闇 468(福岡博多前編)
闇 468(福岡博多前編)

2026/02/02 mon
前回の章
二千十九年九月十五日、日曜日赤口。
仕事を終え、山手線で品川駅へ向かう。
こっちへ来るのなんていつ以来だろうな。
蒲田へ行く途中で乗り換えしたぐらいか。
古い記憶だとまだ二十歳の時、横浜の金沢八景へ行くのに乗り換えで使った時か?
あの頃はまだ湘南新宿ラインなんてなかったはず。
そもそも旅行で新幹線へ乗るなんて初めての事だ。
そう考えると自身のエロパワーも、四十八歳にして中々健在だなと思う。
五万円近く使えばいい女なんて簡単に抱ける。
それでも何故九州へ俺は向かうのか?
金で女を抱くと行為など、これまでやってきた。
それじゃ心が満たされないからこそ、こんな真似をしている。
新幹線乗場へ向かう途中、弁当が売っている店を見つけ寄ってみた。

美味そうな弁当が色々並んでいる。
三つぐらい買っちゃうか?
いや、それだと向こうについてから何も食えなくなってしまう。
長考しつつハンバーグ御膳に決めた。

弁当でステーキソースまで別途についているなんて、中々洒落ている。
改札方向へ看板を見ながら進むと、またもやキオスクが見えた。

『GIFT KIOSK』と書いてあるので、通常のやつよりは少しデラックスなのか?
眺めるとまたもや弁当類が売っているのでやめておく。
こんな駅の中だけで食欲を満足させてしまうなんて、品川駅はとても怖い場所だ。
その先に見える乗場への階段。
名古屋・新大阪方面なんて表記してあるけどちゃんと博多まで行くのかよ。

聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ともいうじゃないか。
乗場間違って新幹線行っちゃいましたなんて、洒落にならないぞ。
何人かに声を掛けて無視されつつも、ようやく乗場を確認。
時間まで少し余裕あったので喫煙室でセブンスターを吸う。
えーと『のぞみ25』でいいんだよな?
落ち着きもなく何度も切符を見返した。

発車のご案内で行き先が表示されホッとする。
本当に旅行なんて何十年ぶりだろう。
新幹線のぞみの到着。
これに乗っていいんだよな?

恐る恐る乗り込み、指定席へ座る。
テーブルを倒し、座席番号とチケットを交互に見比べた。

発車する新幹線。
俺は窓の外をひたすら眺める。
山をこんな間近で見るなんて中々ないぞ。
雲で瞬間、山が隠れるのが凄い。

本当にこれで九州まで一度で行けるのか不安になってくる。
それにしてもこんな辺鄙そうな山の付近にある家や会社を見ていると、生活が大変なんじゃないかと心配になってきた。
向こうもこんな裏稼業の男に対し、大きなお世話か。

弁当を食べ、酒を飲みながら横目で景色を見ていると、海が見えてきた。
いや、少し先に陸があるから湖か?
さすがに川って事はないよな?

