Red Hot Chili Peppers《Soul To Squeeze》を訳す:赦しとファンクが交わる場所で
#1. 橋の下の、その先へ
ロサンゼルスに何度か訪れたことがある。
誰もが憧れる “City of Angels”。
《Under The Bridge》の和訳記事でも記載したが、表通りを外れたその裏側には、どこか人を拒むような瘴気が漂っていた。
あの路地には「入るな」と言われる前に感じる「直感的な拒絶」があった。
【《Under The Bridge》の和訳記事はこちら】↓
私に路地裏へ立ち入るのを拒ませた《Under The Bridge》が「懺悔」だとすれば、《Soul To Squeeze》は「祈りの続き」。
橋の下から立ち上がり、ゆっくりと街を歩き出す男の、「もう一度、生きてみよう」という静かな呼吸の歌である。
【《Soul To Squeeze》公式MV】
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#2. BSSMからこぼれ落ちた「続編」
《Soul To Squeeze》は名盤《Blood Sugar Sex Magik》(BSSM)制作時に録音されながら、アルバムには未収録となった。
だが映画《Coneheads》のサウンドトラックで再評価され、後年のベストアルバムの一角にも選ばれた。ファンダムでも人気の一曲である。
【《Blood Sugar Sex Magik》名盤批評記事はこちら】↓
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アウトテイクになった表向きの理由は、「曲数とバランス」だったと言われている。
BSSMには既に《I Could Have Lied》《Under The Bridge》の収録が決定しており、これ以上バラードを入れるのはアルバム全体のトーンバランスが悪くなると判断したらしい(※)。
※プロデューサーのリック・ルービンは「最高の曲だから絶対に入れたほうがいい」と強く勧めたそうだが、結局はアウトテイクに。
なんと贅沢な判断。
後にジョンやフリーは後悔したとのこと。
だが私は、アンソニーがあえてこの曲を外したのではと考えている。
《Under The Bridge》で告白した「痛み」。
それをあのアルバムの中で完結させたくなかったのではないか。
I got a bad disease
Up from my brain is where I bleed
(ひどい病気にかかってしまった
脳から血が流れ出るんだ)
“disease” と “bleed” が並ぶこの曲の開幕。「心の傷」を病気として語る自己認識の気付きだ。
《Under the Bridge》で「血を抜いた」と歌った彼が、今度はその血をまだ流している。
懺悔の余韻が、まだ止血できていない。
本曲は、「ヘロイン中毒者による、橋の下の孤独の独白」の精神的続編なのだ。そう考えると歌詞の辻褄が合いすぎる。
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#3. ファンクの赦し:チャド・スミスのドラムが救う
《Soul To Squeeze》は完全無欠の「バラード曲」だが、単なる静かなトラックで終わらない理由は、明らかにチャド・スミスのドラムにある。
ゴスペル感のあるゆったりした曲調の中で、異質なほどにファンキーなのだ。
ハイピッチに張られたスネアによるスリップビート、ビシッと跳ねるハイハットにフィルイン、隙間にそそくさと入り込むゴーストノート。
それはまるで、「もう一度リズムに戻りたい」と願うリハビリ中の心臓のようだ。
はっきり言って、このグルーヴがなければ本曲は「ただの名バラード」で終わっていただろう。
チャドはドラムだけで作曲レベルの貢献を成している(まあ実際作曲クレジットには彼の名前も入っているのだが)。
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Where I go, I just don't know
I got to, gotta, gotta take it slow
(どこへ行くのか分からないよ
ゆっくり、ゆっくり行かなきゃ)
この “take it slow” が曲全体を支配している。
アンソニーの歌声も、フリーのベースも、焦らず、だが止まらず。
The angels in my dreams, yeah
Have turned to demons of greed, that's mean
(夢の中の天使たちは
欲塗れの悪魔だったんだ なんて醜い)
それはまさに「ファンク=肉体の祈り」の在り方だ。一度は欲望の悪魔に魅入られ、痛みを抱えた身体が、もう一度踊ろうとしている。
It's bitter baby and it's very sweet
A holy rollercoaster but I'm on my feet
(ああ辛いことだけど とても甘い
まるでジェットコースターみたい
だけど僕は立ち上がってる)
ここに、Red Hot Chili Peppersというバンドの本質がある。
痛みを踊りで中和する。
悲しみを隠さず、笑いにも変えない。
そのままの形で、グルーヴに変える。
チャドのスネアが跳ねるたびに、アンソニーは少しずつ「人間」に戻っていく。
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#4. 詩の核心:「忘れようともしない」ことの優しさ
I could not forget but I will not endeavour
(忘れられないけど、忘れようともしない)
この一行に全てが詰まっている。
彼はもう無理に克服しようとはしていない。
ただ、受け入れている。
それは美しい諦めとも、後ろ向きな前進とも呼べる。痛みを抱えたまま、それでも橋の下からは抜け出している。
《Under The Bridge》が「懺悔」、《Sir Psycho Sexy》が「肉体の過剰」だったとすれば、《Soul To Squeeze》はそのふたつを赦しのリズムで統合した歌だ。
When I find my peace of mind
I'm gonna give you some of my good time
