本当は話したくない女性トラブル 2
長い取り調べと思っていたがある事に気がついた。
まずどういうルールなのかまでは分からないが、さんざんわめき散らした刑事と思われる男が部屋を出た。
その時、私は部屋に一人だった。
その後に、定年間近に見える高齢な男性刑事が部屋に入ってきた。
今度の刑事は物腰が柔らかかった。
だが一人。
元来取り調べとは調書を作成するはずだと私は思った。
(何で刑事らしき男が一人なんだ⋯)
刑事らしきというのには理由がある。
さっきの男、目の前にいる男も名前を一切名乗らない。
当然だが名刺を渡すこともないし、警察手帳を見せてももらえない。
本当に刑事なのかも分からない状態でこの部屋の中にいるのだ。
当然かどうかは分からないが、お茶の一つも出てこない。
(もしかしたら、大津裁判所に今向かっているのか?)
大津地方裁判所だったなら片道30分はかかるだろう。
もちろん要件は逮捕状だと思うが心当たりが一切ない。
目の前に座った定年間近の刑事は、物腰も喋る口も柔らかいが要領を得ない。
「何があったか話して貰えないだろうか?」
さっきの刑事よりマシなようだ。
「名前は?」
この言葉でこいつも使えないと理解した。
「あのですね、私は職質を受けて身分証明書も見せて、理由も告げられずここに連れてこられてるんですよ」
「名前を知りたければ職質した警官に聞いてください」
それを聞いた定年間近の刑事は「あぁ、そうだねー」と笑って答えた。
(これはあれだ、アメとムチだ)
根拠はないが、さっきの「貴様ー」と怒鳴り上げる刑事はムチで嫌われ役。
とはいえ、ほとんど地でやっているだろう。
そして目の前の男がアメ。
理解あるフリをして相手の信頼を得る役。
「ところで何があったのか教えてもらえないだろうか?」
定年間近の男がまた意味が分からない事を言い出した。
(何だ?)
私は少し怪訝な顔をしてしまう。
「だからですね⋯」
私はここになぜ連れられたかの事情を一切聞かされていな事や、職質で起こった出来事を説明した。
定年間近の男の顔は終始にこやかだが、私の言っていることが全く理解できていないことが透けて見えた。
定年間近の男ではないが何故こうなったかを私なりに考えた。
私の人生において恥と呼べる事だが、事の始まりは旦那がいる女性の言葉を信じたことから始まっている。
世間で言うところの不倫という言葉で合っている。
言い訳はない。
あれは私の汚点であった事に間違いない。
ただ過去を整理しないと状況が理解できないことも事実だった。
私は離婚して独身という飲み屋のママと付き合う事になった。
その後、ママの口から旦那がいる事を告げられた。
彼女は地元の高校を出ると、ある工場に勤め始めた。
そこで今の旦那と出会い結婚。
子供も出来たのだが後に離婚。
その後、別の男性と結婚。
その男性との間にも子供を設ける。
だが、その後離婚。
後で最初に結婚した男性と復縁。
詳しい理由は聞いていないので分からない。
その間、特に働くこともなく主婦をやっていたが転機が訪れた。
彼女のマンションから近い、居酒屋の大将と年も近いことと、居酒屋の常連客だった彼女は飲み屋のママを頼まれる。
夜の商売を知らない普通の主婦が、聞きかじった知識だけで飲み屋のママを始めたのだ。
今考えれば、彼女は離婚するために水商売を始めたのではなく、頼まれたからママという仕事を始めているのだ。
その店で私と出会い、付き合いが始まり、旦那がいる事を隠せなくなった彼女は私に旦那がいることを打ち明けた。
私はシングルマザーと信じていたので、ショックはあった。
しかし、人生色々あるだろうと考え、別れることにした。
「嫌、違うねん」
彼女は私の言葉を遮った。
「もう旦那とは離婚してるねん」
そんな事を彼女がいい始めた。
彼女によれば今の旦那はギャンブル癖が激しく、家庭は火の車らしい。
