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闇 363(若頭インカジ始動編)

闇 363(若頭インカジ始動編)

2025年09月30日(火) 16時14分02秒

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闇シリーズ

若頭インカジ始動編

2025/09/30 tue

前回の章


現場監督青野の紹介により始まったイワカミ工業。
皮肉な事に青野の業務失敗逃亡により終わる。

突然の無職となった俺。
一月からやってきたこの頑張りは一体何だったのだろうか?

いや、俺があと一問とはいえ、危険物乙四種を受からなかったのも原因だろう。

あれだけ作業員がいる大型現場なのに、元請け会社専務の吉田さんしか持っていない現状。
そこへ俺が乙四を受かっていれば、もう少し話は違っていたはず。

今週末まで休んで今後の身の振り方か……。

吉田さんが経営する吉田塗装へ入れば、おそらく仕事は安泰だ。
ただ一つ引っ掛かるのがまだ二十代の志村の下へ同じ会社として入る事である。
二十八歳の小僧が四十四歳の俺に対し、岩上と呼び捨てにして偉そうな口の利き方をするぐらいだ。

今までなら自分の会社イワカミ工業があったからこそ堪える事ができた。
一従業員として入った場合もっと当たりは強くなるだろう。

果たして堪えられるのか、俺に?
ヤクザにも芋を引かずに渡り合ってきた。
それをただ先に入ったというだけでふんぞり返る若造相手に、いつまでも調子に乗らせながらずっと我慢して生きていくのか?

無理だ…、そんな事をする為にこれまで生きてきた訳じゃない。

群馬の先生は以前言った。
俺は光のある所をあるきなさいと。

ふん、結局こうなるんじゃねえか……。

この道を決めたのは俺だし、行動したのも俺。
今回の場合、何がおかしかったのか?

まず青野の口利きで入ったという時点で終焉が決まっていたのだ。
最初から詰んでいたんじゃねえかよ。

まあとりあえず日曜までゆっくりしてそれから考えればいい。

麦草の百合にあれだけ偉そうに豪語しといて、このザマか……。

最後にメッセージを送ったのはいつだっけ?

『俺、麦草で最初の頃、話していた内容って、不満や愚痴ばかりだったじゃないですか? 元々合わない世界にいたんでしょうね。でも、前向いたら、流れが一気に変わり過ぎてしまって…。いい方向で、もちろんいい意味で。これまでの人生で関わり、繋がってこれた人たち。この先想像すると、俺でいいのか?って思うぐらい、色々な繋がり用があるんだなと。今は用意されたステージをこなし、デカくして誠心誠意生きる。次は作品を書く。その次はってどんどん出てきてしまって…。最終的には被災地の復興も、仲いい奴いるんで、力を手にしたらドカーンと協力したいし。俺が大きくなれたら、初めて地元での政治家や企業の社長連中も巻き込んで、みんなが心の底から熱く、本当に笑える時代が作れちゃうんじゃないかなって。色々考えてたら、こんな時間になってました。本当はおじいちゃんが生きている時に、こうやって気付けていれば良かったなって…。でも馬鹿だから失敗しないと気付けないんですよね。 岩上智一郎』

二月四日が最後。
今日が六月十六日だから四ヶ月以上音沙汰無し。
こんな駄目な男、見限って正解だよ、本当に……。

俺はフェイスブック上で百合との友達を解除した。
さようなら百合。

もう麦草へ行く事もないだろう。
本当大好きだったよ。

ベランダへ出て川を見ながらタバコを吸う。
この川の先に麦草があるんだもんな……。

一体あそこまで距離が近付いたのに、俺の何がいけなかったのだろう?