(心の平穏を見つけたら
少しだけ楽しい時間を君に捧げるよ)
この「君」は恐らく恋人ではなく、「生きること」そのもの。過去の自分を赦し、街をもう一度愛する。その穏やかな決意が、全体を包む。
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#5. 結論:懺悔から再生へ
《Under The Bridge》は血と孤独の歌だった。
《Soul To Squeeze》はその翌朝の祈りとなる。
涙は乾かない。傷も癒えない。
それでもチャドのスネアは軽やかに跳ね、
フリーのベースは地を這い、
ジョンのギターは美麗にうねり、
アンソニーの声は穏やかに揺れる。
ファンクとは、痛みを抱えたまま生き延びるための音楽。RHCPはそれを体現してきた。
この曲のタイトルは、「一度魂を握りつぶされた者」が「魂を絞り出して生きる」という祈り。
それは「忘れようともしない者」だけが知る、静かで暗い幸福の音だ。
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●参考付録:筆者による訳詞と原文の対比
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●筆者による日本語訳
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ひどい病気にかかってしまった
脳から血が流れ出るんだ
まるで狂気さ
魂を握り潰されて
愛を全部
枯れ行く木々に叫ぶ
夢の中の天使たちは
欲塗れの悪魔だったんだ
なんて醜い
どこへ行くのか分からないよ
ゆっくりゆっくり行かなきゃ
心の平穏を見つけたら
少しだけ楽しい時間を君に捧げるよ
今日は愛が微笑んだ
僕の痛みを取り去り
お願いだと言ってくれた
君の旅を自由にさせてあげるよ
君はそうするしかない
ああそうさ
どこへ行くのか分からないよ
ゆっくりゆっくり行かなきゃ
心の平穏を見つけたら
少しだけ楽しい時間を君に捧げるよ
なんて礼儀正しいんだ
必要なものはすべて手に入れた
僕の日々を楽にしてよ
僕の自滅を防いでよ
ああ辛いことだけど
とても甘い
まるでジェットコースターみたい
だけど僕は立ち上がってる
川へ連れて行ってよ
君の岸辺へ行かせてよ
さあ また戻ってくるさ
ねえ 戻ってきて
ああもう ああ もう めちゃくちゃだ
忘れられないけど
忘れようともしない
単純な喜びの方がずっといいけど
後悔はしない
決して
どこへ行くのか分からないよ
ゆっくりゆっくり行かなきゃ
心の平穏を見つけたら
少しだけ楽しい時間を君に捧げるよ
どこへ行くのかわからないよ
もしかしたらメキシコのどこかかも
心の平穏を見つけたら
終わりの時までとっておくつもりさ
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●歌詞原文
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I got a bad disease
Up from my brain is where I bleed
Insanity it seems
Has got me by my soul to squeeze
Well all the love from me
With all the dying trees I scream
The angels in my dreams, yeah
Have turned to demons of greed, that's mean
Where I go, I just don't know
I got to, got to, gotta take it slow
When I find my peace of mind
I'm gonna give you some of my good time
Today love smiled on me
It took away my pain, said please
I’ll let your ride be free
You gotta let it be, oh yeah
Where I go, I just don't know
I got to, gotta, gotta take it slow
When I find my peace of mind
I'm gonna give you some of my good time
Oh so polite indeed
Well I got everything I need
Oh make my days a breeze
And take away my self destruction
It's bitter baby and it's very sweet
A holy rollercoaster but I'm on my feet
Take me to the river, let me on your shore
Well, I'll be coming back baby, I'll be coming back for more
Doo doo doo doo dingle zing a dong bone
Ba-di ba-da ba-zumba crunga cong gone bad
I could not forget but I will not endeavour
Simple pleasures are much better, but I won’t regret it, never
Where I go, I just don't know
I got to, got to, gotta take it slow
When I find my peace of mind
I'm gonna give you some of my good time
Where I go, I just don't know
I might end up somewhere in Mexico
When I find my peace of mind
I'm gonna keep for the end of time
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