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闇 466(サンロードに過去あったニチイ編)

闇 466(サンロードに過去あったニチイ編)

2026/02/01 sun
前回の章


二千十九年九月一日、日曜日仏滅、二百十日。

日が変わり九月になった。
誕生日まで二週間を切った俺。

ラッキーハウスの仕事を終え、休みに入る。
いつものように飲みに誘ってくる山ゴネス。

「行かないよ、真っ直ぐ帰る」
「西武新宿のところに一軒め酒場ができたんすよ」

「あれだろ? 激安で評判な店」
「そうですそうです」

横浜の激安居酒屋『楽』とは全然違う別物なんだろうな。

少しだけ興味を覚えた俺は山下へ聞いてみる。

「どうせ歌舞伎町だからショボい店なんだろ?」
「でも養老乃瀧が元みたいですよ」

養老乃瀧…、以前川越にもあったっけ。
どうしてもあの店で思い出すのは松本美紀と牛丼。

二十歳になった時、仕事で美紀と同じ場面になる事があった。
帰り道俺は一緒に飲まないかと誘い、酔った美紀の唇を奪う。
何度もキスをして初めて勇気を出せた。

あの時の店が、中央通りにあった養老乃瀧。
とっくに潰れ、今では無くなっている。

そして俺が社会人になる前…、もっと子供の頃。
牛丼の走りは吉野家ではなく養老乃瀧だったのだ。

キン肉マンの連載初期の牛丼。
あれは養老乃瀧の牛丼だった。
まだ松屋もすき家も無かったあの時代。

「まあちょっとだけ寄ってみるか」
「行きましょうよ」

2019/09/01 新宿 一軒め酒場メニュー

確かに普通の居酒屋よりは安い料金設定。
メニューに養老牛丼まであるのには笑ってしまった。

2019/09/01 新宿 一軒め酒場

まあこの店に俺がハマる事もないだろう。
二軒目を促す山下を無視して川越へ帰る。

夜までゆっくり睡眠を取ると、ゆっくり風呂へ浸かった。
その際、眉毛を整えようとカミソリで剃っていると、手を滑らせ瞼の横を切ってしまう。

2019/09/01 川越自宅 俺

鏡で見るとすぐ血で傷口付近が赤くなる。
あと一センチズレていたら、眼球だったのかよ……。

相変わらず馬鹿だな、俺は。
まあもうじき四十八歳になるのだ。
こんなところに傷が残ったところで大した問題ではないが。

風呂から出ると、肉でも食べようかと外へ出る。
本川越駅近くの焼肉『牛繫』へ向かった。

以前はオリジン弁当のような店『若菜』だった。
牛繁へ入り、若菜がいつ頃までやっていたかを調べてみる。

2019/09/01 川越 牛繁

「……」

二千十五年の七月一杯で閉店したという事は、俺が新宿のクソヤクザの二階のゲーム屋で地獄を味わっている頃まで経営していたのか。

組長の新庄が二千万円の金を使い込んで飛んでしまい、俺があのゲーム屋の権利を押し付けられたあの頃。
何であの時引き受けてしまったんだろうな……。

七輪の上に肉を乗せながら、馬鹿だった四年前を振り返る。

2019/09/01 川越 牛繁

もうあんな地獄のような日々だけは絶対に繰り返してはいけない。
インカジ新宿クレッシェンドに続いてあのゲーム屋で、俺の人生は本当に詰み掛けたのだ。

2019/09/01 川越 牛繁

秋田を殴り百十万を強要された俺。
酒井さんがあの時百万円を貸してくれなかったら、本当にどうなっていっていたのか。

そう考えると俺はまだまだラッキーハウスで懸命に働き、あの時の恩義をしっかり返さないといけない立場なのだ。
こんな事を考えながらも写真を次々要求してくるひろみの存在が少し鬱陶しく感じた。

