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第3回幹部と話が噛み合わない会社は、何が起きているのか?―後継者が外部の壁打ちを入れた方がいいサイン

「幹部と話しているのに、なぜか噛み合わない」

承継後の後継者や、第二創業フェーズの経営者から、よく聞く悩みです。

・こちらは危機感を持っている
・幹部は現場の事情を話す
・数字の話をすると空気が重くなる
・新しい方針を出すと反発される
・結局、会議後にモヤモヤが残る

こうして、社長と幹部の間に温度差が生まれていきます。

最初は小さな違和感です。

しかし、その状態が続くと、
会社の意思決定は少しずつ遅くなります。

よくある誤解

この状態になると、多くの経営者はこう考えます。

「幹部に経営感覚がない」
「現場が危機感を持っていない」
「自分の考えが伝わっていない」

もちろん、そう感じる場面はあります。

ただ、現場を見ていると、問題は単純な意識差ではないことが多いです。

本質は、

“言葉”が違うのではなく、見ているレイヤーやKPIが違うこと

です。

社長は、粗利、キャッシュ、投資余力、将来のリスクを見ている。

一方で幹部は、売上、納期、現場負荷、顧客対応、今日の業務を見ている。

どちらかが間違っているわけではありません。

見ている視点の高さと時間軸と数字が違う。

だから、話が噛み合わないのです。

実際の現場で起きていること

承継後の会社では、特にこのズレが起きやすくなります。

先代の時代には、
現場は「これまで通り」を守ることで会社に貢献してきました。

・既存顧客を守る
・納期を守る
・現場を止めない
・波風を立てない
・売上を落とさない

これは、会社を支えてきた大切な力です。

しかし、後継者の代になると、環境が変わります。

・人件費が上がる
・粗利が薄くなる
・採用が難しくなる
・設備投資が必要になる
・既存顧客だけでは将来が見えにくくなる
・値上げや撤退判断が必要になる

すると、単に「売上を守る」だけでは足りなくなります。

社長は、
売上ではなく粗利を見る。
粗利だけでなくキャッシュを見る。
キャッシュだけでなく投資余力を見る。
投資余力だけでなく、3年後も会社が残る構造を見る。

しかし幹部は、そこまでの前提を共有されていないことがあります。

だから、社長から見ると、

「なぜ分かってくれないのか」

となる。

幹部から見ると、

「社長は現場を分かっていない」

となる。

ここで感情の対立が起きます。

温度差の正体

幹部との温度差は、性格の問題ではありません。

多くの場合、
見ている数字の違い
です。

例えば、社長はこう考えています。

「この案件は売上は大きいが、粗利が薄い」
「今は利益よりキャッシュを守りたい」
「この仕事を続けると人が疲弊する」
「値引きで受注しても、次の投資余力が残らない」
「この顧客依存を続けるのは危ない」

一方で、幹部はこう考えています。

「売上が落ちるのは怖い」
「長年の顧客を断るのはまずい」
「現場は今でも手一杯」
「値上げしたら取引が切れるかもしれない」
「新しいことより、今の仕事を回す方が大事」