「今度、パチンコしたら離婚するって事で私はもう離婚用紙にサインしてるんよ」
「ほんまやで」
「それにあいつ、ほんまは隠れてパチンコやってんねん」
「せやけどマンションを出るにしてもお金がないねんか」
(嘘はついてないよな⋯)
私は彼女の話を真剣に聞きながら真偽の程を決めかねていた。
「せやから水商売のママやってんねん」
「騙す気はないんよ」
「ほんまやし」
そこで涙。
私はこの言葉を信じることにした。
期間は1年。
それまでに引っ越し資金を貯めるという約束のもと、私は別れることを思いとどまってしまった。
最悪な状況の始まりは彼女の言葉を信じた事にある。
自業自得。
因果応報。
言い訳をする気はない。
だが、この状況を説明するにはこれではまだ足りない。
彼女が引き受けた店はどう聞いても黒字にはならない。
客の入りの割には彼女を始めチーママと女の子が最大3人。
売上を考えれば基本ママと後一人で営業しても厳しいだろう。
しかもこの辺りでは送迎込なのでその人間も確保しないといけないらしい。
結局半年は持ったがあっという間に店じまい。
引っ越し資金を貯めるどころの話ではなくなった。
それと閉店前後から彼女の動きはおかしかった。
同じ店の従業員の女の子が彼女の行動を教えてくれた。
店では公認の彼氏がいるママが、馴染みの客が来ると車を駐車場に置いたまま、その馴染み客と毎回どこかに消えている。
時を同じく営業後の携帯が繋がらないことがちょくちょくあった。
当時の私は日曜日が休みの2交代制で働いていたので、飲み屋に行くのは日勤の土曜日くらいだった。
そのため夜勤の食事時や日勤の平日はメールや携帯を深夜1時過ぎにかけることが多かった。
最初は毎日のように繋がっていた携帯での連絡が、店をたたむ頃は電波が届かない事が増えていた。
店のママを辞めて主婦に戻った彼女が自分から「前の店の客が」と愚痴をこぼしていた。
どうやら今も何かしらのお誘いがあるらしい。
そこで相手の携帯にかけてもらい私が相手の男と話をつけた。
「彼女から聞いたんだけど、もう店やってないのに連絡してくるらしいな?」
「そっちにも言い分があるなら聞くから、顔出さへんか?」
一応、なんちゃって関西弁を使って喋る。
こちらではこれが普通なので変な感じがする。
それを聞いた相手は「いや、すいません」
「もう連絡はしないので⋯」と言ってきたので「そうしてもらえると助かりますので」と返した。
彼女の話では身長180センチ位で太った男性らしい。
何故彼女が「連絡しないでください」や着信拒否しないかまでは聞かなかったが、今まで普通の主婦がいきなりママと呼ばれ出して、のぼせていたのだろう。
だがこれで終わりではない。
私が職質を受ける前に話をつけた元暴力団の男も店をやめてからも「自宅にまで押しかけるので困っている」という話だった。
また、店を辞めた後は派遣会社に入りいくつかの夜勤をやってみたが、1週間ともたなかった。
ある時、他の飲み屋で働かないかという話になったが「ママをやった人間がそんな事できない」と変なプライドだけ残っていた。
そんな時に「子供が出来た」
「降ろしたい」
そして、ご丁寧にエコー写真まで見せられた。
日本国内において、人工妊娠中絶(堕胎)ができる期間は、妊娠5週目頃から妊娠22週未満(21週6日まで)と法律(母体保護法)で定められている。
言われた時は妊娠5周目前だったと思う。
「少しでも早い方がいい」と言われたのでお金を用意した。
また工妊娠中絶(堕胎)の同意書にサインが出来るのは原則として、「妊婦本人」と「お相手(配偶者やパートナーなど)」の2人の自筆サイン(署名・捺印)が必要。
当然サインした。
その後、体が落ち着いてから職質を受けた飲み屋で働き始め出した。
「あそこは顔刺さへんし」