新幹線は名古屋駅で一旦停車する。
愛知といえば思い出すのが当時散々俺の小説を読み漁り、しきりに応援してくれた澤井みゆき。
二十四歳人妻。
しほさんやみゆき、セクラクララが去り、俺は弱気になっていた。
この時新しく知り合ったみゆきは、俺が悩んでいる事に対し相談に乗ってくれた。
俺がみんなから叩かれたコメントなどを見て「心が痛い」と言ってくれた。
思えばこの頃から、俺は彼女の存在に感謝を覚えるようになった。
彼女が今、一番俺の小説を渇望している。
いつの間にかお互い自然消滅のような感じで連絡をしなくなったが、彼女の三十代になっているのだろう。
一度ぐらい実際に会ってみたかったな……。
睡魔が襲ってくる。
そういえば昨日から仕事で置きっ放しだった。
今の内少し寝ておくか……。
叔母さんのピーちゃんが、自分の小遣いで俺に一人旅をさせてくれた時の夢を見た。
行き先は九州の宮崎。
ピーちゃんの同級生が向こうに住んでいるので、面倒を見てくれる事になっていた。
キップと小遣い二万円をもらい、俺は初めて一人旅というのもを経験。
電車に乗る前に、色々な食料を買い込んだ。
ニチイの少し先にある変なハンバーガー屋で百円の美味しくないハンバーガーを十個購入。
向こうに着くまで寝台列車で行くので一日半ぐらいは掛かるからである。
ワクワク感と緊張が身体を支配していた。
いざ、寝台列車に乗り込むと、自分の寝床に向かう。俺の席は二段ベッドの二階。
中では食堂車もあり、俺は行ってみる事にした。
映画『銀河鉄道999』に出てくるようなくるようなイメージの食堂車ではなかったものの、充分に食事を楽しむ。
特別美味しい訳じゃないのに、何度も食堂車へ食べに行く。
九州へ着くまでに五回は行ったんじゃないだろうか。
クソ不味いハンバーガーは一つだけ食べ、やはり不味かったので全部捨てる。
ベッドの一階の人が駅弁を購入すると、俺も釣られて買ってしまう。
こんなティーバックにお湯をいれただけのお茶が百円もするのかよ。
二万円あった小遣いは、九州に着く前にほとんど消えていた。
その内訳はほとんど食堂車での食事と、駅弁だった。
宮崎に着き、ピーちゃんの友達と合流する。
ピーちゃんの友達は家族総出で俺を出迎えてくれ、色々な場所に連れて行ってくれた。
はにわ公園、サボテン園、平和の塔など、珍しいところばかり印象に残る。
鬼の洗濯岩といわれる場所にも連れて行ってくれた。
神秘的に感じた平和の塔は、大きな塔の両脇に大きな石像みたいなものが二体見守っているようにいる。
何だか宮崎って凄いなと感じた。
数日遅れで到着したピーちゃんと弟たち。
合流して小遣いを使い果たしたのを知られると、平手打ちを喰らい泣いた。
目を覚ます。
え、ここはどこ?
慌てて飛び上がり、周囲を確認すると新幹線の中。
外はちょうど工場のような施設を通り過ぎている。

さっきの夢は小学校六年生の夏の時の夢か?
うん、宮崎へ行ったのはその時だから間違いない。
今回は福岡。
これで過去に宮崎、鹿児島、福岡と三県も九州へ行った事になるのか。
二十代の頃の鹿児島は、本当に恐ろしい目に遭ったものだ。
明日からまた仕事……。
このまま何もせず、飲み屋で飲んでゲロを吐いただけで終わってしまっていいのか?
いい訳がない。
休みって楽しむものだろ。
決めた。
明日の夜までに戻ればいい。
今から鹿児島へ行ってしまおう。
JR新宿駅の靖国通り沿いにある大ガードをくぐり、小便横丁と呼ばれる場所へ向かう。
あそこには何軒も金券ショップがあった。一番早い切符で、今から鹿児島へ。
途中貯金を下ろす。
十五万もあれば問題ないだろう。
俺はチケットを購入し、羽田空港へ向かった。
JR新宿駅からだと山手線で、浜松町へ。
それからモノレールで着く。
携帯電話にメールが届く。
文江からだった。
《ねえ、龍一。何でずっと連絡くれないの? もう私、どうにかなっちゃいそう。お願い、何でもいいから連絡ちょうだい。 文江》
未だ写真一枚送ってこない女が、何を抜かしているのだろうか?
こんな内容のメールが毎日ように届いていた。
顔も知らん女なんて、俺はとてもじゃないが愛せる訳がない。
すぐ削除する。
飛行機に搭乗中は、電波の都合から携帯電話の電源を切らないといけないらしい。
まだ出発まで三十分もある。
鹿児島まで、どのぐらい掛かるのだろうか?
よく調べて置けばよかった。
考えてみれば、酢女と秩父の温泉に一度行ったぐらいで、俺はほとんど旅行なんてした事がない。
ちゃんとした彼女を作ってこなかったせいか。
それよりも面倒臭がり屋のこの性格だろう。
遠くの見知らぬ地へ行く自体は嫌いな事ではない。
ただ行くまでにこうした時間が面倒なのだ。
『ドラえもん』のアイテム『どこでもドア』があるならば、俺は色々なところに行ってみたい。
そんなの俺だけじゃないか。
みんなそう思うだろう。
馬鹿な事を考えていると、友香からメールが届く。
《やっほー、龍一元気? 昨日今日と休みでしょ? 何をしているのかな? 絶対に暴走なんてしないでよね。 友香》
暴走はしていないが、これから鹿児島へ向かうよと、返信したかったがやめておく。
土壇場で変に言われても面倒だ。
《これからおまえがビックリするような事をするかも。 神威龍一》
送信してから後悔する。
これじゃ、これから何かしますって言っているようなもんだ。
案の定友香からすぐメールが届いた。
《何、ビックリするような事って? 友香》
やっぱすぐ食いついてきた。
しょうがないので返事を打つ。
《何でもない。ただの言葉のあやだ。気にするな。 神威龍一》
待てよ、これじゃ余計に気にならないか?
打ち直そう……。
《言ってみただけ。俺、これから美容室行くようだから、すぐに返事返せないよん。髪を切り終わったら、電話するよ。 神威龍一》
うん、これなら問題ないだろう。
送信を終えると、携帯電話の電源を落とし、搭乗口へ向かった。
さて、小学生以来だな、九州は。
過去自身が体験した恐ろしさを名前だけ変えてそのまま執筆した作品の『鬼畜道~進化するストーカー女編~』。
あの時は本当に馬鹿な真似を自分からしてしまったものだ。
まるでゴキブリホイホイに、自分から入ってしまったようなもの。
まだあの頃は小説のしょの字もなかった。
それは四十八歳になった今も一緒か。
二十年経っても、こうして同じように九州へ向かっているのだから、俺もまったく成長をしない男だ。
愚かだった二十代後半を懐かしむ。
外は再び山々。
本当に山と緑しか無いのに、この辺の人たちどうやって生計を立てているんだろうな?