どちらも現実を見ています。

ただ、見ている現実が違う。

社長は会社全体の未来を見ている。
幹部は現場の日々の安定を見ている。

このズレを放置すると、話し合いは噛み合いません。

感情の対立に見えるものは、構造のズレかもしれない

幹部と話が噛み合わないとき、表面上は感情の対立に見えます。

・反発された
・分かってくれない
・危機感がない
・言い訳ばかりに聞こえる
・昔のやり方に固執している

しかし、その奥には、構造のズレがあります。

特に多いのは、次の3つです。

1つ目は、判断基準のズレ。

売上を重視するのか。
粗利を重視するのか。
キャッシュを重視するのか。
顧客維持を重視するのか。
将来投資を重視するのか。

ここが揃っていないと、同じ議題を話しても結論がズレます。

2つ目は、時間軸のズレ。

幹部は今月・今週・今日を見ています。
社長は半年後・1年後・3年後を見ています。

これも、どちらが正しいという話ではありません。

短期を見なければ現場は回らない。
長期を見なければ会社は残らない。

だから、両方をつなぐ必要があります。

3つ目は、責任範囲のズレ。

幹部は、自分の部署や現場の責任を背負っています。
社長は、会社全体の存続責任を背負っています。

この違いを整理しないまま議論すると、
社長には幹部が部分最適に見え、
幹部には社長が現場無視に見えます。

「もっと経営者目線を持て」では伝わらない

ここでよくある失敗は、幹部に対して、

「もっと経営者目線を持ってほしい」

と言うことです。

気持ちは分かります。

ただ、この言葉だけでは、ほとんど伝わりません。

なぜなら、幹部からすると、

「何を見れば経営者目線なのか」

が分からないからです。

経営者目線とは、精神論ではありません。

本来は、

・売上ではなく粗利を見る
・粗利だけでなくキャッシュ化を見る
・固定費化する前に投資余力を見る
・値引きは受注率ではなく粗利毀損で見る
・新規案件は既存事業への負荷も含めて見る
・撤退判断は感情ではなく再投資余力で見る

こうした判断基準のことです。

つまり、幹部に必要なのは、
気合いではなく、見える数字と判断基準です。

幹部と噛み合わない状態は、経営の赤信号

幹部と話が噛み合わない状態は、単なるコミュニケーション問題ではありません。

それは、経営の構造上のサインです。

・社長の判断基準が共有されていない
・幹部が見ているKPIが現場寄りに偏っている
・粗利やキャッシュの感覚が揃っていない
・短期の現場対応と中期の経営判断が分断されている
・会議が感情論や経験論に流れやすい

この状態では、会社は変化に弱くなります。

なぜなら、重要な判断ほど先送りされるからです。

値上げ
撤退
採用
設備投資
新規事業
幹部育成
顧客の選別

こうした判断は、どれも痛みを伴います。

幹部と判断基準が揃っていないと、
社長だけが危機感を持ち、
幹部は現場防衛に回り、
会議は平行線になります。

その結果、変えるべきタイミングを逃します。

これは、粗利、キャッシュ、投資余力に直結する問題です。

まず整理すべきこと

この状態を変えるために、最初から大きな組織改革をする必要はありません。

まずは、次の5つを整理するだけでも変わります。

1つ目は、社長と幹部がそれぞれ何を見ているかを洗い出すこと。

社長は粗利を見ているのか。
幹部は売上を見ているのか。
現場は納期を見ているのか。
営業は受注件数を見ているのか。

まず、見ている数字の違いを可視化する。

2つ目は、会社として優先するKPIを決めること。

売上なのか。
粗利なのか。
キャッシュなのか。
稼働率なのか。
顧客単価なのか。
再投資余力なのか。

全部を同時に追うと、現場は混乱します。

今の会社にとって、何を優先するのかを決める必要があります。

3つ目は、判断基準を言葉にすること。

例えば、

「売上が増えても粗利が残らない仕事は慎重に見る」
「値引きは受注率ではなく粗利への影響で判断する」
「新規案件は現場負荷と投資余力をセットで見る」
「既存顧客でも、将来性と採算性を分けて考える」

こうした言葉があるだけで、会話はかなり変わります。

4つ目は、幹部が判断できる範囲を決めること。

どの金額までなら判断してよいのか。
どの顧客対応は相談が必要なのか。
どの値引きは現場判断でよいのか。
どの案件は社長判断にするのか。

ここが曖昧だと、幹部は動けません。

5つ目は、振り返りの場をつくること。

一度決めて終わりではありません。

判断してみる。
結果を見る。
ズレを確認する。
基準を修正する。

この繰り返しで、社長と幹部の目線は少しずつ揃っていきます。

最後に

「幹部と話が噛み合わない」

それは、幹部の能力不足とは限りません。
社長の伝え方の問題だけでもありません。

多くの場合、
見ているKPIと判断基準が揃っていない
だけです。

社長は未来を見ている。
幹部は現場を見ている。

どちらも会社に必要です。

大切なのは、その2つを対立させることではありません。

現場の数字と経営の数字をつなげること。
売上と粗利をつなげること。
粗利とキャッシュをつなげること。
キャッシュと投資余力をつなげること。
投資余力と持続成長をつなげること。

この構造が見えると、幹部との会話は変わります。

感情論ではなく、判断基準で話せるようになる。

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熊谷 篤
実戦経営アドバイザー/中小企業診断士

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承継後3年以内の後継者・創業者・第二創業の経営者を中心に、
現場で「考え、決め、動ける状態」をつくる伴走支援を行っています。

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