焼肉を食べ終わると、向かいにある大漁丸へ寄る。

2019/09/01 川越 大漁丸

「おう、岩ヤン毎度。あれ、目のところどうしたの?」
「風呂場で眉毛整えようとしたら、カミソリで切っちゃったの」

「危ねえって! あとちょっとで目に言ってんじゃん」
「まあ気を付けるよ。それより篠ヤン、ウイスキーのロックに青りんごサワーちょうだい」

酒を注文し、大漁丸のメニューを眺める。

2019/09/01 川越 大漁丸メニュー

何も頼まないのも失礼だよな。
肉をたくさん食べたあとなので、サラダとホッケの塩焼きを注文。

2019/09/01 川越 大漁丸サラダ

「岩ヤン最近競馬とかどうよ?」
「いや、それが不思議と落ち着いているんだよね」

「嘘だあ。あれだけギャンブルにハマっていた男が」
「いやいや、本当だって。最近はやっていないんだよ」

俺はそれを証明しようと、ひろみとのやりとりを軽く見せる。

「凄い写真の量だな…。どうやってこの子と知り合ったの?」
「アイノー皇帝って携帯ゲームあってさ、そこで仲良くなったの」

「へえ、この辺の子?」
「いや、九州の福岡」

「え、それじゃ会えないじゃん」
「そうなんだよね。まだ一度も会っていない」

篠崎と会話をしつつ、同時進行でひろみとのチャットのやり取り。
中学時代の同級生の店に来ている事を説明すると、ひろみはさらに色々な写真を見たがる。

大漁丸を出て、少し先に岩上整体があった事を説明すると跡地の写真まで欲しがる始末。
こんな不動産の店の写真を見て何が楽しいのやら。
ちょうど整体の向かいにいつも出勤する時通る駅ビルのぺぺがあるんだと、整体だった位置から撮影。

2019/09/01 西武新宿線 本川越駅PePe

もうちょっと岩上整体を頑張っておけばなあ……。

俺はいつの時代でも判断ミスをし、常に失敗ばかりしている。
中央通りに入り、途中にある民芸品のお土産屋『つちかね』の前を通ったので撮影。

2019/09/01 川越 民芸品つちかね

一度も店内に入った事はないが、こんなものでもひろみは喜ぶ。
観光客や外国人じゃないと、用が無いような店だった。

本川越駅から家まで五分程度。
こんな道のりで彼女へ撮るような風景などもう無いと伝えても、まだ見たがる。
俺は過去、子供の頃あったデパートのようなニチイの話をした。

デパートだったのか何なのか?
デパートにしては三階だか四階までしかなく、今のクレアモールがまだサンロードまたは新富町商店街だった頃、存在感を示したニチイ。

ニチイの入口横には今でいう小さいキャンピングカーみたいな
ホットドック屋があり、変わっていたのがハンバーグドックも売っていた。

子供の時だからさ、覚えているエリアはもちろん特定はされている。
地下が多分食料品売り場だったと思うけど、エスカレータで降りると右手(ニチイ入口側)に小汚いカウンターだけのラーメン屋。
負け犬が座って食べるような小さい店が並んでいたのは覚えている。

ひろみはどんな店があったのかしつこく聞いてきた。
まだ小学生の頃だ。
俺は続きを話す。

いや、それがさ幼過ぎて、その小汚い店の群れに一度も入った事ないんだよ。
だから覚えていない。

ラーメン屋だと思うんだよね。
そこでエスカレーターから降りる時見た景色はまた不思議な光景でね。
普通食べている人ってみんな楽しそうな表情でしょ?
それなのにみんな暗い顔して麺を啜っているのを覚えている。

だからラーメン屋とか、隣りは定食屋だったかもしれない。
でも全部カウンター席のみの、小さい店ばかり。
用が無いから二回くらいしか地下には行った事ないんだよ。

一階とか二階は服とか売っているから、多分そのフロアに出た事すら無い。
ただ二階へ行く時かな?
エスカレーターを上った先に、細長くクソ狭い喫茶店があったのは覚えている。
ショーウインドーにクリームソーダとか飾ってあってさ、偽物の。

それで三階が意地悪なジジババがいたゲームコーナーがあるんだよ。
そのフロアーの一角だけ。
あ、何となく思い出してきた。
多分ニチイは四階あったはず。
何故なら二階に行ったところにクソ狭い喫茶店があって、
三階へ行くと逆側になるでしょ?
…で、四階に行くと、出たところに『半額堂』という
関西弁の胡散臭いオヤジがいたんだよ。

ゲームコーナーはその対面にあった。
それでインチキ臭い半額堂とゲームコーナーで、そのフロアーのまだ半分。
じゃあ残りは?というとテナントも何も入っていないほど
人気が無かったんだろうね、ニチイは。
ゲームコーナーの奥に卓球台が三台くらい置いてあった。

ニチイ自体はそれで終わり。
屋上なんて洒落たものなんてない。

デパートだったのかすら分からない。
普通さ、デパートって人でごった返すじゃん?
ニチイって常に閑散としていて、笑顔の大人が一人もいない感じ。

たださ、たまに夏になると、卓球台どかしてパテーションで区切ってさ、人を小馬鹿にしたような
『お化け屋敷』をやるんだけど、俺はそこへ客が入ったの一度も見た事がない……。

