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名前のない悪魔(かのじょ) 最終章

著者紹介

ミルア:文芸高校エロティシズム文学教師

これまでのあらすじ


可愛くて人気者の彼女は、牧野の前でだけ理不尽な“悪魔(カノジョ)”になる。温泉旅行で振り回され、帰宅後に高熱で倒れた牧野のもとへ“看病”と称して恐怖のヘドロ粥まで持参。限界に達した牧野は別れを決意する。

だが彼女の家では両親を紹介され、彼女は「良い娘」を演じた。夕暮れ、牧野が別れを告げると彼女は泣いて走り去る。雨宿りの喫茶店で一息ついた直後、母から「娘と連絡が取れない」と電話。事故の噂を聞き、牧野は現場へ走る。

彼女は病院に搬送されていた。無事に安堵した牧野だったが、彼女は号泣しながら責め立て、両親は動揺する。母は彼女が実の娘ではないことを明かし、「牧野君にだけ甘えている」と告げた。帰宅した牧野は、彼女を失う恐怖と怒りの正体――“自我”の謎に飲み込まれていく。

最終章


最寄駅からマンションまでの短い道のりを、僕の数歩後ろを健気に歩く彼女は、可憐な、まだ色を持たない白い花。
僕が彼女に色をつけたいという欲望が、胸を締めつける。

僕は彼女に手料理を振る舞った。
簡単なイタリアンだ。
女性は野菜たっぷりのイタリアンが好きだから、ちょっとだけお高い白ワインを冷やして、僕らは二人きりで遅めの昼食を楽しんだ。

「緑色の花が好きなの?」

と僕が尋ねると、彼女は緑色の花たちを愛おしそうに見つめて言った。

「うん。春の新緑みたいだから好きなの。春になるとあちこちで小さな緑が芽吹くでしょ? 豪華な薔薇よりも、公園の溝の隙間から力強く生えてくる雑草が好きなんだ」

白いワンピースが白ワインで濡れた。
彼女は
「赤ワインじゃなくて良かった。それに赤ワインより白ワインが好き」
と、高級そうな白いワンピースに付着した白ワインの香りを乗せたスカートをふんわりと捲るように仰いだ。
彼女のピュアで真っ白なパンティーが僕の脳内を焼き尽くす。無防備すぎる汚れを知らない白い無邪気な振る舞いに、僕の理性の決壊は崩壊寸前。

そうだ。
あれは僕たちの初体験の日だ。
白いワンピースに白いランジェリーを纏った天使が、白い殻を破って悪魔になった。

ーー

彼女の母親から、入院している病室の連絡をもらっていた。
たまたま個室しか空いてなかったらしく、彼女は一人、個室にいるらしい。

病室のドアを開けると、その部屋には平凡な顔をした幸の薄い女性がいた。
僕は思わず、
「誰?」
と言ってしまった。

僕の存在に気づいた彼女は驚愕し、手で顔を隠し布団を被った。

「こっち来ないで! マー君にすっぴんなんて見せられないよ。髪もボサボサだし、それにこの病院のパジャマ、ダサいの。帰って!」

声が彼女だった。
僕は確認する。ベッドに掲げられている名前も彼女の名前で間違いない。

僕の中で何かが弾けた。
本来の容姿に自信を失い、布団を被ったまま出てこない彼女を、僕は強烈に愛おしいと思った。

買ってきた花をテーブルに置き、そっと布団を撫でて、
「大丈夫。可愛いよ、見せてごらん?」
と声をかけると、貧相な彼女のベースがチラリと覗く。
その女性は、確かに彼女だった。

「…お願い、見ないで」

声を殺す彼女に、僕は無理やり布団を剥がし、彼女を直視し、手首を掴んで動きを封じると、無理やりキスをした。
唇の感触が、やはり彼女だ。

彼女が普段まとっている、煌びやかな自信というオーラが消えている。

容姿を恥じらう彼女を目撃した僕は、衝動を抑えられなくなった。
そのまま僕は彼女のうなじにキスをする。

「マー君やめて。昨日からシャワーも浴びてないの。恥ずかしいからこれ以上はダメッ。それに…誰か来ちゃうよ」

声を殺しながら訴えている。
その惨めな発言も、僕の闘志が燃え盛る。

僕の発射されてしまった衝動は、もう止まらない。
僕たちの激しい動きに、緑色の花たちが音を立てて床に散らばった。
鼻をつくような花の香りに覆いかぶさるように、彼女の桃のような体臭がさらに僕を理性のない猛獣にする。

彼女がダサいと言った病院着は、簡単に引きずり脱がすことができた。
嫌がる彼女を、僕は完全に支配している。
ゆるく巻き上げた柔らかな髪が、僕にまとわりつく。
僕の心は完全に掻き乱されて、どうしようもなく彼女を奪いたいと懇願しているのだ。

