Red Hot Chili Peppers《Under The Bridge》を訳す:天使には感情がない。都市に殉じた男の祈り
#1. はじめに:「祈りの跡」は橋の下にあった
ロサンゼルスという街には独特の瘴気がある。
どれだけ陽射しが強くても、観光地という煌びやかな衣を纏っても、どこかに暗い影が潜んでいるように感じる。
私も何度かLAを訪れたことがある。
当然「海外の都市で路地裏には入るな」という常識を知ってはいる。
だが、それを知らなかったとしても――恐らく、本能的に歩みを止めていただろう。
あの街の細道には、それだけ近寄りがたい空気が漂っていた。
今思えば無意識の内に、この曲が私の脳へ危機管理のフィルタをかけていたのかも知れない。
RHCP《Under The Bridge》。
ヘロイン中毒者の回顧と祈りという「稀な」体験を通し、多くの人が共感するであろう「都市の孤独」にまで昇華した、悲しくも美しいアンソニー・キーディスの自分史。
【《Under The Bridge》公式MV】
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#2. 孤独と都市の、穏やかで危険な共依存
この曲がリリースされた1991年、アンソニーは既にヘロインを断っていたとのことだ
(ジョン・フルシアンテの1回目の脱退後、また打っていたようにも思うが)。
だが、その過去は「彼の中」ではなく「街の中」に残っていたのだろう。彼の唯一の友、そして恋人。それが「天使の街」ロサンゼルスだった。
Sometimes I feel like I don't have a partner
Sometimes I feel like my only friend
Is the city I live in, The City of Angels
Lonely as I am, together we cry
(時々思う 僕には仲間なんていないって
唯一の友は「彼女」
僕の住む天使の街だけ
どんなに孤独でも
僕たちは一緒に泣ける)
アンソニーはロサンゼルスを “she(彼女)”として語る。孤独な自分を映し出す鏡として、LAという都市に心を託した。
「彼女」は彼の罪も、善も知っている。
それがまやかしだとしても、天使は彼を裏切らないのだ。
I drive on her streets 'cause she's my companion
I walk through her hills 'cause she knows who I am
She sees my good deeds and she kisses me windy
(「彼女」の街を車で走る
「彼女」は相棒だから
「彼女」の丘を歩く
「彼女」は僕をよく知ってるから
「彼女」は僕の善き行いに
風のようなキスをしてくれる)
この部分で描かれるのは、歌詞の語り部=アンソニーと「彼女」の蜜月の関係。
ただし。
天使には感情がないというのもまた定説である。
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#3. 「嘘でもいい」生の自己欺瞞
I never worry, now that is a lie
(心配事は何もないさ それは嘘だ)
この一行は、彼の「生への執着」の象徴だ。
不安は消えていない。でも、それでも「大丈夫」と言わなければ生きられない。この矛盾こそが、普遍的な人間らしさそのものだ。
RHCPの曲は、常に「肉体と精神の同居」「矛盾を受け入れる二重思考」を描いている。
華やかで熱っぽいファンク・グルーヴの下には、いつも傷ついた人間の呼吸がある。
I don't ever wanna feel like I did that day
Take me to the place I love, take me all the way
(あの日のような気分は
もう二度と味わいたくない
僕の愛する所へ
どこまでも連れて行ってくれ)
サビの歌詞。
都市を愛しながら都市の中で苛まれた記憶。
まるでDVの果ての共依存のようだ。
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#4. 「橋の下」という聖地と呪い
Under the bridge downtown
Is where I drew some blood
Under the bridge downtown
I could not get enough
Under the bridge downtown
Forgot about my love
(ダウンタウンの橋の下
そこで少し血を抜いた
ダウンタウンの橋の下
いくらやっても足りなかった
ダウンタウンの橋の下
愛することを忘れた)
タイトルにもなっている「橋の下」は、語り部(=アンソニー)がドラッグを注射した場所として描かれている。
彼にとってのそこは、単なる堕落の象徴ではない。懺悔の場であり、都市と人が一体化する儀式の舞台でもあった。
Under the bridge downtown
I gave my life away
(ダウンタウンの橋の下
僕は人生に殉じた)
“I gave my life away”
この一文を私は「人生に殉じた」と意訳した。
それは単なる中毒ではなく、「愛する街に命を捧げる」ほどの依存を意味する。
そして天使とは神の使いであり、殉教とは神にその命を捧げることも意味する。
ロサンゼルスは彼を救い、同時に堕とした。
その二重性こそが、この曲の魂だ。
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#5. おわりに:都市と人の共依存としての祈り:この曲に「救い」はあるのか?