「……」

よせって!
未練がましい。

二本目のタバコへ火をつけようとした時、携帯電話が鳴る。
○○組若頭の三田から。
店の事で相談したいから福富町まで来れないかというもの。

「いいですよ。すぐ向かいます」
「いえいえ、そんな…。うちの隆二に迎えに行かせますわ」

「こちらこそそんな丁重に扱わないで下さい。歩きなんで三十分ほど見て下さい。店に直接行きますから」

パソコンは壊れ、自転車は盗まれ、職も無し。
だから自分の足で歩いて行くさ。
おいらはそんな偉くも何ともない。

「マゲちゃんたちー、ちょっと出掛けてくるからね」

餌と水を取り替えてから、俺はマンションをあとにした。


会社の入金に関しては二ヶ月遅れで入ってくるから、当分の生活に関して心配はない。
まあ結局なるようにしかならないんだよな。

こんな時こそ時流の流れに沿って。
イワカミ工業は駄目になったけど、矢田部のインカジの最後よりは全然マシじゃん。

あ、思い出した!
矢田部の野郎、人のアマゾンポイントを使って店のドリンク買っといて、何のお詫びも無しかよ?

どうせ三田のところへ行くのだ。
ついでにあのクソ店も脅してやるか。

これは別に八つ当たりではない。
岩神様からの天罰だ。

しかし本当これからどうするかなー……。

猶予は二ヶ月間。
いやいや、またのんびり構えていると極貧生活が待っているぞ?

昔からこの手を抜く時はとことん手を抜く性格は、いい加減改めないといけない。

ギリギリの生活状態になって選ぶ選択肢が少ない状況になってから決めるから、いつもババ抜きのババを引くのだ。

冷静になって考えてみよう。
今のマンションへ住む必要性があるのか?

前はあった。
麦草であり百合の存在。
近かったから、あそこでとても満足できた。

それが今じゃ何だよ。
あんな辺鄙なところいたって、喜ぶのはマゲ一家だけ。
自分たちばかり家族こさえちゃってさ。
俺にはいつになったら女が寄ってくるんだよー。

待てよ…、これから三田のところへ行く。

雅も絡んでくる可能性は大だろう。
今日はその辺もしっかり煮詰めた上で、彼と話し合いを遂行せねばならない。

そもそも三田との会合は、始めに雅の顔を立てる意味合いからスタートしたのだ。
今度お礼するからと言いながら、あれ以来連絡がなしのつぶて。
時が来たら、ベッドの上でヒーヒー言わせてやろう。

そんな馬鹿な事を考えながら福富町へ到着した。


因縁のラ・イマージュビル四階。
エレベーターを出ると左が三田の店、右がクソ矢田部の店。
この時間帯だと新宿から連れて来た裏切り者中口もいるのか?

店の監視カメラから通路にいる俺の姿は見えているはず。
何故俺がここにとか、きっと島田のオヤジもビビっているだろう。
まああんな小者連中など、こっちがその気になればいくらでも始末できる。

今は三田の店が優先だ。
俺はそのまま通路を左へ向かう。

「おー、岩上さん、わざわざすうません」
「いえいえ、遅くなってしまい申し訳ございません」

「業者には突貫工事でやらせますわ。それであとはどないしたら、ええでっしゃろ?」

「前の…、このビルの二階で当時働いていて思ったのが、警察の関係上出前を取らないで徹底していたんですね。そうなるとだいたいカップラーメンとかになるじゃないですか?」
「まあそないなりますね」

「そこで思いついたのが、冷凍庫を買って奥に置いておき、業務用スーパーへ行けば、百円程度で炒飯やらカレーピラフとか売っているんですね。それらを電子レンジでチンしてお客さんに出せば、それだけでも相当なアドバンテージになると思ったのですが」
「おー、さすが岩上さんや! 目の付け所がちゃいますなー。それ採用させてもらいますー」

「それで三田さん、従業員って集まっているんですか?」
「ええ、ワシの舎弟連中でシノギもまともにできん連中おるんで、そいつらをここで働かせるつもりなんですわ」

「……」

全従業員がヤクザ……。

「最初だけ岩上さん、ご指導のほうお願いできませんか?」
「その中にインカジ経験者っているんですか?」

「いえいえ、みんなそっち系は素人ばかりですわ」

絶対にこのインカジは潰れるだろう。
ここまでお膳立てしといて、すべてヤクザだらけの従業員。

駄目になるのを分かって俺は放っておくのか?