それでも日頃新宿と川越の風景しか目にしない俺にとって、新幹線から見える景色は飽きる事なくずっと眺める事ができた。
壮大な畑か田んぼか分からない景色に移り変わる。

このような場所ならアルパカを飼えるかもしれない。
しかし一千万も持っていない俺には無理な話か。
大きな建物がチラホラ見えてくる。
もう少しで博多へ到着。

残りの酒を飲み干し周辺を片付ける。
いよいよ九州か。
ホームに出ると案内図を見ながら階段を上り、おみやげ街道という店を眺めながら人混みの中を歩く。

階段を降りて改札へ向かう。

とうとう博多に到着した。
改札を潜ると、駅前に出る。

さて…、まずはプレジデントホテルか。
徒歩十分程度と書いてあったけど、どこにあるのかな?
携帯電話でグーグルマップを開くと、結構近くにある事が分かる。
ひろみの奴、今日はどうしても家族での用事があって来られないとか言っていたから、あとは部屋でゆっくりするぐらいか。
さて、俺もこうして三度九州の地へ立ったのだ。
振り返り博多駅を撮影した。

パッと見、池袋駅みたいだな。
俺はとりあえずホテル方面へ歩く。
近くにエロ映画館があり、陰湿な空気が漂っている。
当然の事ながら周辺には誰一人見えない。
川越にあった連繋寺前の日活ロマンポルノを思い出した。
俺は行かないけど、こういう場所はこのように留めておかないと、昭和の人情深かった時代がどんどん削り取られていくように思う。
少し歩くとプレジデントホテル博多が見えてくる。

旅行セットでもらった宿泊チケットと引き換えにルームキーをもらい、部屋へ向かう。
三一七号室か。

エレベーターで三階へ向かい、部屋に着くと荷物を置く。

「……」
また随分と俺もUFOキャッチャーの景品を取ったものだな。
リュックからぬいぐるみなどを取り出すと、部屋の片隅に置いた。
これだけあれば、きっと明日はひろみも喜ぶだろう。
本当にあいつ、会いに来るのか?
セブンスターに火をつけベッドへ腰掛ける。
ひろみからメッセージが届くも、家族でいるところを抜け出しトイレからのようだ。
そんな無理して連絡しないでいいと伝えた。
さて…、今日は一人で過ごすようか。
福岡といえば、KDDI時代の同僚だった幸が、こっちへ帰ったと以前聞いたな。
タバコを揉み消すと、一旦外へ出る。
歩きながら幸へ電話を掛けた。
しかし彼は仕事らしく、突然九州に来た俺の誘いは断られる。
目的も無くダラダラ福岡の道をただ歩く。
少し先に赤い看板の『博多祇園鉄なべ』という店が見えてくきた。
てっきり餃子だと思ったんだけどな。