この曲を聴くたびに思う。
なんて美しい曲だと。
しかし、歌詞だけ見ればそれは「絶望の純粋培養」とでも言うべき退廃感と暗闇に溢れている。
それでも、私はこの曲に幾度も救われている。
なぜなのだろうか。
「この世界に自分は独りぼっち」
こんな、誰しもが一度は感じたことのあるだろう感覚の代弁だからなのか。
例えば、酒に酔い潰れる孤独の底でなお、「誰か/何かを愛したい」と願うこと。
そんな普遍的な祈りを、中毒者を依代にして我々に媒介しているからなのか。それが、堕落と紙一重の行為であっても。
ロサンゼルスという「彼女」の胸の中で、アンソニーは泣いている。
そして誰かが今日、世界のどこかでこの曲を聴き、涙しているのだろう。
それは痛みだけではなく、「生きていることの証明」なのかもしれない。
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●参考付録:筆者による訳詞と原文の対比
――――――
●筆者による日本語訳
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時々思う
僕には仲間なんていないって
唯一の友は「彼女」
僕の住む天使の街だけ
どんなに孤独でも
僕たちは一緒に泣ける
「彼女」の街を車で走る
「彼女」は相棒だから
「彼女」の丘を歩く
「彼女」は僕をよく知ってるから
「彼女」は僕の善き行いに
風のようなキスをしてくれる
心配事は何もないさ
それは嘘だ
あの日のような気分は
もう二度と味わいたくない
僕の愛する所へ
どこまでも連れて行ってくれ
あの日のような気分は
もう二度と味わいたくない
僕の愛する所へ
どこまでも連れて行ってくれ
誰も居ないなんて信じられない
僕が独りだなんて信じられない
でも僕には「彼女」の愛がある
街は僕を愛してくれる
どんなに孤独でも
僕たちは一緒に泣ける
あの日のような気分は
もう二度と味わいたくない
僕の愛する所へ
どこまでも連れて行ってくれ
あの日のような気分は
もう二度と味わいたくない
僕の愛する所へ
どこまでも連れて行ってくれ
愛してると言ってくれ
一度だけでも
ダウンタウンの橋の下
そこで少し血を抜いた
ダウンタウンの橋の下
いくらやっても足りなかった
ダウンタウンの橋の下
愛することを忘れた
ダウンタウンの橋の下
僕は人生に殉じた
――――――
●歌詞原文
――――――
Sometimes I feel like I don't have a partner
Sometimes I feel like my only friend
Is the city I live in, The City of Angels
Lonely as I am, together we cry
I drive on her streets 'cause she's my companion
I walk through her hills 'cause she knows who I am
She sees my good deeds and she kisses me windy
Well, I never worry, now that is a lie
I don't ever wanna feel like I did that day
Take me to the place I love, take me all the way
I don't ever wanna feel like I did that day
Take me to the place I love, take me all the way
It's hard to believe that there's nobody out there
It's hard to believe that I'm all alone
At least I have her love, the city she loves me
Lonely as I am, together we cry
I don't ever wanna feel like I did that day
Take me to the place I love, take me all the way
I don't ever wanna feel like I did that day
Take me to the place I love, take me all the way
Love me, I say, yeah, yeah
One time
Under the bridge downtown
Is where I drew some blood
Under the bridge downtown
I could not get enough
Under the bridge downtown
Forgot about my love
Under the bridge downtown
I gave my life away
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