インカジは基本二十四時間経営。
一人ちゃんとインカジの仕組みが分かり、軸になる奴がいれば、形にはなる。

もう片方の番に俺がここへ入れば……。

「三田さん、正直に言います。怒ってもいいです」
「どないしたんですか?」

「このままではせっかく店を作ったのに、うまくいかないと思います……」
「え! そりゃないですわ!」

「ですから三田さんがコイツはこの店の軸にしたいという若い衆…。まずその人を自分と会わせてもらえませんか? インカジの仕組みから基本から全部叩き込みます」
「ええんでっか? 岩上さんほんまおおきに」

うん、イワカミ工業は無くなったんだ。
おそらくこれも天命だろう。

「それでですね…、その人を軸にできたら、俺が一番忙しいであろう遅番を数ヶ月引き受けます。ちょうど現場の合間で身体が空いたところだったんですよ」
「おぉっ!」

「数ヶ月間で、横浜で一番のインカジを作ります。表商売はそれあとで戻ります」

三田は俺の手をギュッと握り締め、何度もお辞儀をしながら礼を言う。

ヤクザ自体は嫌いだが、この三田はこれまでのヤクザ者とは明らかに違う。
こんな俺に対し三顧の礼を持って接し、最初からその姿勢は今でも変わらない。

ここまで俺が言った通り動いてくれたのだ。
オープンしたあと無様に店を潰させるなんて、見て見ぬふりはできなかった。
俺さえ動けば形にはなる。

「岩上さん! ほんまおおきに、ほんまおおきに!」

「三田さん、もう分かりましたから。従業員なんですが、最低自分入れて四名…、休み取る事を想定するなら五名は欲しいところです。三田さんのほうで何名用意できますか?」
「カズとカツの今のところ二名ですわ。あ、雅も手伝うとは言ってくれてます」

すっかり雅の事を聞くのを忘れていた。
彼女もここで働くなら、別の意味で楽しみも増える。

「三田さん的に推すのはどっちですか?」

「カズ…、中村カズですね」
「分かりました」

「岩上さん、明日時間作って下さりますなら、カズ呼びます」
「分かりました」

「あと一人…、欲しいところですね……」

あと一人…、誰かいないだろうか……。

「あっ!」
「ん、どないしました?」

「女の子で良ければ、一人心当たりがいます」
「おお! それは華やかになってええですわ」

「ただまだやってくれるかまでは分かりませんよ? 今日帰ったら連絡してみます」
「岩上さん、おおきに」

頭数はこれで何とかなるかもしれない。

俺は三田へ店の改装工事が早く終われば終わるほど、オープンはすぐできる事を伝えた。
明日三田が推しているカズという若いヤクザと顔合わせの約束をして店を出た。


マンションへ戻ると、俺はクソ矢田部の店で会った葵を思い出し、彼女の電話番号を調べる。

えーと…、葵で入れていたっけ?
本名の山室貴子だったっけ?

あったあった!

