本当は話したくない女性トラブル 5
そもそも人生初の取調室。
そこから警察署の会議室。
警官の強制連行。
刑事による不法拘束による恫喝の数々。
その理由が何だったのか?
この会議室に連れてこられたことでそれらの理由が見えてきた。
ただ、刑事が全てを答えたわけではない。
私の憶測によるところが大きい。
まず会議室の奥にふんぞり返っている「貴様コラーー」と怒号を上げていた男がこの中のリーダーだ。
私はチンピラ刑事と思っていたが、おそらく1課から始まるどこかの捜査課の課長。
あるいは、生活安全課かも知れない。
そして、私の近くに立っているその他の男も刑事だろう。
只、今にして思えば同じ課の場合もあればそれぞれの課からの寄せ集めだと思う。
特に定年間際の男性は生活安全課かも知れない。
当時はそこまで警察に興味がなかったので考えもしなかったが、警察におけるDV(ドメスティック・バイオレンス)の担当部署は、主に各警察署の「生活安全課」。
更にストーカー行為も生活安全課になる。
しかし、中央に鎮座する男が生活安全課とは思えない。
また、私を囲んでいる男性刑事の中にひときわ目立つやつがいた。
身長180センチ以上で体重は約100キロ。
耳が餃子の様に潰れていて角刈り。
この手の手合いは、ラクビーか柔道経験者。
特に立った姿勢からはラクビーだと推測される。
確かに彼以外の刑事は私より一回りは小さい。
だが、総勢6名もいれば、制圧できない事はないと思う。
つまりは私がここで暴れた場合いの話になる。
それを予測したということは、警官とのやり取りもあるし、取調室でのやり取りもあるかも知れないが、それでは大げさが過ぎる。
おそらく彼女からの私が武術の心得があることと、3股疑惑のあった男性とのやり取りなども情報としてあったのかも知れない。
その様に考えると、元暴力団の男が何かしらの凶器を隠し持っていたかも知れないという私の考察もあながち間違いではない。
DV男。
ストカー。
つきまとい。
どの様な話になっているかは分からないが、私の言い分を聞かないのは納得いかない。
ただ、私の元腐れ縁の彼は2020年代にストーカーとして認定されている。
その際、元腐れ縁の彼は自宅の玄関で、元カノへの接近禁止命令やストーカー規制法の説明を受けたと話している。
DVやストーカーは緊急性があるので致し方ないと思う反面、元腐れ縁の彼のいう一方的という言葉に一定の理解はあった。
おそらくその様な理由が私自身に起きた状態だろう。
会議室に連れてこられた私は、ゆっくりと会議室の中を見渡した。
冷静に状況を把握しようとしたのだ。
そして今が朝か昼だということも理解できた。
今度は会議室のパイプ椅子に座らさらると、部屋の奥に座る貴様コラー男が私に注文をつけてきた。
「女と別れろ」
「お前みたいのがいると迷惑なんだ」
そんな話だったと思う。
(あぁ、もとを辿れば彼女か)
つまりは、警官の職質で大声がどうのこうのも不審者扱いも全てでっち上げで、要件は今のところつきまといかストーカーということらしい。
ただし、彼女自身がというよりお店のママ辺りが絡んでいるのだろう。
(私は一体どんな人間とされているのか?)
そんな疑問を持ったりもしたがあまりにも的はずれな話なので、「おいおい警察は民事不介入だろう」と返した。
そんな不毛なやり取りに割って入ってきたのが元ラガーマンらしき男だった。
そしてそれを誰も止めない。
元ラガーマンは「貴様、九州男児やろうがーー」
「九州男児やったら女々しかことば言わんと九州に帰れーー」
この元ラガーマンはどうやら九州出身らしい。
この後も私に罵詈雑言を浴びせ、事あるごとに「九州の人間やったら」と言ってくる。
私はこういう人間が大嫌いだ。
そもそも好きで九州に生まれたわけではない。
それに自分達が一方的な勘違い、あるいは彼女に騙されているのに、私を犯罪者のように貶めている。
(ふざけんなよ若造が)
私はこの若造の「九州の人間なら」という言葉に、そろそろ忍耐の限界を感じたので、ここから反撃した。
「お前九州の人間、九州の人間って偉そうにお言いようが、貴様年はいくつか?」
「おいこら貴様、年はいくつかと聞きよったい」
「貴様も九州の人間なら先輩に対しては敬語で喋らんか」
「それに貴様は公務員やろうが」
「公務員がいっから一般市民に向かって、貴様と呼べるようになったんか?」
私はたまっていた鬱憤をこの若造に履きだした。
九州の人間でしかも部活動経験者。
しかも運動部ともなれば1個上でも敬語は当然。
目上の人間に貴様と呼ぶことが法に触れなくても、九州の文化とすれば許されない話である。
