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第8回後継者が“新しいこと”を始める時に起きる摩擦─反対されているのではなく、“過去の成功モデル”と衝突している

承継して数年。

そろそろ、自分の経営として、何か新しいことを始めたい。

・新しい顧客層を開拓したい
・価格体系を見直したい
・営業方法を変えたい
・若手に任せる範囲を広げたい
・新規事業を始めたい
・業務のデジタル化を進めたい

そう考え始める後継者は少なくありません。

でも、実際に動こうとすると──
なぜか、会社の中に摩擦が起きる。

「前からこうやってきた」
「うちの業界では難しい」
「お客様はそれを望んでいない」
「今はまだ早い」
「先代の時代はそれでうまくいっていた」

こうした言葉が出てくる。

すると後継者は、こう感じます。

「やっぱり自分の考えは間違っているのか」
「まだ信頼されていないのか」
「自分が焦りすぎているのか」
「この会社は変われないのか」

でも、多くの場合、これは単純な反対ではありません。

後継者が始めようとしている“新しいこと”が、
会社の中に残っている“過去の成功モデル”とぶつかっているのです。


新しいことが嫌われるのではない。

本当に嫌われているのは、
「今までのやり方が否定されたように感じること」です。

後継者にとっては改善でも、
古参社員にとっては否定に見えることがあります。

たとえば、

営業方法を変える。
これは後継者から見れば、将来の売上を作るための打ち手です。

でも古参営業からすれば、
「自分たちのやり方ではダメだと言われている」
と感じるかもしれない。

価格を上げる。
後継者から見れば、粗利を守るための判断です。

でも現場からすれば、
「昔からのお客様との関係を壊すのか」
と受け止められるかもしれない。

業務を標準化・デジタル化する。
後継者から見れば、属人化を減らすための仕組み化です。

でもベテラン社員からすれば、
「自分の経験や勘が不要になるのか」
と感じるかもしれない。

つまり、摩擦の正体は、
新しい施策そのものではありません。

その施策によって、
誰かの過去の努力、経験、誇りが揺さぶられることです。


ここを見誤ると、後継者は苦しくなります。

「なぜ分かってくれないんだ」
「会社のためにやろうとしているのに」
「このままではまずいのに」
「危機感が足りない」

そう感じて、さらに説明を重ねる。

でも、説明すればするほど、相手は身構える。

なぜなら、相手が聞いているのは、
施策の合理性だけではないからです。

その奥で、

「自分たちは間違っていたのか」
「今までのやり方は不要になるのか」
「自分の居場所はなくなるのか」
「先代の時代を否定するのか」

という不安が動いている。

だから、正しいことを言っているのに進まない。

これは、後継者の会社で本当によく起きます。


特に危険なのは、
“正しさ”で押し切ろうとすることです。

もちろん、後継者の問題意識が正しいことは多いです。

・粗利率が下がっている
・人が育っていない
・属人化している
・特定顧客依存が強い
・若手が辞めている
・投資余力が減っている

こうした状況なら、変える必要があります。

でも、正しいだけでは会社は動きません。

なぜなら会社は、
数字だけではなく、感情と歴史でも動いているからです。

特に承継後の会社では、
過去のやり方には必ず意味があります。

それは、単なる古いやり方ではない。

そのやり方で、
会社を守ってきた人がいる。
顧客との関係を築いてきた人がいる。
売上を作ってきた人がいる。
社員の生活を支えてきた時代がある。

だからこそ、後継者がやるべきことは、
過去を否定することではありません。

過去の役割を認めたうえで、
今の環境では何を変える必要があるのかを分けることです。


「前からこうだった」

この言葉が出たとき、
後継者はイライラするかもしれません。

でも、この言葉の裏には、
大きく3つの意味があります。

一つ目は、単純な習慣です。
深い理由はなく、ずっとそうしてきただけ。

二つ目は、過去の成功体験です。
昔はそのやり方でうまくいっていた。

三つ目は、不安です。
変えた結果、失敗することが怖い。

この3つを分けずに、
「古い考えだ」とまとめてしまうと、摩擦は強くなります。

本当に見極めるべきなのは、

・残すべき慣習なのか
・変えるべき慣習なのか
・一度小さく試せばよいものなのか
・今はまだ触らない方がよいものなのか

です。

後継者の経営では、
全部を一気に変える必要はありません。

むしろ、最初から大きく変えようとすると、
組織は防衛反応を起こします。


だから、新しいことを始めるときに大事なのは、
“大きく正しく始めること”ではありません。

“小さく始めること”です。

たとえば、

全顧客に一斉値上げするのではなく、
まずは新規顧客や一部商品から試す。

全社で新しい会議体を導入するのではなく、
まずは1部署で2週間だけ試す。

全員の業務をシステム化するのではなく、
まずは一番困っている業務だけ見える化する。

新規事業に大きな投資をするのではなく、
まずは既存顧客へのヒアリングと小さなテスト販売から始める。

これだけで、摩擦はかなり下がります。

なぜなら、
小さく始めれば、反対する側も受け入れやすいからです。

「会社を変える」ではなく、
「一度試してみる」に変える。

この違いは大きいです。


後継者が新しいことを始める時、
本当に必要なのは勢いではありません。

必要なのは、順番です。

まず、なぜ変える必要があるのかを整理する。
次に、何を残すのかを明確にする。
そのうえで、どこから小さく試すのかを決める。

この順番を間違えると、
正しい施策でも組織は動きません。

逆に、順番を整えれば、
大きな反対に見えていたものが、
単なる不安や確認不足だったと分かることもあります。


最後に。

後継者が“新しいこと”を始める時に起きる摩擦は、
必ずしも悪いものではありません。

むしろそれは、
会社の中にある歴史、誇り、不安、利害が表面化している状態です。

大事なのは、
摩擦をなくすことではありません。

摩擦の正体を分けることです。

・本当に反対されているのか
・過去を否定されたと感じているのか
・失敗が怖いだけなのか
・判断材料が足りないのか
・小さく試せば進む話なのか

ここを整理できると、
後継者の新しい挑戦は、少しずつ会社の中に入っていきます。

もし今、

・新しいことを始めたいのに社内が動かない
・古参社員との摩擦が起きている
・「前からこうだった」に止められている
・変えたいのに、どこから手をつけるべきか分からない
・第二創業に踏み出したいが、社内の空気が重い

そんな状態が続いているなら、
それは後継者の力不足ではなく、
“変える順番”がまだ整理されていないだけかもしれません。

承継・第二創業・新規事業の現場で、年間400件超の相談対応を行っています。

60分の壁打ちでは、

・何を変えるべきか
・何を残すべきか
・摩擦の正体は何か
・誰を先に巻き込むべきか
・どこから小さく試すべきか
・粗利、資金余力、投資余力の範囲内で取れる次の一手

を整理しています。

後継者の経営は、
過去を壊す仕事ではありません。

過去の上に、
自分の経営を少しずつ積み上げていく仕事です。

※事例は一部加工しています。実在の企業・人物とは関係ありません。


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そんな状態を、構造から一緒に整理します。

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熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士

承継・第二創業・新規事業の現場で、経営者が判断できる状態をつくる伴走支援を行っています。

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