あの当時のやり取りはハッキリ覚えている。

「ねえ、こういう業界で働いてみたいんですけど、募集とかってしているんですか?」

「うーん…、今現在は特にしていませんが、インカジで働きたいんですか?」

「キャバよりこっちで働く方が面白そうなんだもん。募集する時になったら教えて下さいよ。あ、電話番号交換しませんか?」
「番号交換はいいですけど」

何か随分変わった子だなと思った。

「空きが出たら絶対に連絡して下さいね!」

「うーん…、葵さんが思っているほど、この業界ってあまりいいものじゃないですよ……」

キャバ嬢の彼女がインカジで本当に働くのかな?
早速葵に電話を掛けてみた。

テーブルの上にある一枚の紙に視線が行く。

危険物乙四の受験票か……。

俺はグシャグシャに丸めてゴミ箱へ捨てた。
数回コールが鳴り、電話に出る葵。

「あれー、どうしたんですかー? 岩上さん、最近あの店いないですよね?」
「あ、葵ちゃん久しぶり。実はね……」

俺はクソ矢田部の店の真向かいの同じフロアーでインカジを新しく始める事。
そして従業員を探しているから働くならどうかと尋ねてみる。

「えー、岩上さんのいるインカジで私も働けるんですかー? やりますやります!」

「ゆっくり仕事内容は覚えてもらえばいいからね」
「でも岩上さん、何で前の店辞めちゃったんですか?」

どうせ一緒に働くのなら、簡単な経緯を説明しておいたほうがいいか。

名義の矢田部の抜きが酷い事。
それで店が赤字になったのに、何故か俺が悪者になった事。
十二時間で給料を一万円に下げられた事。

やられた事実を淡々と話す。

「えー、それってあり得なくないですか?」
「うん、あり得ないよね」

「酷過ぎる!」

「あの向かいの店はね、元々俺が全部システムから何まで作った店なんだ。つまり向こうよりもいい条件の店を作り、客も俺が声を掛ければこっちへ来てくれるはず。キッチリ大人の対応で仕返しはするけどね」

「私、岩上さんの方につきますからね!」
「それはそれは頼もしいねえ」

これで人数だけは揃った。
インカジでは珍しい女性従業員が二人もいる。

仕事で戦力的にはならないだろうが、華やかさ的な意味合いではありだろう。
雅にしても葵にしても、かなり美人な部類である。

俺と三田の推す中村カズがものになって軸になれば、店は回るはず。

やる事が多いので、順序を立て一つずつクリアしていかないと混乱してしまう。
とりあえず明日は中村カズと会って話をしてみる。

すべて三田が任せて自由にやらせてくれるから、本当にやり甲斐があった。
岩上智一郎、再び裏稼業へ突入。

目的は二つ。
一つは三田の店を横浜一のインカジにする事。
もう一つは向かいの矢田部の店の太客を奪い、潰してやる……。


時刻は深夜一時半。
もう十七日か。
昨日一日の目まぐるしく変わる忙しい流れが嘘のようだ。

蒲田の井戸屋で喜んで食べて帰ってから、危険物乙四の不合格通知。
そしてイワカミ工業崩壊から、三田率いる裏稼業インカジへの復帰。
また生活のリズムがガラリと変わってしまうな。

今日は色々長く掛かるかもしれない。
今の内に寝ておこう。

いつもの習慣で朝四時過ぎには目を覚ます。
もうこんな早く起きる必要性などないのにな……。

ベランダでタバコを吸ったあと、風呂へ入りもう一度眠る。

起きると昼だったので、元請け会社だった専務の吉田さんへ電話を入れた。

「おう、岩上さんか。どうした? どう動くか決めたの?」

「それがですね…、ちょっと親しい知り合いが飲食なんですが、店を立ち上げる事になって手伝いする事になってしまったんですよ」

「ん-、そうか…。乙四さ、来月受けるならちゃんとうちの経費で受けて構わないんだぞ?」
「ええ、ただ今はちょっと二ヶ月ぐらいは、知り合いのほうで手一杯になってしまうとおもうんですよね」

「そっかあ…、分かった。まあ頑張ってくれよな。また何かあったらいつでも連絡くれ」

これで向こうにもケジメはついた。

腹が減ったな、まだちょっと時間あるし食事してから店に向かうか。
歩いて黄金町駅方面にある大衆ステーキハウスのチェロキーへ行く。

肉を胃袋へ納め、気分良く街を闊歩する。
帰り道自転車が無いと不便なので、以前買った自転車へ寄った。

「おじさん、また自転車買ってもいいですか?」
「あれ、前のはどうしたの?」

「盗まれちゃったんですよ」
「あれま! 盗難届は出したのかい?」

「面倒なんでいいです。またおじさんのところの売上に貢献しに来ました」
「何だか気を使ってもらって悪いなあ」

オガワ屋サイクルのおじさんは、鍵やチェーンなどをサービスでつけてくれた。
自転車新宿トモ三号誕生。
今日からこれでブイブイ言わせてやる。

俺はフェイスブックに詳しくは書かず、簡単な投稿だけしておく。



今日から生活スタイル二ヶ月ほど変わります。

なので、お昼はチェロキーチェロキー!