とりあえず写真だけ撮り、先へ進む。
大きなパチンコ屋が見えてきたので入ってみた。
福岡初日なのに、旅行まで来てやる事は新宿と変わらないな……。
シンフォギアがあったのでやってみたら、回らないチャンス無いで駄目駄目な状態。
マクロスとかいう台やったら二千円で運良く揃う。
結局六千円ちょっと勝てた。
ホテルへの帰り道とぼとぼ歩いていたら、ホルモン串に一口餃子と大きく書かれた店を発見。
『日本市海鮮酒場 黒』か……。
外から中の様子を眺めていると、可愛い女性店員が出てきて声を掛けてくる。
うん、こんな子が中で働いているなら寄っていくのもいいだろう。

結構広い店内。
まだオープンしたばかりのようで客は俺だけ。

「そちらへお掛け下さい」
「え、だってお姉さん、俺一人だよ?」
一人席もあるのに親切に四名掛けテーブルへ案内される。
メニューを眺めると、この店はびっくり辛味噌焼肉が売りなそうなのでまず酒と一緒に注文。
「お姉さん、九州というか福岡は初めてなんだけど、何がお勧めなの?」
「そちらに書かれていますメニューからご説明しますね」

丁重に説明を受けながら、まずは一口餃子も頼む。

「ゴマサバも人気メニューになりますね」
「うーん…、ゴマサバかー……」
「美味しいですよ!」
「俺ね、魚類嫌いなんだよね…。でも、お姉さん勧めるからゴマサバも。あとはねー……」
マグロの赤身。

もつ焼きホルモン串。

カレーライスに、明太だし巻きも注文した。

お勧めのゴマサバが出てくる。

普段マグロの赤身しか食べないから、サバは苦手。
でも注文したから頑張って半分食べた。
一番期待した辛味噌焼肉が出される。

焼肉というよりもほとんどキャベツだが……。
「こちらにある二種類の味噌をお好みで使って下さいね」
味はまずまずだが、特に感動を覚えるようなものはなかった。
酒を飲みつつ可愛い店員と話す。
「今日はこちらまでお仕事でですか?」
「一応取材と言ったらいいのかな」
「え! 取材ですか?」
驚く店員。
俺は携帯電話で自分の名前を入れ、自身のウィキペディアを見せながら口を開く。
「一応世間的には作家なんだ。まあこのお店は君のような美しい子がいたからフラフラっと入ってしまったんだけどね」
「作家さんなんですね!」
まあ嘘はついていないよな?
今…、というか数年間小説を書いていないというだけで……。
フェイスブックへ料理の写真を投稿すると、ラッキーハウスの山下哲也が早速コメントを入れてくる。
『池田でーす。満喫してますか? ビックリ! メニュー表見ましたけど結構高いですね。 北条たけし』
あの馬鹿、本名山下哲也を店では池田。
フェイスブックだと本条たけしと名前を使い分けているのかよ。
本当に間抜けな奴だ。
どうやらラッキーハウスは忙しいらしい。
山ゴネスによると、料金が都内とそんな変わらないと驚いていた。
まあ新幹線も飛行機も停まるような大都市だ。
観光客から金を取らないと色々大変だろう。
会計を済ませると、彼女が外まで見送りに出てくれる。
客もそんないなかったので、また口説き始めた。
さっきの作家と表現した事に、ちょっとした手ごたえをこの子の表情から感じ取っていたのだ。
「明後日までこっちにいるんだ。良かったら連絡先交換しないかい?」
「えー、でもまだ会ったばかりだし……」
「そしたら俺は新宿に戻ってしまう。今しないと今後会える可能性が無くなってしまうよ」
「新宿なんですか? お洒落ですね」
「ただの馬鹿な街なだけだって。こっちに来て君のような可愛い子初めて見たもん」
「またまたー。お上手ですね」
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