本当は話したくない女性トラブル 3
パトカーが1台やってくると警官が車から降りて私に近づき職質を始めた。
私は警察に敬意をはらっているので、この様な事には協力的にしている。
地元福岡でママチャリに乗っていて止められても素直に「ご苦労さま」ですと言って止まる。
その後、チャリ泥棒と疑われていたことには驚いたが、それも彼ら警官の仕事だと割り切れた。
疑いが晴れたのならばそれでいい。
その様な考えの私だから、職質を受けると素直に応じ、自ら運転免許を見せ、カバンの中も見せる事も積極的に応じた。
(あれ?そういえば⋯)
私はおかしな事に気がついた。
あの時確かに身体検査を受けている。
ポケットや服の上から何かを探す様にだ。
確かに福岡で職質を受けたことは数回あったが、身体検査をされたことはない。
そのあいだ、もう一人の警官は私の運転免許の照会をかけているので、前歴が一切ないのは証明されているはずだ。
本来ならここで終わり。
だが、それでは終わらなかった。
「実は通報があった⋯」
(通報?)
思い出した。
警官は通報があったと確かに言っていた。
「あの、何の通報ですか?」
「ここで騒いでいると通報があったんだよ」
警官の態度が急変した。
それでも私は丁寧に質問を繰り返した。
「誰が通報したんですか?」
それを聞いた警官は「教えられない」と真っ当な事を返してきた。
(それはそうだな)
私は質問の仕方を間違えたようだ。
「それではどんな内容の通報ですか?」
「私とその通報は関係ありますか?」
当初、ただの職質と思っていたが、通報を受けここに来たことが分かった。
「そんな事に答える義務はない」
警官は深夜に響くような怒鳴り声でそう答えた。
「そもそも深夜に、こんな所にいることがおかしいだろうが、貴様ーーー」
これもまた深夜をつんざく声を警官が張り上げたので私は警官を注意することにした。
「あのーお前さー」
正直に言えば、私はこの時点でかちんときていた。
「深夜にそんな大声を出したらご近所さんが驚くだろう」
「警官がそんな迷惑をかけていいのか?」
それを聞いた警官は「貴様のような不審者が何を言うかー」
「こんな時間に貴様がここにいる事がおかしいだろうがーーー」
(何だこの警官は近所迷惑という言葉をしらないのか?)
私は決っして清い心ではない、悪意ある反論を始める事にした。
「あのさ、私は一般市民であなたは公務員で警察官ですよね、分かりますよね?」
「それがなんだ?」
警官は威厳を見せるように答えた。
「私は運転免許証も提示して名前も名乗っています」
「それに犯罪者でもありません」
「一般人に向かって公務員が、しかも警官が一般市民を貴様呼ばわりしていのか」
「おい貴様聞いてるか?」
そろそろおとなしい私から戦闘モードの私に切替時がきたのだ。
「貴様とは誰に向かって言っているのかーーーー」
またも深夜に大声を怒鳴り上げる。
声だけ聞けばどちらが警官か分かったもんではないだろう。
「私は身分を提示して名前を教えているの、貴様は自分の身分も名前も名乗らないで、さっきから一般市民に対して恫喝してるだろう」
「なぁ貴様」
「貴様は警察手帳の提示も名前も名乗らないのだから貴様で十分だろうが」
「それに一般市民に対してさっきから何度も貴様、貴様とどういうつもりだ」
「公務員は一般市民の公僕だろうが、名前が分かっている一般市民に対してはさん付けだろうが」
「SAM雷さんだろうが」
「警察学校ではそんな事も習わないのか」
ここまで親切丁寧に諭してみた。
だが警察官はまたしても「貴様誰に向かって言いよんかーーー」
これまたデカい声を出してきた。
だが、警察官が一般市民を「貴様」や「お前」と呼ぶことは、警察の公式な規定において明確に禁止されている。
彼は基本的には公務員なのだ。
ただし何事にも例外は有る。
犯人の逮捕、激しい暴動の鎮圧、あるいは刃物を持った不審者への警告など、一刻を争う危険な局面では、相手を怯ませて行動を止めるため命令口調が意図的に使われることがある。
「貴様は通報されとるんやぞ」
それはそれはいかつい顔でそう言ってきたが、どんな内容の通報なのかが全く分からない。
そして警官の必殺技が飛び出した。
「応援、応援を呼べーーー」
私と押し問答をしている警官がついに堪えきれずに応援を呼ぶ判断を下したようだ。
正直ヤカラに絡まれている気分になった。
関西で「ヤカラ」というのは素行が悪い人、ガラの悪い人、他人に因縁をつけて脅すような人を指す言葉。
「ヤクザ」もこの言葉に含まれる。
そうこうしている内に警官の数が10人位に増えた。
その間の警官のやり取りで、2つの理屈が出てきた。