いかにも関西人らしい答えだった。
だが、冷静に考えると妊娠時期の辻褄が合わない事に気がついた。
私が勤めていた工場は「工場」カレンダーなので平日の土曜日は月2回か3回しかない。
そして水商売を辞めた事で実際に会う回数は減っていた。
普段の連絡は取れていたが、ママをやっていた時と同じではなくなった。
またママを辞めた後は主婦と派遣なのでほとんど会っていない。
私は少なくとも10月10日や妊娠の周期も理解している。
だいたい5周目辺りで堕したので計算上は1ヶ月前あたり。
ママを辞めてからホテルの類は行っていない。
食事位はあるが、朝帰りさをさせてる訳でもない。
また、これは単なる記憶ではなくカレンダーから導き出された答えでもある。
そこで私の頭の中に、前に飲み屋の女の子が言っていた、店が終わると彼女と消える顔なじみの顔が浮かんだ。
そこで、聞き及んでいる男との3股。
もしかしたら4股疑惑についてと、
妊娠日のズレなどを問いただすと彼女の態度が変わりだした。
携帯に出なくなるし、昼間家に行っても出ない。
何かと忙しいを理由に逃げ回っているようだ。
「他に男がいるなら別れよう」
私がそう言うと「浮気とかしてないわ」
「あんたの考えすぎやし」
彼女は遠慮なく関西弁をぶつけてくる。
「そうなら、妊娠日の月、俺達何もしてないけどどうなってるんか?」
私がそう言うと「そんなん覚えてないし」と彼女が返す。
典型的な男女の末期症状だった。
そんな時、私に情報をくれる人間がいて、あの日彼女と元暴力団の男が店にいることが分かった。
そこで私の乗用車を同僚に運転してもらい、後から迎えに来てもらう手筈を整えて飲み屋に向かった。
場所は1度だけ彼女を迎えに行っているので問題なく分かった。
ただここから、店に入るのは得策ではない。
彼女の携帯にかけて、元暴力団の男と変わってもらった。
「お楽しみ中に申し訳ございません」
「今、携帯を変わった女の事で話があります」
「そちらの時間は取らせませんので、飲み終わるまで店の外の歩道で一人で待っていますから」
私がそう告げると元暴力団の男は「ええわ、今から行くわ」と言って携帯を切った。
数分後男が店のドアから出てきた。
こちらに来るのかと思うと、止めてあった車の運転席を開けて何かをしていた。
こちらからは暗がりなのでよく見えない。
スパナとか金槌でも置いてあるのだろうか?
元暴力団の今の仕事なら不思議ではない。
たいした時間はかからずに元暴力団の男は上着のポッケに両手を入れた状態でこちらに歩いてきた。
どんな事で揉め事になるか分からないし、ここの店のママと彼女が俺の味方ではないのは彼女から聞いていた。
そのため店どころか敷地内にも入らず、歩道で待つことにした。
「あんたか?」
元暴力団の男がそう訪ねてきたので、「どうもお楽しみ中すいません」と答えた。
万が一凶器をもたれていたら面倒なので、元暴力団の歩き方から右利きだと判断。
それで私は相手の正面ではなく左側に体をゆっくりずらした。
「前置きは省きますね」
「あの女は私と付き合っています」
「それと、おたくさんが自宅にまで来て迷惑していると聞いています」
私は彼女から聞いたままを相手に伝えた。
「もし私の言っている事に違いが有るなら聞きますのが?」
そういうと元暴力団の男は「分かった」と言った。
おそらく察したのだろう。
「では、お手数をかけました」
つまりは今後は家に来るなという意味だ。
男はそのまま振り返ると飲み屋に戻っていった。
やっぱりさっきはカバンを置いたわけではないようだ。
それから数分後、まさに手筈した迎えの車を呼ぼうとしていた時にパトカーが1台やって来た。
サイレンは鳴らさず赤色灯だけが回っていた。
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