闇 434(鳥と猫と蒲田と川越編)
闇 434(鳥と猫と蒲田と川越編)

2025/12/24 wed
前回の章
二千十七年十二月十一日、月曜日先負。
昨日競馬を二つ当てて懐が暖かいのに猫へ餌をあげ、肝心の自分へのご褒美をしなかった。
今日ぐらい飯は豪華に行こうではないか。
食事休憩で外をプラプラ歩き、ステーキ屋へ入る。
二つ食べてしまおう。

ソースが違う二種類のステーキのセットを二つ注文し、肉を堪能する。
そこまでそそるようなステーキハウスじゃなかったので、店名もメニューも写真を撮らず、肉だけを撮影。
多分この店へ今後来る事はないだろう。
仕事を終え、本川越駅前にあるロータリーの前の信号を渡る。
いつもとは違う帰り道。
何故なら昨日の夜出会った埼玉りそな銀行の駐車場にいた野良猫たちが、気掛かりだったからである。
二日連続餌を与えれば頭ぐらい撫でさせてくれるはず。
そう思いながら駐車場へ行くも、猫は一匹も見当たらない。
昨夜はたまたまだったのかな?
しばらく待っていたが、現れる様子もなく帰る事にした。
家の前の駐車場を見ると誰もいないようだったので、久しぶりに十姉妹のマゲ一家の様子を眺めようと思い管理室へ入る。
「バック…、プチ…、ジャッカル…。何でおまえたちしかいないんだ?」
あれだけいた十姉妹と錦華鳥。
マゲやモツ、ナミダにベニ、モゲもマゲマロの姿もいなかった。
マロも合わせて全十羽が、三羽だけ。
「おい、バック! みんなはどうした?」
言葉が通じない鳥は、こちらを見ているのかどうかさえ分からない。
小鳥の寿命は元々短い。
思えばマゲは二千十四年から、その子供たちは二千十五年に生まれた。
もう二年三年の月日が流れていたのだ。
俺は本当に馬鹿だ。
最初に離れ離れになって、早く一人暮らしをしてこの子たち一緒に住もうと誓ったのに……。
競馬など馬鹿な真似をして散財し、麗美華のようなつまらない女の為に一晩で二十万も使った。
川越に戻ってきて一年以上。
いくらでも俺次第で一緒に暮らせたはずなのに。
ドアが開く。
徹也が入ってきた。
「おい、鳥は?」
「ちゃんと餌はあげていたけど、寿命で何匹か死んじゃったんだよ」
「……」
「あ、兄貴さ…、できたら毎月家に十万円ぐらい入れてくれたら助かるんだけどさ」
「……」
俺は無言のまま立ち上がり、駐車場を出た。
背後から徹也が何か大声を出していたが、無視して部屋へ戻る。
マゲたちの死因は弟の徹也ではない。
餌だってちゃんとあいつは与えていた。
俺がこの一年放置したままだったからだ。
あの子たちがいたからこそ、俺は新宿のクソのような地獄の中でも何とか耐えられた。
横浜の地獄めぐりの時も、新しく生まれたマゲマロたちがいたから、ギリギリの線で踏みとどまる事ができたのである。
馬鹿は俺だ。
自身の馬鹿さ加減にはほとほと呆れてしまう。
何を図に乗っていたのだろうな……。
マゲたちの事をすっかり頭から忘れていた俺。
ずっとこの一年どれだけ気に掛けたのだ?
ユーチューブへアップした鳥たちの動画を何度も眺める。
「ごめんね…、ごめんね……」
俺は膝を抱えたまま、セブンスターに火をつけた。
二千十七年十二月十二日、火曜日仏滅。
どんな状況が訪れようとも、俺は毎日新宿歌舞伎町へ向かい裏稼業で金を得なければいけない。
それが生きていくという事だから。
少し違う。
生きる為に必要な儀式だからだ。
懲りずに仕事帰りまた埼玉りそな銀行側から帰る。
もちろん目的は野良猫ニャーニャーたち。
残っているバックたちの様子も気になったが、この心境でまた徹也と鉢合わせ金の無心をされるのが嫌だった。
横断歩道を渡り、駐車場を覗き込む。
「ニャー……」
車の陰から三匹の猫が出てきた。
一昨日は五匹いたのに、今日は三匹か。

「昨日はおまえたちどこにいたの?」
「ニャー」
きっと腹減ってんだよな。
「ちょっと待ってろよ」
俺は急いでファミリーマートへ入り、キャットフードに猫用の缶詰を三つ買う。
駐車場へ行くと野良猫たちが近付いて来る。
そっと頭を撫でようとすると、やはり交わされ距離を取られた。
「ごめんごめん…、餌だけあげるからおいで」

警戒しているの距離を保ったままなので、キャットフードをパラパラ放り投げる。
すぐ餌には食らいつく野良猫ニャーニャーたち。
今日はとっておきがある。
俺は肉の入った缶詰や袋を開け、近くへおびき寄せた。
「おら、ニャーニャーたちこっちおいで。あ、痛っ!」
手首を爪で引っ掛かれ袋を落とすと猫は肉へ被り付く。

「酷い奴だな、ちょっと血が出たぞ」
そーっと手を伸ばす。
また引っ掻かれた。
「シャーッ!」
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