この場所で大声を出している人間がいることと、深夜に人がいることが不審者だという理屈らしい。
しかしここは数件有る飲み屋街。
警官の増援を見に来た飲み屋帰りの若者3人が笑いながら深夜に歩いていた。
おそらく酒でも飲んできたのだろう。
「ほらほらあそこにも深夜の車道を歩いている人間がいるばい」
「不審者、不審者」
そうは言っているが、警官をおちょくるのが私の目的だった。
「警官の皆さん、あそこに深夜歩いている人間がいますよー」
「ここの警官は深夜に道にいたら不審者扱いして警察署に連行するようですので、皆さんに今通報します」
「不審者が右手に3名いますので警察署に連行してください」
もちろん軽いおふざけだ。
そもそもそんな事で警察署に連行する要件は満たされない。
それくらいの事は十分に承知しているが、それくらいのおちょくりでもやらないと私の気が収まらなかった。
なぜなら応援が来て強気になった警官は、私を警察署に連行するためパトカーの後部座席に乗れと強要してきたからだ。
警察官が一般市民をパトカーに乗せて警察署へ連行できる要件は、その連行が強制となる逮捕か任意同行かによって法律上の基準が全く異なる。
そこで、最初に私は「任意同行に応じません」と10人ほどいる警官の前で宣言をしたが、誰一人法律を守る者はいなかった。
次に考えられるのは、交通の妨げになるなど、周囲の迷惑や交通の支障になると認められるときだが私は最初から歩道にいた。
ここに来てから終始歩道にいた。
車道に出てもいないし、お酒を一滴も飲んでいない。
意識もしっかりしていて、受け答えもしっかりしている。
警官が幾ら大声を張り上げても、私は深夜の時間帯だということで、常識的な音量で常に話していた。
次に考えられるのが現行犯逮捕だが、現行犯ではないのでそれ以外だと緊急逮捕。
これも心当たりがない。
私は指名手配などされた覚えはないし、何かしらの犯罪から逃げている訳ではない。
もしあるとすれば何かしらの逮捕状がある時だがそれもない。
なので深夜にここにいたのは、私と今飲み屋の中にいる元暴力団の男ということになる。
そうなると、その男も連れて行かないと整合性が取れないことを指摘したら「その男は別で話を聞く」と言った。
この様なやり取りがあったので、警察に電話をしたのはおそらく飲み屋の人間だろうと思った。
(だとしても彼女に警察関係者はいないはずだが⋯)
(そういえば)
私は彼女の妹の事を思い出していた。
彼女には私と同い年の妹がいたのだ。
妹の背中には入れ墨が彫られているらしい。
それも色まで入っている。
流石に見たことはないが、「派手好きなので面積が少ない服を着ると背中の紋々がちらっと見えんねん」と彼女が言っていた。
その妹の元男がヤクザで、後に破門を食らったらしい。
そして正確な日付までは分からないが、妹と元ヤクザの彼氏が勝手に彼女の両親と養子縁組をしていたらしい。
「あーちゃんがそんな事をしたから、おにぃって呼んでんねか」
あーちゃんとは妹の愛称である。
その様な事情で妹に警察の知り合いがいてもおかしくはないが、妹と警察の話は聞いたことがない。
私は会ったことはないが、おにぃとは相当会っていないし、妹の今の彼氏は一般の人間で年下。
(流石に違うだろう)
(だとすると⋯)
消去法で残った、さっきの店のママさんだろう。
話では地元の人間でダンナもいる。
家は一軒家で飲み屋をやらなくてもいいくらいの暮らしはしているらしい。
田舎なのでこの様などうでもいい話は彼女が教えてくれた。
(ママの知り合いに警察の関係者がいても不思議ではないか)
おそらく私が元暴力団の男を呼び出したので、警察に虚偽の連絡をしたのだろう。
その原因は彼女の話にあるのだろう。
おそらく、彼女の言い分は別れた元カレがしつこくて困っているとか、怖くて別れてくれないとか、暴力を振るうとかではないだろうか。
(なるほど、私は彼女からそこまで疎まれていたのか)
(それを一方的に信じて、私の話も聞かずにこれか)
もしかしら自分が警察案件に関わっているかも知れないと思ったが、完全に警察の違法行為だと私は結論づけた。
(それにしてもここはどこの警察署だ?)
私はそんなことも分からずにここにいるのだ。
そろそろ定年間際の刑事も疲れたのか、はたまた交代の時間かは分からないが部屋を後にした。
すると程なくして「貴様こらーー」と喚き散らすあいつがやって来た。
(おいおい、やっぱりアメとムチか)
(それとも関西圏の警察の取り調べはこれが普通なのか?)
(叫びたいのはこっちやねんで)
(何でやねーーーーんって)
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