そのまま福富町へ向かい、店に行く。
中へ入って驚いたのが、ほとんど内装が仕上がっていた事。

三田も業者にどれだけ無茶をさせたのかと、今さらながらヤクザなんだなと実感した。

「あれ、岩ちゃん来てくれたんだ!」
雅も店にいて笑顔で近寄ってくる。

「久しぶり、ビンさん」
「何よ、ビンさんって?」

「雅んのビだけ取ってビンさん」
「ちょっとやめてよー。何か凄い変な人みたいじゃないのよ」

「あ、あのさ、今日ね、もう一人女の子の従業員ここに来るのね。葵って子。その子が来たらさ、店で使う用の制服というかまあワイシャツになるのかな? ビンさんのセンスで揃えてきてよ」
「えー、ワイシャツー? 窮屈そうで嫌だなー」

「駄目! 従業員の服装はキチンとさせるから。慣れればそんな苦じゃないからさ。ビンさん、きっとワイシャツ姿も似合うよ、絶対に」
「え、そう?」

「うん、できるキャリアウーマンみたいにみんな見ると思うよ」
「へー、じゃあ格好いいワイシャツ探してくるねー」

「ビンさんはさ、葵が来るまでの間、俺が必要なものをメモしておくから、百円ショップ行って買い物お願いしてもいい?」
「えー」

「頼むよ。俺はこれから三田さんが中村カズって子を連れて来るから、一から仕事を教えなきゃいけないんだよ。これだってビンさんが私の顔立ててよって最初に言ったから、俺表の商売をあえて休んでここへ手伝いに来たんだからね」

「そっかー。岩ちゃん、ほんとありがとねー。今度お礼するからさー」
「へえ、どんな?」

「うーん、どうしようかな~……」
「一回さ、パンストビリビリに破かせてよ」

肩を軽く叩いてくる雅。

「馬鹿じゃないの、このスケベ! もう買い物行ってくるからね」

単純な雅は扱いやすい。

入れ替えで三田が舎弟を連れて店に入ってくる。
おそらくこの男が中村カズだろう。

見た感じかなり若い。
まだ二十代前半か?

「岩上さん、紹介します。舎弟のカズですわ。もう一人のカツは明日連れて来ます」

「分かりました。カズさんですね? 岩上と申します。この度店を手伝う事になったんで、一緒に盛り上げて三田さんの顔を立てましょう」
「よろしくお願いします!」

「いいか、カズ。岩上さんの言う事をよく聞くんだぞ? 岩上さんの言う事は俺が言う事と同じだからな?」
「はい、分かっています!」

真面目そうな感じで良かった。
まだいくらでも調教しようがある。

続いて葵が入ってきた。

雅が戻ったら一緒に制服を買いに行く事を指示して、カズと葵にディスペンサーの操作の仕方を教える。
一人はまだだが、ヤクザ者二人にキャバ嬢、ヤクザ女と俺の混成チームで、この店の開店へ臨む。

「岩上さん、店の名前どうします?」
「三田さん的に希望ないんですか?」

「うーん…、あ、この店舗、前は飲み屋だったみたいで、入口にハッピーって店名残ってますやろ? そのままでもいいんじゃないでしょうか?」
「ハッピーですね? ちょっとお待ち下さいね」