川越祭りだとね、ピープルランドのあった連繋寺の境内に、今でも毎年祭りだけの為にお化け屋敷あるのね。
あんなんじゃない。
もうね、小学校低学年でも馬鹿にしてんのかってイライラするようなどうしょうもないお化け屋敷があった。

そもそも誰もそんな陳腐なものに興味がない。
ゲームをしててたまたま視界に入るから、また馬鹿な事やってんなと子供心ながら思った程度。
同級生も誰も、あんなところ入った事も無ければ、話題にもしない。

ゲームコーナーのジジババのほうがよほど怖かったよ。
一応さ、ガキでも俺たちは客だよ?
それなのにさ、いつも年中イライラしてて、眉間に皺寄せてんの。

ゲームにお金詰まってクレジット入らないと言いに行くと、それだけで不機嫌になってさ、台をバンバン叩くだけ。
そんなのさ、子供にだってできるじゃん。

最大の闇、半額堂について話すよ。

もうさ、胡散臭いんだよ、あのオヤジ。

俺の実家の目の前って映画館のホームラン劇場があった。
映画観るのに俺は一円も払った事がない。
そのぐらい可愛がられていたんだ。

だからたまに小遣いほしさにさ、映画館のおじさんに、昔のポスター頂戴って行くと、映写室の奥にあった倉庫に連れてってくれて、好きなだけポスターくれたの。

まあ遠慮はするからさ、一回で多くて三本の丸まったポスターもらう訳。
それをさ、小遣い稼ぎで半額堂へ売るに行く訳よ。

半額堂って古本とか玩具とかレコードとか色々打っててさ、ポスターを一枚五十円から人気映画だといいやつだと最大二百円で買ってくれるの。

そこの半額堂のオヤジが外見も胡散臭くてさ。
細いタレ目でさ、口元にうっすら胡散臭い髭が生えててね、子供相手なのに「関西人は時間と銭が命やでー」と言いながら小学校五年生の俺に向かって手を出して、「役に立つ話しとるんだから、金払いなはれ」とか抜かす屑。

怪獣ブースカって知ってる?
あれの版権取ったとかで、一回何かの雑誌に載っているの見せてきた。

たださ、このオヤジそれだけじゃないんだよ。

俺の親父ってさ、金持ちの人のいいボンボンってだけなんだよね。

…で、昔は家の金好きなように使ってF1みたいなレースあるじゃん。
あれを道楽で乗り回して「俺は国際B級の免許を持ってる」とかね、レースの写真を部屋に飾っている訳よ。
だから色々なものがコレクションで親父の部屋にはある訳。

ある日さ、半額堂のオヤジにそそのかされたの。
「もし僕の家にレコードとかあるなら高く買うよ」と。

俺さ、目先の金に釣られて親父の部屋へ侵入し、レコードのLPある棚の
場所を知っていたからさ、毎日二枚ぐらい抜いて売りに行ったの。

そしたらさ、一枚のLPを二百円でしか買わないの。
ポスターが二百円なのに、何でレコードも二百円なんだと不思議におもったけど、まだ幼いから小銭の魔力には勝てない。
仕方なく持っていったものを言い値で買い取られていた。

しかも「ビートルズの海賊版なら高くかうで」と言うからさ。
ある日親父にビートルズの事をさり気なく聞き、海賊版LPがあるのを知った訳よ。

それでいつもどうせ夜は遊び歩いているから、家探ししてビートルズ海賊版のLPを半額堂に売りに行ったら、「こりゃええわ。ほら」と五百円しかくれなかったの。

次の日半額堂行くと、二万円で売ってんだよ。
だから返せと言ったら「もう買ったんやかわ、ワイのもんやで」と
返してくれなかったの。

何で俺は休みの日に焼肉と酒を飲みに行った帰り道、こんな小学生の頃の思い出話をしてクレアモールで立ちながらチャットをやっているんだ?
そう文句を言うと、ひろみはまだ続きを聞きたがるので仕方なくその場で続けた。

それでさ、ポスター代とかLP代が向かいのゲームコーナーのジジババへ行く訳よ。
フロントライン三十円とか、ジャンプバグ三十円とかで、細かく刻まれてニチイに吸い込まれていくのよ。

