もある位なので、魚介類だと侮るなかれ。
「で、これがその池」
喋りながら向かった先。本堂の裏手に広がるそれは、花菖蒲や蓮の花が優雅な寝殿造り風の庭池に見えた。
この辺りは屋台もなく、明かりも乏しい為かひっそりと静まり返っていた。
「水葬っての? 寺ではもうそんな事取り扱ってないのに、飼ってた金魚とか沈めに来る奴がたまにいるんだとさ」
「金魚」
ーーコポン
水面を魚影が跳ねる。
逆さまに浮いた金魚、では勿論無くて、錦鯉だろうか。
「鯉って死肉食べるっけ?」
物騒な疑問を口にしつつ、池の淵にしゃがみ込む。
むき出しの首筋が汗でベタついて不快だったが、水辺を渡る風でいくらか冷やされる。黒いTシャツは失敗だったな、とぼんやり思ったところで、それよりもっとぼんやりした声が降ってきた。
「綺麗ですよね、鯉も金魚も」
仁志にとって、恋だの愛だのいうものは、きっとこういう魚のような形をしているのだと思っていた。
背中を押してやりたくなるあの友人達のような、綺麗で、愛らしくて、守ってあげたくなるような、キラキラしたもの。
そういうものだと思っていたのだけど、と無防備にさらされたうなじを見下ろして、小さく呟く。この姿勢良い背中を押す時は、不釣り合いな狭い檻に突き落とす時だろうか。
「僕だったら水槽から出してあげられない」
あの淋しい水槽の、僕が与える酸素だけで成り立つ世界。
どこかでまた泡が弾けた。
「金魚や鯉を放流なんかしたら野生化して生態系が狂うだろうが」
あいつら雑食だろ、と頓珍漢な返答が続いて拍子抜ける。
「あぁ、ペットの死体を側に置いておきたいって話ならマジで止めとけ。要は生魚と同じだから臭うぞきっと」
「魚食べられなくなりそうだから止めて下さい」
「じゃあゾンビ。……あれも生魚っぽい体臭してそうだな」
真面目な思案顔で立ち上がる彼を、仁志は呆気に取られたまま見つめた。
それを知ってか知らずか、実年齢より三つ四つは幼く見える童顔が意地悪く嘲笑う。
「ま、水槽の暮らしも悪くないんじゃね。井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」
そもそも蛙を海になんて出したら浸透圧で死ぬぞ。どこぞの子どもを誑かす狐のような笑顔で身も蓋もない事を言うものだから、肩透かしを食らった気分だ。仕方なし、脱力した頭で帰路を思う。
「ただし、」
駿河より高い位置にある、シャツ越しの肩に手刀が当たる。当然痛みなどない程度だが、今日はお互いにらしくない事ばかりだ。夏だからだろうか。
「そんなちっぽけな世界だけで俺を退屈させないって御大層な自信があるならな」
野生化した金魚どころではない。
七つの海でもまだ足りない、回遊する鯨の様な、宣戦布告。
「……参りました」
夏だから、と溶けた理性と執着に言い訳をして、ただ笑う。消去法すら飛び越えて来た、本心からの笑みだった。
金魚の背泳ぎ、鯨の恋歌
ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
以下、おまけの裏設定的な蛇足コーナー。
冒頭の男性って結局誰なん? に対するネクストコ◯ンズヒント↓
雪乃さんはフルネーム駿河雪乃。
史郎くんと大樹くんはどっちもお姉さんがいる弟同士。幼少期には交流あったけど小中違う学校だし、たぶん大樹くんはあんまり覚えてない。
史郎くん? ばっちり覚えてるし、何なら初恋ですけど何か? 何回殺したってゾンビのように蘇ってくるから諦めて心中やむなしと覚悟を決めた恋ですが?