若造と言って入るが年齢は30歳前後。
律儀に結婚指輪まではめていた。
正義感や義侠心はあるのだろうが自分が刑事であることを自覚していない。
警察官が一般市民に対して「貴様」などの暴言や高圧的な態度をとった場合、主に「地方公務員法に基づく懲戒処分」または「内部規律による訓戒などの不利益処分」の対象となる。
また状況が著しく悪質な場合は、刑法上の犯罪(侮辱罪など)が適用される可能性だってある。
そもそも自分達が違法な事をしているのに偉そうに講釈たれている。
(こげな人間がいっちょんすかん)
「貴様、俺の年齢と名前知ってるよな」
「だったら、SAM雷さんだろうが」
「用がある時はSAM雷さんよろしいですかやろうが」
「貴様、本当に九州の人間か?」
ここで勝負は決した。
これ以降元ラガーマンは口を開く事はなくなった。
だから「九州の人間なら」と偉そうにマウントを取る人間は嫌いなのだ。
そんなローカルルールを他県で、しかも関西に来てまで押し付けられたらたまったものではない。
しかもこの元ラガーマンは「貴様も九州の人間なら仕事を辞めて九州に帰れ」とまで言ってきた。
職業選択の自由。
住居の自由。
警察がここまでいうのだから確たる証拠があるはずだが、それは絶対にない。
理由は中央に鎮座する貴様コラー男が彼女と別れろと言っている時点で、話がズレているのだ。
そもそも私は彼女ときちんと別れるために行動を起こしていたのだ。
その行動から逃げて、話し合いをしないのが彼女。
彼女が別れていると言うことに異論はない。
そもそも私は恋愛感情で動いていない。
(なるほどそういうことか)
ここに来て私がこんな目に合っている理由の一端が分かった。
そこで私はある部分を隠して、事の始まりを中央でふんぞり返っている貴様コラー男に話した。
また、ここに来てからこの男は一度も貴様と呼ぶことはなくなったがSAM雷と呼ぶこともない。
こいつも私相手に疲れたか、刑事としての自覚を取りもそしたのだろうが、貴様呼びがお前に変わっただけだが、こちらもめんどくさいので細かなことは気にしなかった。
そして「あんた達は大きな勘違いばしとるよ」と私は話の口火を切った。
「よかね、そもそも彼女がなんと言いよるかは知らんけど、貸した金のけじめよこれは」
今度は聞く耳があるようだ。
「金ってなんか?」
貴様コラー男がようやく会話を始めた。
「まず恋愛感情はない」
「今動いとるのは、つまりはだまし取られた金を返せという話し」
「あの女はご丁寧にエコー写真まで用意して、俺の子供が出来たと嘘をついて降ろす費用を出させた」
「ところが妊娠の周期から、その当時私は子供を産ませるような事は一切していない事が分かった」
「そこで、3股疑惑に上がっていた男とも連絡を取ってみたが、誰も反論がない」
「最後に、彼女の元従業員からの情報で本命の男がおるけど、妻帯者で子供もおるらしか」
「大事にする気はないけど、彼女が逃げ回るならその男の所にも行って話しばつけないかん」
「もちろん金を全額返すなら、その時点で話しは終わり」
「あんたらが誰に何の話を聞いたかは知らんが」
「これは金の取り立て、民事ばい」
「警察は民事不介入やろうが、なんでお前らが介入してるか訳ぐらい話してもらおうか」
要約すると、これは金銭の貸し借りからくる回収で、恋愛ではないと説明したのだ。
そこで、困ったのは目の前の男達。
何も知らされていない男達は無言を貫いた。
何も言い返せないのだ。
それでも貴様コラー男だけは、念を押すように言葉を発してきた。
「金が戻ればそれでいいのか?」
貴様コラー男はそういった。
「あぁ、金が戻れば問題解決」
「後は、好きにすればいい」
「なんなら、一筆書くばい」
すると貴様コラー男は部下らしき人間を呼んで、その男に耳打ちをした。
そして耳打ちをされた男は部屋を出た。
それから沈黙が続く。
10分位は待たされたと思うが正確な事は分からない。
会議室を出た男が戻ってくると今度は貴様コラー男に耳打ちをした。
それからおもむろに貴様コラー男が彼女が午前12時から午後1時頃に来ると説明した。
条件はこの居場所で、この人員の中での話し合い。
私にとっての目的の一つは金。
(後のもう一つは⋯)
彼女の出方次第だろう。
そして私の記憶に間違いがなければ、この時の時刻が午前9時。
私は彼女が来るまで、この異様な空気が漂う会議室で刑事に睨まれながら待つことになった。
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