…で、ある日さ、スカスカになったレコードの棚に親父が気付き、グーで殴られ泣いた。
まあこれは俺が悪いからしょうがないんだけどね。

『もうそのニチイって無いの? ひろみ』

仕方なく俺はニチイについて調べてみるも、写真はインターネット上で一枚も見つからない。
かろうじてウィキペディアに、当時のニチイグループの簡単なまとめだけ発見する。

千九百六十二年(昭和三十七年)十一月二十七日開店。
千九百八十九年(平成元年)二月閉店。
多分平成元年だから、俺が高校生だよね?
たださ、この頃は呆れて行っていない。
ニチイが無くなったあとさ、半額堂は川越駅西口の線路沿いの雑居ビルの四階だったかな?
そこに引っ越して、今度はゲームと玩具だけに絞り、もっと手狭な店舗になった。
エレベーターなんてない手狭な階段しかなくてね。

若い頃金に困り、一本二万円ぐらいしたネオジオのロムを売りに行ったら「これは買い取れまへんな」と買い取ってくれなかった。
何年か前にそのビルも取り壊され、今はもう全然分からない。

この川越駅西口の雑居ビルにあった階は違うけど、パソコン会社に当時まだ俺と知り合う前の坊主さんが働いていた。
そのパソコン会社は半額堂よりも早く潰れ、プー太郎になった坊主さんは当時十九歳だった俺と年中つるんでいたという訳。
そこから俺がパソコンや小説を始めるまで、まだ十数年経たないといけないけど。

『今はその建物何になっているの? ひろみ』

俺は目の前の湯游ランドを撮影して送る。

2019/09/01 川越 湯游ランド

ニチイが潰れたあと、OKというスーパーができたけど、そこもすぐ潰れ、一階はブックオフ、それ以外は湯游ランドという健康ランドとホテルがくっついた施設ができ、それは今も変わっていないと説明した。

確かにひろみへこうして説明する機会がなければ、思い出す事もなかったであろうニチイ。
これはこれで貴重な休みの使い方をしているのかもな。

途中で返事がなくなり彼女が眠ったのが分かると、俺も家に帰りまた眠った。


二千二十九年九月二日、月曜日大安。

目を覚ますと昼手前。
中央通りにあるレストランシブヤへ向かう。

2019/09/02 川越 レストランシブヤ

定番のナポリタンとランチを注文。

2019/09/02 川越 レストランシブヤ ナポリタン

パルメザンチーズをどっさり振り掛け麺に絡める。
タバスコは少々。

2019/09/02 川越 レストランシブヤ ランチ

今日のランチの付け合わせの一品は焼売だった。
トンカツと串カツにソースを掛け、抜群に旨い酢豚を満足気に胃袋へ納める。

シブヤを出ると、隣りの和菓子伊勢屋へ入った。

2019/09/02 川越 伊勢屋

「あ、智一郎君、お団子食べる?」
「今、シブヤさんでランチとナポリタン食べてきたばかりですよ。あ、これ弘惠さんへランチのお土産です。持ち帰りで作ってもらったんですよ」

「え、いいのー?」
「ええ、弘惠さんを太らせる会の会長の責務がありますからね」

「やだー、やめてよー」
「始さんは見えないですけど、配達ですか?」

「そうなのよ」

伊勢屋内で世間話をしながら、ひろみのチャットが届く。
俺は写真を撮り彼女へ送る。

「何々? 智一郎君の彼女?」
「別に彼女って訳じゃないですよ」

ひろみとの関係を簡潔に説明しながら、そろそろ九州へ行けばもう抱けるんじゃねえかと考えていた。
近々橋本に話して連休を何日かもらい、福岡まで旅行なんていうのもいいかもしれないな。

伊勢屋を出ると、そのまま真っ直ぐ歩き熊野神社へ入る。
普段なら絶対に行かない場所だ。

2019/09/02 川越熊野神社 むすびの庭

幼少の頃とはすっかり変わった神社。
むすびの庭という観光客向けの占い紛いな変な玉のあるところや、銭洗い弁天というちょっとした池まで作る始末。

2019/09/02 川越熊野神社 銭洗い弁天

この池の塀の裏にはかつてエロ映画館『にっかつ』があったのを知るのは、この辺の地元民だけだろう。
何も知らない観光客は、熊野神社へ楽しそうに参拝しに来る。

昔はここでサッカーをしている俺たち子供しかいなかったような場所だったのが、人集めという面では大成功の熊野神社。
川越の闇は深い。

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