俺は店のパソコンのフォトショップを立ち上げ、店の簡単なデザインを作ってみる。

「ちょっと簡易的に作らせてもらいましたが、こんなんでどうでしょうか?」
「凄いやないですか、岩上さん! ほんま何でもできるんやなあー」

昨日の段階で、店のパソコンへアドビ系ソフトをインストールしておいて本当に良かった。

遅くまでカズへインカジとはどういうものかの説明をして、この日を終える。

三田主導のインターネットカジノ『ハッピー』。
明日は店の掃除を女連中にさせて、俺はカズを使えるように仕上げる。

「あれ、岩上さん、帰らないんですか?」

「店の利用規約とか、〆をするようのエクセルの数式表とか、色々作り物があるんですよ」
「岩上さんがこの店の要なんですから、あまり無理せんといて下さいよ?」

「大丈夫ですよ。この店を横浜一にする為にやっている事ですから」

妙にワクワクしている自分がいた。


翌日の十八日。
店内の印刷物を作っていて朝方まで掛かってしまった。
ほとんど眠れる時間が無いまま店へ向かう。

昼過ぎに店へ集合すると、雅と葵には店内の清掃を指示。
俺はカズへ昨日のおさらいとシステム的な事を説明する。

ドアが開き、見覚えのあるヤクザカップルが入ってきた。

「頑張っているねー、雅」
「久しぶりー!」

「これね、お店にプレゼント」
「あら、胡蝶蘭じゃないの」

さすがヤクザ直営店だけはある。
俺も丁重にお礼を述べ、入口横にある棚の上へ飾らせてもらう。

フッ…、乙女座の俺には胡蝶蘭がお似合いさ

雅へ胡蝶蘭を持ったままお道化て言うと、呆れた顔で「ほんとあんたって馬鹿ね」と冷たくあしらわれる。

「ねえ、ちょっと打ってってもいい?」

ヤクザカップルが言うので、三田へ確認を取り、見切り発車ではあるが店をオープンさせた。
まだシフトすら作れていないのに、急過ぎたな……。

まあ動き出したのだ、やるしかない。
俺は隣りについてカズへキャッシャーのやり方を説明しながら教える。

「ねえカズ、INやOUTの理屈や入れ方分かった?」

「な、何となくですが……」

「俺さ…、ほとんど睡眠昨日から取れていないし、今日から遅番での仕事もやるようだから、空いている個室で仮眠取ってもいい?」
「どうぞどうぞ! 休んで下さいよ!」

「でも、分からない事とかトラブルあったら、無理やりでも起こしてね」
「分かりました!」

俺はカップルシート用に作ってある一卓の個室へ入ると、泥のように眠った。

「ねえ、岩上さん、起きて! 起きてよー!」

身体を揺すられ目を覚ますと、葵の顔が目の前にあった。

「ん、どうした?」
「冷凍食品ね、お客さんが食べたいって言うからチンして出したら、固過ぎるって怒ってるの。ちょっと来て」

寝起きでイマイチ頭が働かない。

冷凍食品が固い?
どういう事だ?

ホールへ出て七卓へ向かう。
見ると下陰さん時代の二階の店によく来てくれたシャブの販売人のテツがいた。

「あら、テツさんお久しぶりです」
「おー、久しぶりだなー、お兄さん」

「テツさん何かあったんですか?」
「いやさ、このナポリタン見てよ」

プラスチックのフォークで刺しても刺さらないぐらいの固いナポリタン。

「……。すぐ新しいのと取り替えますね! 少々お時間下さい」

冷凍のままという訳でなく、電子レンジにかけ過ぎてカチカチに麺が固まっているのだ。

「大丈夫だった?」
葵が心配そうに聞いてくる。

「まあ知り合いだったからね。ところでこのナポリタン、誰が作って持ってったの?」
「私だよー」

「あのさ、葵ちゃん…、電子レンジで何分チンしたの?」
「よく分からないからつまみをグイって捻ったの」

え、ちょっとヤバくないか、この子……。

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