僕の思考回路はイカれた。
僕の幼少期から封印していた本能が剥き出しになった。
そして僕の衝動は、一瞬で終わりを告げる。

当然だ。
だって悪魔の仮面の下には、彼女の本来の姿が隠されていたのだから。

僕の自我に襲われた彼女は、
「別れるって言ったくせに、ひどいよ!」
と可愛い顔でご立腹だ。

「しかも、マー君。避妊してないし……子どもできちゃったらどうするの?」

と責められると、僕は我に返った。

ーー

「ねぇ、好きって言って?」

「嫌だよ。なんで僕ばっかり……」

「ねぇ。なんで私がマー君のこと、好きなのか知ってる?」

「知らないよ。知りたくもないし、どうでもいいよ」

「ふふッ。マー君、私のこと好きって言ってくれないでしょ? だから好きなの。言わないと、無理やりでも言わせたくなるでしょ?」

「暴君なの?」 

「うん。私、悪魔なの。ねぇ、可愛いって言ってよ? どうしてマー君は私のこと可愛いって言ってくれないの?」

「嫌だよ。なんで僕ばっかり君のご機嫌を取らなきゃいけないのさ?」

「マー君が私にメロメロだからでしょ?」

「違うと思うね。それに君はどうなんだよ? 僕のこと、本当は嫌いだから僕の前だけ悪魔なんだろ?」

「教えなーい。ねぇ、マー君。もう一回しようよ」

僕の心は、嫌だ! と心から叫んだ。
でも身体が言うことを聞かない。

今日もされるがままに、彼女が作った沼にハマる。
快楽という地獄沼に。

彼女の理解不能な恋愛論に、僕はこれからも付き合うのか、と思うとため息がこぼれる。

極めつけはこれだ。

「今度、別れるとか言ったら死んでやるッ!! 一生、マー君のこと呪うからねッ!」

だそうだ。

彼女に呪われたら、二度と他の女性とは交われないだろう。
それどころか、呪い殺されそうだ。

美人は三日で飽きる、とか聞いたことがある。
教えてくれ。
叶うのなら彼女に心底飽き果てて、心の底から嫌いになりたい。
その願いが叶うなら、どれだけ楽だろう。

でも、僕の願いは叶わない。
彼女が軸で、僕は彼女の下僕なのだから。
このまま一生、彼女の奴隷になる。
別れたくても別れられない、永遠の呪縛に僕は身を捧げるのだ。

そうなんだ。
僕は彼女を軽蔑しながら猿になる。

名前のない悪魔ーEND

-あとがき-


私の友人に顔もスタイルは芸能人並、そのうえ性格も文句なしの子がいます。
一つだけ、彼女に足りないのは「自己肯定感」
もう一人、顔もスタイルも人並みより上だけれど性格に若干難ありの子がいます。
一つだけ、彼女に足りないのは「思いやり」
二人ともモテます。
でも、二人とも
あんまり幸せそうではありません。
およ?幸せって、内側から発生するもの?

私の姉は、顔もスタイルも貧弱なのに自己肯定感が強く思いやりがあり性格がとても良いです。
すごくモテます。
私の知る中で、群を抜くモテ女。
でも、毒を吐きます。なかなかの勢いの毒吐き女子です。
モテモテなのに、高校の時から付き合っていた彼氏と結婚しました。くっついたり別れたり散々していましたが、たった一人だけを愛し抜いた強者です。

誰がどう思うか?ではなく
自分がどう思うか?を貫いた人が
辿り着ける境地です。

-エロティシズム文学📖創作秘話-


この物語は、実は――
タイトルと冒頭だけが何年も前から存在していました。

そしてある日、突然。

そうなんだ。
僕は彼女を軽蔑しながら猿になる。

このラストの一文が、落雷しました⚡️
対話だけのラストシーンを先に仕上げて、そこから時系列で空白を埋めていく……そんな書き方で完成させました。

もうひとつ、私がやってみたかったのはこれです。

最初から最後まで、悪魔(彼女)の名前を一度も出さないこと。

プロットは、それしかありませんでした。🤣
そんな無謀な挑戦と冒険心から
生まれた物語。

気づいてくれた方、いるかな?ふふふ(*ノωノ)
そうなんです。
この悪魔(カノジョ)には、名前も苗字もありません。

悪魔(彼女)の特徴は、奇抜で暴君な性格と
男どもを魅了する美しい容姿のみ。

「アッ!この彼女、名前ないじゃん!」って、誰かに気づいてほしくて、ちょっぴり期待してました💓笑
(まあ、、、タイトルそのまんまなんですけどね🤣)

全世界共通で
憎たらしいほどに愛らしい存在は

世の男性たちにとっても悪魔👿
マウント女子から熱い視線を集めるのも悪魔👿
勝ち誇るかのような自信に満ち溢れた存在自体が悪魔👿
でも、みんな。
そんな悪魔にこっそり憧れている👿
きゃー♡イミフ(*ノωノ)

改めて、
言葉の魔法使いミルアの世界を覗いてくださった皆様に
無料掲載を承諾してくださった静月さんに
心から感謝申し上げます🫶🏻adiós♡

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

寄稿者


編集長後記


今回の最終章は、 “悪魔の正体”が暴かれる回でした。
けれど、その正体は、 特別な何かではありません。
むしろ逆です。
自信に満ち溢れていた彼女が、 病室で布団を被り、「見ないで」と震えていた瞬間。
そこにいたのは、 誰よりも“普通の女の子”でした。
牧野は、 彼女の理不尽さに振り回され続けます。
怒り、 軽蔑し、 別れを決意しながらも、 結局は彼女の元へ戻ってしまう。
なぜか。
それは、 彼女が悪魔だからではありません。
牧野自身の中にも、 抑え込んできた欲望と本能があったからです。
だからこの物語は、 「悪魔に支配された男」の話ではなく、
“自分自身の欲望に飲み込まれていく男”
の物語だったのかもしれません。
そして最後まで、 二人の関係に正解はありません。
救いも、 成長も、 美しい結末もない。
あるのは、 理解不能なまま惹かれ合う、 不格好で、 少し滑稽で、 どうしようもなく人間らしい関係だけです。
「名前のない悪魔」
というタイトルでしたが、 最後まで彼女に名前はありませんでした。
もしかすると、 この悪魔には、 最初から名前など必要なかったのかもしれません。
なぜなら、 誰の心の中にも、 少しだけ存在しているからです。

文芸高校出版部 編集長 兼 用務員
風間静人(静月)


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